いつもより3倍ほど活気に溢れ、賑やかな第壱中学校。


そう、今日は年に一度の文化祭であった。


日曜日という事もあって、生徒達の親兄弟から、近所の坊ちゃん嬢ちゃんおっさんおばはんじーちゃんばーちゃん達までやって来ていた。


これでは賑やかになるのも当たり前と言えば当たり前だが。





【 構成無茶苦茶妄想意味無し小説 】

ちょっとだけ帰ってきたつよいぞ!シンジ君!!

阿鼻叫喚の文化祭編







その第壱中学校内の廊下を、腕を組みながら歩いているカップルが居た。

「うぅ〜ん。なんか良いわね、この雰囲気」

ブルーの瞳を持ち、栗色の髪を靡かせている少女、アスカが笑顔で辺りを見回している。

「そうだね。前は苦手だったけど、たまには良いね。こういうのも」

黒髪に黒い瞳の少年、シンジも楽しそうな彼女の姿を見て、微笑みながら同意する。
彼らは特に計画する事もなく、適当に校内を歩いて面白そうな場所を見てははしゃいでいた。
クラス数が少ない為に自由に集まったグループで出し物が出されているので、全校生徒数の割には様々な種類の出し物が出店されていた。

「アタシね、こういうの初めてなんだ・・・
 大学は勉強ばかりしてたし、友達もいなかったから・・・」

俯いて少し悲しそうな顔をするアスカ。今にも消えてしまいそうな儚げな表情に、シンジは胸を締め付けられるような感覚を味わう。

「・・・アスカ・・・」

「でもね、」

言葉を区切り、心配そうな表情で自分を見つめるシンジに顔を向ける。
その表情には暗い翳りなど微塵もなく、生気に満ち溢れ、輝いていた。

「今は凄く楽しいよ。皆がいるし、なにより・・・がいるから・・・」

最後の方は小声になっていてシンジには聞こえなかった。

「え? なんて言ったの?」

アスカの顔を覗きこみ聞き直す。
何となく解ったけれど、アスカの口から聞きたかったから。

「もう、言わなくても分かるでしょ?バカシンジ・・・」

シンジの腕にしがみつき、耳まで赤くなった顔を隠してしまう。

「・・・アスカ・・・」

シンジは優しい眼差しで、本当は恥ずかしがり屋な彼女を見詰める。
そのまま廊下のド真ん中で二人だけの世界に入っていくバカップル。
そんな二人を周りの生徒達は『また始まったよ』と呆れながらジト目で見ていた。

既に学校でも、シンジとアスカの仲は公認になっているようだ。
ちなみにアスカは第3新東京市公認だと思いこんでるみたいだが。






「お〜い、シンちゃ〜ん! アスカ〜!!」

突然周りの迷惑を何一つ考えていないような大声が響き渡る。
シンジとアスカだけではなく、他の生徒達も思わず声のする方に目を向けてしまう。

「こっちよ、こっち!!」

見ればそこには、シンジとアスカの名ばかりの保護者兼上司の葛城ミサトが、ブンブンと手を大きく振って、アホの子供のように自己アピールをしていた。
その後ろには、腐れ縁の古い友人であり職場の同僚でもある赤木リツコと加持リョウジが恥ずかしそうに立っていた。

