Time Goes By





赤や緑のイルミネーションに飾られ始めた街中を、元気に駆けてゆく男の子と女の子が居た。

まだ、幼稚園くらいだろうか。

後ろからついてくる2組の男女は、おそらくそれぞれの両親だろう。

普段は寂しげな街路樹も、この季節は行き交う人々の心を暖かくしてくれる。

雲は厚く低い。

12月に入ったばかりだというのに、空気は刺すほどに冷たい。

天気予報は、今年は数年ぶりにホワイトクリスマスになるだろうと伝えていた。


元気に駆けていた2人の子供達は、一軒の店の前で足を止めた。

女の子は自慢の赤毛を揺らしながら、ショーウインドウにおでこをくっつけて食い入るように中を見つめ、男の子はそれを後ろから覗き込んでいる。

そこには、女の子の身長ほどもありそうな、大きなサルのヌイグルミが居た。

男の子はそれを見て表情を曇らせている。

嬉しそうに話しかける女の子に対して、男の子は困ったように首を振るだけだ。

ものすごい剣幕で男の子に詰め寄る女の子。

男の子はしどろもどろに言葉を返すばかり。

女の子はプイっとそっぽを向くと、両親の元に走り出してしまった。




「だったら、パパとママがあのおさるさんを買ってあげるから、それでいいでしょう?」

飛びついてきた女の子に、困った表情を浮かべながら母親は答える。

「いや! しんじはあたしが いちばんほしいものくれるって いったもん! しんじにもらうんだもん!」

藍色の目に涙を溜めて抗議する女の子。

「アスカちゃん。アスカちゃんはもうすぐ何歳になるんだっけ?」

「ごさい・・・」

「そっかぁ〜、もう5歳になるんだよね。だったらもうちょっと我慢することも覚えなさい。
 じゃないとシンジ君に嫌われちゃうぞ。アスカは、シンジ君に嫌われてもいいのかな?」

「やだぁ〜〜!」

赤い髪をフルフルと揺らす女の子。

「じゃあ、我慢出来る?」

「う〜・・・・・・うん、がまんする」

「シンジ君とごめんなさいは?」

「う〜・・・・・・できる」

「そう、アスカはおりこうさんね」

ママに柔らかく髪を撫でてもらうと、頬の涙も乾かないうちに女の子は笑顔になった。





女の子が走って行った後、男の子はショーウインドウの前でうなだれていた。

「とうさん おねがいがあるの。ぼく ことしの くりすますぷれぜんと いらないから このおさるさん かって」

自分を見下ろしている父親の腕を取って、そう頼み込む男の子。

「それをアスカちゃんに渡すつもりか? シンジ」

頭上から、重く低い声が返ってくる。

「うん・・・・・だって ぼくのおこずかいじゃ かえないから」

「そうか。しかしなシンジ、私達が買ったものをアスカちゃんに渡しても、それはシンジが贈ったことにはならんぞ」

「だって・・・」

5歳の男の子には少し難しかったが、意味はなんとなくわかる。

「ならこうしたらどう?」

傍らでのんびりと父子のやりとりを聞いていた母親が言う。

「今年のアスカちゃんのお誕生日プレゼントはシンジが選んであげるの。
 そしてあのお人形は、いつかシンジが自分で買えるようになったときに、心をこめて贈ってあげるのよ。
 どう? アスカちゃんだってきっと分かってくれると、お母さん思うな」

男の子は、うつむいて下唇をぎゅっと噛んでいた。

「うん・・・わかった、ぼくそうするよ」

「よし!じゃあアスカちゃんに何をあげるか、帰ったらお母さんと一緒に考えようね」

くしゃくしゃっと息子の頭を撫でながら、嬉しそうに提案する。

「ふっ、シンジ、何も問題無い。お前は私の息子だ。あんなヌイグルミごとき、今に工場ごと買い上げられるようになる」

「あなた! 子供に変なこと言わないで」

「くっ・・・・シンジ、何をしている。早くアスカちゃんの所に行ってこい」

そして、男の子は父に背中を押されて駆け出していった。


男の子は悔しかった。

こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。

何に対してかは分からない。

その意味すら、5歳の男の子には分からない。

けれど、男の子は悔しかった。



























赤や緑のイルミネーションに飾られ始めた街中を歩いている、1人の青年がいた。

空は一面の雲で覆われている。

天気予報では、今年は17年ぶりのホワイトクリスマスになるだろうと伝えていた。

脇に抱えた大きな包みが、行き交う人にぶつからないように注意しながら、青年は早足で歩いてゆく。

待ち合わせた喫茶店は、もう目と鼻の先だ。


あの時と出来るだけ同じ物を探してまわるのは、思った以上に大変だった。

幼いころに交わした約束を、彼女はとうに忘れてしまっているかもしれない。

いつかきっと僕がプレゼントするから、それまで待っていてほしい、と。

青年は一度も忘れた事は無かった。

誕生日やクリスマスのプレゼントは、毎年贈っている。

ましてや社会人となった今では、こんなヌイグルミよりよほど高価な物をあげたこともある。


いつの頃からだろう、青年は心に決めていた。

これを彼女に渡すのは、自分に対して自信や決心が持てた時にしようと。

そう。

ポケットの中に入っている、小さな銀色の指輪と共に。

























赤や緑のイルミネーションに彩られた街中を駆けていく、1人の女の子が居た。

行き交う人々の間をぬって、母親譲りの赤毛を揺すりながら元気に走ってゆく。

一軒のショーウインドウの前につく頃には肩で息をしていた女の子だったが

そんなことはお構いなしに、大きな手招きで両親を呼んでいる。


「これがいい!」

やって来た両親にそう言いながら指差したショーウインドウには、大きなサルのヌイグルミが飾られていた。

「お人形だったら、アタシがあげたやつがあるでしょ」

女の子の母親が腰に手を当てて答える。

「だって あのおさるさん ひとりぼっちでさみしいよ」

女の子は父親によく似た、黒く深い瞳をクリクリ動かしながらショーウインドウを見ている。

「だから これ!」

「そっか。じゃあ、帰ってパパと一緒にサンタさんに手紙を書こうか」

女の子の表情は満面の笑顔になった。

「うん!早く行こうよ」

女の子は大きな声でそう言うと、両親の手を引っ張って駆け出していった。




いつか見た風景のように、空にはどこまでも灰色の雲が広がっている。

天気予報は、明後日のクリスマスは7年ぶりのホワイトクリスマスになるだろうと伝えていた。
















初めて投稿させていただきます、鈴木と申します。


小さな子供を上手にあやしたり諭したりするのは、と〜〜っても難しいです(笑)
「〜できるね?」 と 「〜しようね」 の違いわかりますか?
子供に使う場合はどちらが正しいかわかりますか?

え〜と、まぁそんなことはどうでも良いんですが(笑)
なにはともあれ、少し遅れましたがアスカちゃんお誕生日おめでとう。
そして、メリークリスマス。

それと、これを書いている時点では少々フライング気味なのですが、この際ついでに。
ATFさん、オーバー100万アクセスおめでとうございます。



24th Dec,2000 Merry X'mas!