アタシは――ここ何日かヒカリの家にいる。学校には行ってない。ずーっとゲームしてる。
  あそこ――ミサトのうちには居たくなかった。もう、エースパイロットの地位なんか、とっくの昔にシンジに奪われている。今のアタシは……

 

 シンジの足を引っ張るだけ…
 ご飯も作れない、掃除も出来ない――苛立って当り散らすだけ…

 だから、あそこには居たくなくって、カバンに着替えを詰め込んで、シンジが寝てるうちに家を出た。

 

 ヒカリには悪いけど……ヒカリはなにも言わないけど…

 

 何度か、シンジから電話が掛かってきた。でもアタシは電話には出なかった。

 シンジにアタシの事で振り回されて欲しくないから…

 ううん、あいつはアタシをかき乱すから…アイツがいるから……

 

 

 学校にもいきたくなかった――会うと心が揺れるから…

 だからアタシはずーっとゲームしてた。ヒカリが学校に行ってる間も、学校から帰ってきて御飯作ってる間も、ずーっと。

 今は、ヒカリは寝巻に着替えて、ベッドに腰かけて、アタシの後ろでゲームしているのを見てる。

 

「ヒカリ…?」
「なな、何?」
「寝よっか…」

部屋に布団を敷き、電気を消す。
アタシ達は同じ布団に寝てる。ヒカリのうちには余分な布団も、部屋もないから。

 

「ゴメンね、アタシ、邪魔かな?」
床に敷かれた布団に寝ているアタシ。
ヒカリに背を向けて、独りごちる。

「そんなことないわよ?」

ヒカリは、そう言ってくれると分かってた。
だって、ヒカリは優しいから…誰にでも。

「アタシ、勝てなかったんだ、エヴァで。
 もうアタシの価値なんてなくなったの。
 キライ、大っキライ。 皆嫌いなの。でも一番キライなのは私。 なんかもうどうでも良くなっちゃったわ…」

「アタシは、アスカがどうしたって良いと思うし、何も言わないわ…だってアスカはよく頑張ったもの…」

 

 

優しい、ヒカリの声は真っ暗な部屋によく響く。

アタシは…咽び泣いた。

 

 こんなにも心配してくれてるのに、優しくしてくれてるのに…

 アタシなんかに…

 

 

アタシなんか……

 

 

 

 

わたしはあなたのもの。(中篇)
Writen by PatientNo.324

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日――また、使徒が現れた。

 

 アタシは…アタシは、バックアップ。仕方がない…か。
 零号機は発進して…アタシは…オトリで発進。

 

「のこのこと、またこれに乗ってる…未練たらしいったらありゃしない…」
『弐号機、第八ゲートへ。出現位置が決定次第発進せよ』
「はんっアタシが出たって足手まといなだけじゃないの…?」
『使徒、強羅防衛線を突破』

 マイクの出力は切ってある。ここでアタシが何を言っても外には聞こえない。
――聞こえてたって何も変わらないだろうけどさ…

 どうでもいいわよ…もう。

 

 アタシは…

 

 

 螺旋状の使徒は、定点回転を続けてる…アタシは、まだケージの中…

 

 

 膠着したまま長引くかな、と思ってたけど、使徒は、その一端を開くとまっすぐに零号機に突っ込んでいく。
 ファーストは飛びかかってきた使徒を握りとめてパレットガンを打ち込むが、くの字に折れ曲がっただけでさしたるダメージを与えていない。
 受けてめていた零号機に、使徒は腕から侵食を始めた。


 アタシはカタパルトからようやく射出される。
『アスカ、あと300接近したらATフィールド最大で、パレットガンを目標後部に打ち込んで! いいわねっ?』

 

 カタパルトから離ようと――動く。

『アスカ! 何してるの!』
ミサトが激を飛ばすけど…

『シンクロ率10.6% 移動するのがやっとです!』
 アタシはまるで亀がはいずるように緩慢な動作でようやくゲートを離れ、パレットガンを打ち込む。
 だけど、使徒のATフィールトを破る事は出来ない。使徒が零号機の装甲を突き破り、内部に侵入する。

『アスカなにやってんの! ATフィールドの出力上げて!』
「やってるわよ!」

 だけど、打ち抜く事は出来ない。パレットガンの弾が尽きる。

「畜生っ!」

 アタシはインダクションレバーを全開にし、使徒に突っ込もうとしたけど――
『アスカ止めなさい!』
 インカムからリツコの声。
「なんでよ! ファーストがヤバいじゃない!」
『貴女のシンクロ率じゃ満足なATフィールドを張る事は出来ないわ。貴女まで侵食されるわよ』
「じゃあどうしたらいいのよ!!!」

 またアタシは何も出来ないの?
 見ている間にも零号機の全体に葉脈のような気色の悪い隆起が広がっていく。
 インカムを通してリツコの声が聞こえる。使徒が一次的接触を試みてるらしい。一次的接触が何かわかんないけど、アタシ達の心を知ろうとしているんだそうだ。

 

 インカムから聞こえてくるファーストの呻き声…喘ぎ声に似た…

 何が起こってるの?