「・・・無様ね・・・私・・・」

こめかみに青筋を立てて、羞恥と屈辱に震えているリツコ。

「・・・葛城・・・子供じゃないんだからよ。やれやれ、だぜ・・・」

加持は呆れたように肩を竦めて呟いた。

「なぁ〜によ。こうでもしないとあの二人は気付かないわよ」

子供と言われて頭にきたのか、腕を組みジト目で好き放題言ってくれた二人を睨む。
そんなやり取りをしているうちにシンジとアスカが三人の元に辿り着いた。

「ミサトさん。それに加持さんにリツコさんも来てくれたんですか?」

「ええ。なんてったって、私の弟と妹の文化祭だもんねぇ〜。呼ばれなくても来るわよん」

腕を組みながらふんぞり返り、軽くウィンクして得意満面に微笑むミサト。

「まあ、ホントに呼ばれてないのに来たからな、今日は」

「うっさいわよ加持!」

聞こえないように呟いたつもりだが、彼女のデビルイヤーは聞き逃さなかったようだ。

「あら、リョウちゃんは事実を述べただけよ、ミサト」

「ぐっ・・・」

言葉に詰まるミサトを見て吹き出すシンジ、加持、リツコ。
そんな和やかな雰囲気の中、アスカは心の中で毒づいていた。

(なによぉ〜。せっかくシンジと二人っきりでいられると思ったのにぃ。
 ネルフはどうしたのよ、ネルフは。仕事しなさいよ、全く!)

そんな思いが顔に少し出てしまったのか、それとも、ミサトが異常に敏感なのかは定かでは無いが、彼女の表情が悪魔のようににやけた表情になった。

「あらららら〜ん? アスカちゃぁ〜ん、どうしたのぉ?浮かない顔してぇ。」

人によっては叩き殺したい衝動に駆られそうな程に腹ただしい口調で話しかけてくるミサト。

「・・・ああぁぁっ!シンちゃんと二人っきりになれなくなるからぁ?
 わぁ〜るいわねえ、邪魔しちゃってぇ。でも大勢のほうが楽しいわよぉん」

ニヤニヤと卑らしい顔をしてアスカに口撃するミサト。
その余りにもわざとらしい態度は、人を怒らす事にかけては天才的である、とリツコに言わしめた所以であろうか。
アスカは恥ずかしさと怒りとで顔を真っ赤にし、感情を爆発させる。

「そうよ!シンジと二人っきりで楽しもうと思ってたのに!!」

大声で本音を晒け出したアスカの蒼い瞳が潤む。

「ぐすっ、シンジぃ。おばさんがアタシの事いじめるのぉ」

どうしようもなく悔しくて、シンジの胸に顔を埋めて抱きついた。
アスカを優しく抱きとめたシンジは、その頭を優しく撫でながらミサトに絶対零度の視線を向けた。

「ミサトさん、今のは言い過ぎですよ。アスカに謝って下さい」

アスカの事に関してはちょっと・・・いや、かなり容赦の無くなるシンジ。
有無を言わせぬ迫力をシンジに感じ、ミサトは素直に謝った。

「ゴ、ゴメンちょ! 私が悪かったわ。ちょっと言い過ぎだったみたいね。
 シンちゃんとアスカがあんまり仲良いから、からかいたくなっただけなの!」

両手を合わせ、ペコペコとひたすら頭を下げる。
シンジを怒らせると、家でビールが飲めなくなってしまう。これは彼女にとっては死活問題である。それを防ぐためならばいくらでも頭を下げられるミサトであった。

シンジは未だに自分の胸の中で震えているアスカの頭を撫でながら、優しく声をかけた。

「アスカ、ミサトさんも反省してるみたいだし、ね?」

ゆっくりと顔を上げて、鼻を啜りながらシンジの顔を覗き込む。

「ぐすっ・・・うん。シンジがそう言うならアタシはもういい」

もう一度、ギュッとシンジの胸に抱きつく。

さっきの悲しさや悔しさが嘘のように、今は嬉しさで胸がいっぱいだから。
それを抑える必要は、今はもう無いのだ。この少年の前だけでは。

「ありがとうシンジ。アタシの為にミサトに怒ってくれて」

ポンポンと幼児をあやすように背中を軽く叩いてくれるのが気持ち良い。
油断したら、このまま眠ってしましそうな程に。

「そんな事当たり前じゃないか。アスカの泣き顔なんて見たくないから・・・」

その言葉で顔を上げるアスカ。

「・・・シンジ・・・」
「・・・アスカ・・・」

お互いの瞳を見詰め合い、再び自分達の世界に入りこもうとする二人。

だがしかし、そうはさせまいとドスの効いた郷里大輔のような低いダミ声でミサトがそれを阻止した。

「シンちゃん、アスカ。さっきのは確かに私が悪いかもしれないわよ?
 でもねえ、そういうのは二人っきりの時にしてくれないかしら?」

凶悪な顔をして二人を睨みつける。本気の殺気がヒシヒシと感じられた。
流石に生命の危機を感じたので二人の世界には行けなかったが、抱きしめ合った体は離れる事は無かった。

「あらミサト。シンジ君とアスカが仲良いからって嫉妬してるの?
 だとすれば本当に無様ね。いい年して嫉妬なんてみっともないわよ」

後ろで静観していたリツコが冷静かつ冷酷にキッツい言葉をミサトに浴びせる。
リツコもアスカ同様に、本当は優しい人なのだ。
これまでは色々なことが有りすぎて表に出す事が出来なかっただけで。
今ではチルドレン3人の事を心から見守ってくれている、信頼出来る姉の一人だ。

ギヌロッと物凄い形相でリツコに視線を向けるミサト。

「なによ!年なんて関係ないでしょ!大体、家の中だっていちゃいちゃしてんのよ?
 見せつけられる方の身にもなってよ。蕁麻疹が出るほどいちゃついてんだから!」

鼻息荒く自分がいかに苦労をしているかを理解させようとするミサト。
しかし、ムキになればなるほど滑稽であり、呆れた顔でそれを眺めるリツコであった。

「ミサトには加持さんがいるじゃない。ねえ、シンジぃ(はぁと)」

抱き着いたままのアスカがシンジに同意を求める。(まだ抱き合ってたのか)
これ以上シンジとの甘い時間にちょっかい出されるのは堪った物ではない。
何とか加持とくっつけて自分達から注意を逸らそうと企むアスカであった。

「うん、そうだね。加持さんとミサトさん、お似合いですよ」

そんな彼女の思惑とは別に、シンジは純粋にそう思っていた。

「はっはっは、ありがとう。アスカ、シンジ君。
 葛城、二人がこう言ってくれてるんだ。これで俺達も公認だな」

ニヒルな笑顔でミサトの肩に腕をまわしておどける加持。
妹分であるアスカの思惑を察し、助け船を出すために大袈裟に話に乗ったのだ。

ミサトは嫌そうな顔をしつつも満更でもない顔(どんな顔だ)をしている。
漸く自体は落ち着きを取り戻し、ほのぼのとした空気が辺りを包み込んでいた。

が、

またしてもリツコの口から出た一言が、場を凍りつかせる事になる。

「リョウちゃん。マヤだけでなく他の若い娘にもちょっかい出してるんですって?
 ネルフの中はその話題で持ちきりよ。かなり警戒されてるわね、若い女子職員に」

《ひゅるるるるぅ〜》と冷風が吹いたような気がしたとシンジとアスカは後に語る。

人間の顔とは、これほどまでに一瞬で変化するのだろうか?と思えるほどに顔面蒼白になる加持リョウジ。 普段の、クールで落ち着いた大人の男というイメージはそこにはなかった。

「リリッリ、リッちゃん。ななな、な何を言ってるんだ。お、おおお俺がいつそんな事を・・・」

思いっきり動揺して、これぞどもっている見本とも言うべき醜態を晒している。
そのみっともない姿は、誰が見ても白状しているも同然であった。

プルプルと肩を震わせて小宇宙(コスモ)を大きく燃やしているミサト。
その姿は拳王親衛隊でさえ逃げ出してしまうのでは、という迫力だった。

「・・・・加持くぅん・・・・後で話があるからぁ・・・・」

押し殺した口調で言葉を紡ぎ出す。普段お喋りなミサトだけに余計に怖い。
しかも、廊下の壁を拳でゴッゴッとゆっくりと殴っているのが不気味さを大幅に増大させている。

「かかかか葛城、話ならここで・・・・」

「学校の廊下を血で汚す訳にはいかないでしょ?ふふふふふ・・・・」

ボキボキッ、ボキボキッとケンシロウさながらに拳を鳴らして威嚇する。
最早逃げられないと悟った加持は涙を流し大人しくなった。

「・・・無様ね・・・」(ニヤリ)

あんたが余計な事言ったんだろ、とは口が裂けても言えないシンジとアスカであった。

「まあそれは後にしてシンジ君、アスカ。せっかくの文化祭なんだから楽しみましょう」

まるで少女のように穏やかな表情を向けてリツコは微笑む。
とても先程余計な発言をした人物とは思えない優しい笑みだった。

「そうね。アタシ達もどこで何やってるかっていうのはあまり知らないし、
 ・・・一緒に見てまわろうか?(不本意だけど)」

「そうだね。大勢の方が楽しいっていうのも一理あるしね」

「それじゃ行きましょ!」


学校内に詳しいシンジとアスカが腕を絡めて先頭を歩いて行く。

加持は後ろからミサトにケンカキックを入れられながら押し出されるように歩き、リツコは最後尾でそれを楽しんでいるという配置だった。


5人が談笑しながら出し物を覗き歩いていると、やかましい歓声が聞こえてきた。
何かと思い、その発生源である教室の入り口を開けて中を覗いて見ると、そこは熱狂の渦だった。

「えーと、ここは・・・プロレス同好会の出し物みたいですね」

「プロレス同好会?珍しいわね。中学校でプロレス同好会なんて」

しかしミサトはどこか嬉しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。
まるで雰囲気を確かめるように。

「面白そうだし見ていこうよ、シンジぃ(はぁと)」

絡めてあるシンジの腕を揺すり、甘えた声を出すのは勿論アスカだ。

「そうだね、活気があって楽しそうだしね」

「よっしゃあ!それじゃあいくわよ!」

なぜか気合いの入りまくっているミサトが先頭に立ち、大股でドスドスと教室内に歩を進めた。






『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

教室の中は熱気が渦巻いていた。中央に作り物にしては良く出来ているリング。
その周りを囲んで狂喜乱舞しているプロレス好き人間達が、生徒・一般人を問わずに思うがままテンションを高めていた。


「・・・凄い雰囲気だね・・・なんだか圧倒されちゃうよ・・・」

「・・・そうね・・・暴動でも起きそうな気配があるわね・・・」

初めて見る光景に絶句するシンジとアスカ。
とてもじゃないが、リング付近には近づけないので、教室の隅から眺めることにした。

「うーん、昔を思い出すな。なあ、リッちゃん、葛城」

無精髭をさすりながら、早くも雰囲気に馴染んだのだろうか、心地良さそうに微笑む。

「クックック、そうね、リョウちゃん」

「ふっふっふ、血が騒ぐわね」

「え?どういう事ですか?」

興奮して、顔を紅潮させているミサトとリツコを見てシンジは不安になる。
加持は腕を組み、どこか遠い目でリングを見詰めながら少年の問いに答える。

「ああ。俺達な、大学の時プロレス同好会だったんだよ。懐かしいなぁ」

今暴かれる三人の意外な過去だった。

「・・・そ、そうだったの・・・」

「そ、それはともかく面白いですね。どっちかって言うとショーっぽくて」

大抵のプロレス同好会の出し物は笑いを取る為の構成が多い。
ここ第壱中のプロレス同好会もその例外ではなかった。

「・・・甘いわね・・・」

リツコが眉を顰め、少々苛立ったように呟いた。
口調に危険な色が帯びているのも気のせいではないだろう。
まるで以前の冷徹な仮面を被ったように。

「ああ、俺達のは本格指向だったからな。過激すぎるって話もあったけど」

当時の事を思いだしたのだろうか、苦笑いしながら頭を掻く。

「・・・プロレスは殺るか、殺られるかよ・・・ふふふふふ」

ミサトが俯き加減で物騒な言葉を呟く。

そんな三人の怪しい会話を聞かずに済んだシンジとアスカは、リング上のやり取りを充分に楽しんでいた。

「シンジぃ、結構面白いわね。タッグマッチっていうのかしら?これ」

「今やってるのは三対三のタッグマッチみたいだね」

お互い腕を絡めながら、子供のようにリング上に釘付けになる。
随所に間抜けな行動を見せ、思う存分に客を楽しませ、会場を笑いの渦に巻き込んでいる同好会の面々。この日の為に相当練習を重ねたのだろう。
シンジもアスカも思わず笑ってしまっていた。

「ねえ、ミサト達もこういうのをやってたの?・・・って、居ないじゃない」

「あ、ホントだ。どこ行っちゃったんだろう?」

何時の間に居なくなったのか?周りを見渡しても三人の姿は見当たらない。
迷子になる歳でも無いだろうし、気にしない事にした。

「まあいいか。これでやっとシンジと二人っきりになれるし」

「そうだね。そのうちどっかで会うだろうしね」

「そうそう」

結構アバウトな二人だが、そんな事よりも、今はこのショーを楽しみたかったのだ。

そしてリング上はいよいよクライマックスを迎えようとしていた。

だが、その時、勢いよく教室のドアが開けられた。いや、地獄に通じていた扉なのかも知れない。なぜなら、そこから現れたのは悪魔達だったのだから。

開かれたドアに目を向け、見慣れた人物の姿を確認し、さーっと血の気が引いていくのを実感したシンジとアスカ。

「・・・あれ・・・まさかミサトさん達じゃ・・・」

「・・・何考えてんの、あのバカ達・・・」

そう、ドアを開けて入って来たのは、先ほど突然姿をくらましたミサト達だった。

ミサトはどこから持ち出して来たのか、ターバンを頭に巻き、サーベルを持っている。

リツコは金髪をオールバックに固め、鼻の下に同じく金の付け髭を装着していた。
その付け髭の両端が手の形をしていたのは見間違いであろうか?

加持は顎をしゃくらせてストンピングをしながら前に進んでいる。

リング付近に陣取っているのはプロレスマニアが多いのだろう。 流石と言うべきか、この三人の姿を見ただけで誰のモノマネかを理解し、猿の様に騒ぎ出した。

『うおぉぉ!タイガー・ジェット・シンだ!!』『シン〜!!』

『ホーガンッ! ホーガンだ!!』『ハルクッーーーーー!!』『アホーガン?』

『アントン!!』『いーのーき!いーのーき!!』


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

よく格好だけで解るものだとシンジとアスカは呆れ果てていた。


「#※$Φ凵翼モ%島煤普吹煤刀浴G+*!!!」

ミサトが怪しい言語で何かを叫んでいる。(本人はインド語を話しているつもりらしい)

リングに向かい花道を進む三人を、ギャラリー達が手を伸ばして触ろうとする。
極度の興奮状態なのだろうか、ミサトはギャラリーの人間達に容赦無く襲いかかる。

しかし襲われた人間達はなぜか嬉しそうな顔をしながら逃げ回っていた。

「Ah Yeah--------!! Oh Ah-------!!」

黄色いビキニタイプのレスリング衣装の上に白衣を纏い、髪はオールバックと言う驚異的に異様な格好のリツコ。

「イチ、バーーーーーーンッ!」

右腕を高く上げ、人差し指を立てて絶叫する。
そして観客達にアックス・ボンバーをかましまくり前進していく。

「シャ〜コノヤロウ!ダー!シャッ〜!」

加持も、目の前を塞ぐ物は誰彼構わずにビンタを入れて暴れまくっている。

「・・・なんて大人げない人達なんだ・・・」

「・・・まあ面白そうだし、少し見てみましょうよ」

呆れ果てた二人は他人のふりをして静観する事にした。
いつでも外に出られるようにさり気なくドアの近くに移動して。

リングに辿り着いたバカ大人三人衆は威風堂々とロープインする。

試合をしていたリング上の6人の同好会の面々はノリノリだった。
まるで予想もしていなかった飛び入り乱入と言う事態に気分が高揚するのを抑えきれず、どこの誰かは知らないが感謝すらした。

その考えが甘かったと後悔する事になろうとは微塵も思ってはいなかったが。

リングに上がると、加持はロープから身を乗り出し、実況席に向かいマイクを要求した。
プロレスに欠かす事の出来ないマイクアピールをするつもりのようだ。 同好会メンバーの実況役の生徒は、台本に無い出来事にも大きなパニックには陥らずに、手際よくマイクを渡すことが出来た。
受け取ったマイクのスイッチを確認すると、加持は大きく深呼吸をする。

「みなさーんっ! 元っ気ですかっー!!」

この台詞に会場は大盛り上がりだ。全員総立ちで声を上げて応える。

「えー、俺達は昔プロレス同好会をやっていたんだが・・」

加持は目の前にいる、第壱中プロレス同好会の面々を見つめる。

「彼らの試合を見て、昔の血が騒いでしまい、リングに復帰することにした」

言い終わる度に観客席は声を上げる。男の唸り声を。

「おそらく、ここにいる誰もが若い方がイキが良いと思っているだろう。だがな…」

ミサトは屈伸運動をして身体をほぐし、リツコはロープの張りを確かめるように何度かロープに身体を預けている。

「そーはいかんぞ、わかるかい?」

今までで一番大きい、怒号のような歓声が上がった。
プロレスマニアには通じる名台詞だったらしい。

この台詞が合図になったのか、突然ミサトが対角線の相手コーナーに向かって駆け出した。
不意を付かれた同好会メンバーの中の一人に、思い切り容赦のないドロップキックを喰らわせた。
相手は中学生、そしてミサトは成人男性顔負けの基礎体力を持ち、戦闘訓練を受けている軍人である。
スピードに乗った大砲を顔面に喰らった勢いでリングの外に弾き飛ばされた。
リングサイドにもマットは敷いてあったものの、それでも気を失い痙攣しているようだった。

「ふんっ。かつて、デスマッチの宝箱と言われた大日本プロレスで無敗を誇った私よ。止められるものなら止めてみなさい!」

着地と同時に素早くコーナーから離れる。
多対一を避けるのはプロレスでも戦争ででも変わらない鉄則なのだ。

だが、想像以上の破壊力と、それに勝る大人げない本気の攻撃に萎縮してしまった同好会員達は動くことが出来なくなっていた。

「フッ、プロレスはビビッた方の負けよ」

リツコはジリジリと臆する事無く、残った五人が固まっているコーナーに歩いてゆく。
そして、一番近い生徒の腕を取って引き寄せ、ボディに一撃必殺の鉄拳をお見舞いする。

「ぐぅっ」

まるで腹の中で爆弾が炸裂したような衝撃に悶絶し、身体がくの字に折り曲がった所でリツコも身をかがめて組み付いた。
右手は相手のタイツに手をかけ、左手は相手の右腕を固定する。

「ハァッ!」

勢い良く持ち上げ、10秒制止してから背にした場外に向けて背中から倒れる。
華麗な、そして凶悪なブレーンバスターに観客は大興奮だ。
これも最初から予定されていたシナリオの中の一興だと思っているのだろう。

知らないと言うことは幸せである。

「やるな、リッちゃん。衰えてないぜ。こりゃ俺も負けてらんないな」

満足そうに肩を回しながら、場外に落とした相手を見下ろすリツコを見ながら呟く加持。
オープンフィンガーグローブを胸の前で何度か合わせる。
何処から取り出し、何時拳に付けたのかは全くの謎だ。

「さて、と」

加持はミサト同様にダッシュでコーナーに向かう。
お前が行け、いやお前が行け、と我が身の為に仲間を押し出しあっている生徒達の中の、こちらを向いている一人に狙いを付けると、身を屈めて相手の右足目掛けてタックルを仕掛ける。
そして身を起こして相手を倒すと、引きずるようにリング中央へ移動する。
相手の足の間に入り、両脇で相手の両足をロックすると、観客に向かい絶叫した。

「おまえらー! 元気出せよっーーー!!」

これまたプロレスファンは黙っていられない名台詞のようで、一段とヒートアップする場外であり、加持はその期待を裏切らなかった。

しっかりとロックした両足を抱えて、自分を軸に旋回を始める。
ジャイアントスイングだ。

「1! 2!」

観客達が一回転毎にカウントを始める。
そのカウントが10を越えたところで加持は、勢いを殺すことなく両腕を離した。
無情にも場外へ飛んでいく生徒。目を回し、ジャイアントスイング中に気を失っていたのが唯一の幸運だったかも知れない。落ちる衝撃を感じずに済んだのだから。

「加持ぃ、歳なんじゃないのぉ? 昔は20回以上やれたのに」

ケラケラと笑いながら言ってのけるミサト。
この言葉がもし観客に届いたなら、歓喜を含んだ大きなどよめきを呼ぶだろうが、実際にリング上で聞いた同好会の生徒にとっては恐ろしい発言でしかない。

「・・・何もあそこまでやらなくても・・・」
「・・・もう何を言っても駄目みたいね・・・」

シンジとアスカはただ呆然と見ている事しか出来なかった。
もう誰にも止められないと感じてしまったのだ。

場外で、陸に上げられたイワシのようにピクピクと痙攣している仲間の変わり果てた姿を見た同好会の面々は顔面蒼白で引いていた。

恐怖に体を震わせている残った三人に、ミサトたちは容赦無く襲いかかる。

加持はデンプシー・ロールから卍固め。
リツコはアックス・ボンバーからサソリ固め。
ミサトは幸せチョップから恥ずかし固めを極める。

打撃から固め技へと、各々の得意とするパターンに持ち込んだようだ。

「ダァッー!!」

加持が卍固めをしたまま拳を上げて観客を煽る。

『うおおぉぉぉぉーー!!!!』

数々の名台詞と大技の連続に、観客の興奮は最高潮に達していた。
極められたまま泡を吹き始める犠牲者の哀れな三人。

「・・・酷い・・・酷すぎる・・・」

「・・・運が悪かったと思ってもらうしかないわね・・・」

あまりの凄惨な光景の連続に口数の少なくなるアスカとシンジ。

しかしバカ三人はまだ満足しないようで、気絶した同好会に興味を無くしてリング上に放り捨てると、場外に出て観客を襲い始めた。

『うわぁぁぁぁぁ!!』 『ぐはあっ!!』 『ぎゃぁぁぁぁぁ!!』 『ひでぶっ!!』
『ぐあぁぁぁぁぁ!!』 『げほぉっ!!』 『ああぁぁぁぁぁ!!』 『あべしっ!!』

悲鳴と共に人間が宙に舞っている。通常では考えられない世界がそこにはあった。
まさに場外はこの世の地獄と化した。

「ちょ、ちょっとあの三人本気なの!?何考えてんのよ!!」

「逃げようアスカ!このままじゃ巻き込まれる!!」

アスカの手を引いて素早く走り出す。一刻もこの場から離れなければならない。

「うんっ!」

アスカもその手をしっかり掴みシンジについて行く。
万が一の脱出を考えてドア付近に移動した判断は正しかったのだ。

走り続けて約100メートル、背後から多数の悲鳴が聞こえてくる。

まだ満腹にはならずに、派手に暴れまくっているようだ。

「全く、いい年齢して何考えてんのかしら。あの三人」
「ははは・・・まあ、ストレスでも溜まってたんじゃないかな?」

苦笑いするしかない。まさかあんな事が起きるなど、誰一人思っていなかったであろう。
地獄の部屋からかなり離れたので、漸く落ち着いて会話出来る。

緊張感から開放され、二人とも安心した表情を取り戻した。

ちなみに、しっかりと繋がれた手は離すことは無かった。



「あ、ファーストじゃない?向こうから来るの」

アスカが前方からてくてく歩いてくるレイを見つけた。

レイは常夏な日本であるにも関わらず、毛皮のコートを着込み、レザーパンツを履いていた。全身汗だくで、見ている方が心配してしまうような格好である。

「ファースト!」
「やあ、綾波」

取り敢えず声をかける二人。レイは二人の存在に気がついたようだ。

「・・・弐号機パイロット・・・碇君・・・」

相変わらず無表情である。

「す、凄い格好ね。流石に同情するわ」

「えーと、確か綾波は仮装喫茶でウェイトレスしてるんだよね?」

「・・・ええ・・・」

シンジの問いに心ここに有らず、と行った様子で簡潔に答える。
どこか急いでいるような感じであるが、やはり表情からは伺えない。

「んで、どこに行くの?」

気になったアスカが行き先を聞いてみる。
この格好ではいつ脱水症状で倒れても不思議ではない。
ちょっと変わったところが有るが、色眼鏡を捨てて見れば彼女も普通の女の子なのだ。
アスカは照れて言わないだろうが、友人として放っておけないのだ。

「・・・妖精くんが呼んでいるの・・・」

レイの視線はシンジ達の後方へ向けられてる。

「・・・まさか・・・綾波・・・」
「・・・ファースト・・・あんた・・・」


「・・・フフフ・・・妖精くんが、血を見せてくれるって言ってるの・・・」

そう言うとレイは凄い勢いで走り出した。
アスカとシンジには見えない『妖精くん』の後を追っているのであろうか?

風圧でシンジとアスカの前髪がファサリと揺れる。

レイの走り去った方に目を向けるが、もう彼女の姿は無かった。

その代わりと言っては何だが、数秒の間を置いて轟音が響いてきた。




『うわぁー!』 『ぎゃあぁぁぁ!』 『助けてくれぇぇっ!!』
『一人増えたぞっー!!』 『救急車っ!救急車っ!!』



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

もう何を言って良いか分からない二人は取り敢えず振り向いて歩きだした。

ちょっぴり早足だったのは言うまでも無い。




その後は何事も無く文化祭を楽しめた二人。(救急車が何台か来ていたが)

他の教室では出し物のビンゴゲームやダーツなどを堪能。

屋台では食べ物を二人で食べさせっこ。

そして、ベストカップルコンテストでは圧倒的な差を付けて見事に優勝した。
ちなみに、ケンスケが『俺の右手が俺のパートナーだっ!』と言い張って参加しようとしたが、当然のように断られていた。

幸せとは言えない境遇で過ごしてきた二人にとって全てが新鮮だった。



しかし、時間は流れる。



気が付けば日が落ち始め、窓には灯りが点っていた。
誰かが言っていた。楽しい時は時間の流れが速く感じる、と。

二人は今まさにそれを感じていた。

「もう終わっちゃうんだね・・・」
「・・・・・・・・」

屋上の手すりに腕を置き校庭を眺める二人。

そこではテントなどが片づけられ、中央にくべられた巨大な薪に火がつけられた。

フォークダンスをする為のファイアーストームが大きく燃え上がる。

すっかり暗くなった一面を、その炎が眩しく照らしだした。


「・・・楽しかったな、今日は・・・」

寂しげな蒼い瞳に映る紅い炎。

シンジはアスカの横顔を、言葉をかけずに見詰めていた。

「ね、シンジ。楽しかったね、今日」

ふいにアスカが顔を向け、視線が絡み合う。

「・・・うん、楽しかったね。・・・でも、まだ終わってないよ」

「え?」

「フォークダンス・・・踊ってないよ・・・」

ゆっくりと上がるシンジの腕を見て、アスカの鼓動は速くなる。

「・・・うん・・・」

差し出されたシンジの手にそっと自分の手を重ねる。
絶対に離さないと心の中で呟いて。

「・・・行こうか・・・アスカ・・・」

アスカの手を引き、屋上の出口に向い歩き出そうとする。

しかし、アスカは動かなかった。

「・・・どうしたの?アスカ」

「・・・ここで踊りたいの・・・シンジと二人だけで・・・」

頬を朱に染め、シンジの胸にちょこんと体を預ける。

ちょうどその時、校舎内外の全てのスピーカーから音楽が流れてきた。



「・・・踊ろうか、アスカ・・・ここで・・・」

「・・・うん・・・」

ぎゅうっとシンジの腰にまわした腕に力をこめるアスカ。


・・・そして重なる唇・・・



校庭の生徒達がフォークダンスを踊る中、二人は屋上でチークダンスを踊っていたとさ。



おしまい


後書き

100万HITおめでとう、これからも頑張ってね〜。

感想メールは不要です。読んで面白かったと思ってくれれば幸いです。

K-tarow