 

 零号機の腹部から生体部品―肉が噴出してゆき、異形の華を咲かせる。

 

『初号機の凍結は現時点を持って解除。出撃』

 なによそれ!!

「アタシの時は出さなかったくせに…!」

 そんなにファーストが大事なの?
 アタシは何なのよ、じゃあ!!

 

 別の射出口からシンジが乗る初号機が出てくる。

 すると、零号機に取り付いていた使徒の一端がシンジに向かって突っ込んでいく。

 シンジは使徒を突っ込んできた使徒を受け止めるとパレットガンを打ち込む。

 

 飛び散った使徒の欠片が――変形して…あれ、ファーストの顔じゃないの?!

 使徒がファーストの形に変わっていって、初号機に笑いかけ、侵食を始めていく。

 

「ミサト!!!!」
『予備のパレットガンを出すわ早く!』

 アタシは予備を受け取ると使徒目掛けて乱射する。

 紅い壁が光って弾は阻まれ…アタシを嘲笑う。

 

「フザけんじゃないわよぉぉぉぉっ!」
『弐号機シンクロ率上昇!!』

 アタシは突っ込んで使徒をつかみ取るとパレットガンを乱射する。

 

 飛び散っていくファースト。

 弾丸が切れ、アタシはガンを投げ捨て、プログナイフを突き立てる。悲鳴が響き渡る。ファーストそっくりな声の。

 

『ダメっ』

 インカムから本当のファーストの声が聞こえ、そして使徒が零号機にさらに埋没していく。いや、零号機が使徒を取り込む。

『レイ、機体を捨てて逃げて!!』
『ダメ、アタシがいなくなったらATフィールドが保て無くなって使徒をさえ込めなくなる…だから、ダメ…』

『死ぬ気?! レイ!!!』
ミサトの悲鳴。

 

「ファースト!」

 

 零号機の腹部が奇妙に凹んでゆき…

 

 

 零号機は呻き声を上げながら、立ち上がり、空を仰ぎ――アタシの目の前が真っ白になる。

 

 

 

 

 爆風が吹き荒れ、ATフィールドが弱かったアタシの弐号機は吹っ飛ばされ、アタシは気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、どうなったのか…どう事後処理されたのかアタシは知らない。
 エントリープラグから運び出されたアタシはシンジと共に家に送られて、アタシはそのまま部屋のベッドで寝かされていた。

 

 翌朝、ミサトから電話があった。ファーストが生きていたらしい。シンジは、付属病院に見舞いに行ったけど、アタシは行かなかった。昨日の戦闘の最後、零号機の爆発に撒き込まれたアタシは両腕の手首を骨折して、寝込んでいたからだ。

 シンジはすぐに帰ってきた。

 

 

 暫くしてから、シンジが部屋に入ってきた。アタシの頭に載せてた氷嚢を新しいものに取り替えてくれる。

「アスカ、大丈夫?」
「平気よ……」
「そっか…よかった…」

 凄く浮かない顔をしてる。落ち込んでる。

 

 電話のベルが鳴り、シンジはリビングに戻っていく。

「はい、碇です」
『……』
「リツコさん?」

 部屋に戻ってくるシンジ。

「何?」
「うん…ガードを解いたから、今なら外に出れるって…」
「何よそれ?」
「解らないよ…でも、リツコさんのところに行ってみる…」
「アタシも、行くわ」

 アタシは起き上がり、着替えを取り出そうと思ったけど、腕が使えない。

「ゴメン、シンジ、制服出して。引き出しの3段目」

 アタシはシンジに手伝ってもらって着替えて、ネルフ本部に向かう。

 リツコが何を考えているのか知らないけど、もうアタシに失うものなんて、無い。だから、何でもいいから、知りたかった。
 アタシが、何をしてたのかを。

 

 

 

「何よ、暗い顔して。ファースト、生きてたんでしょう?」
「うん…」

 アタシ達はネルフに向かう電車に乗り込んだ。
 電車にはアタシ達以外誰も乗っていない。

「何よ?」
「綾波…」
「ファーストがどうしたってのよ? 生きてたなら良いじゃないの?」
「知らないんだって…僕の…事……」
「何それ…記憶喪失?」

シンジは首を振る。
 あまり良くはなかった顔色は土気色に…悪くなる。

「3人目だから…だから知らないって……」
3人目…

よく解らない…自分ってものは自分だけしかいないのに…

 アタシには解らない。
 シンジは頭を抱え込む。

 

 

 

シンジの頭を撫でてあげたいけど、アタシの両手は粉々で…

 

撫でてあげる 手を アタシは もたない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシ達はリツコの部屋のドアをノックする。

「来たのね…二人とも。着いてきなさい」

 

 リツコは、部屋を出ていき、エレベーターに乗り込む。
 アタシとシンジもその後に続く。

 

 

――セントラルドグマ第18階層 立入禁止区域。

「ちょっと待ってなさい」
リツコはそう言ってアタシ達をここで待たせてゲートに向かう。

 

 辺りは薄暗く、ゲートの表示灯だけが光を放っている。

 その先にあるのはターミナルドグマ。ゲートにパスカードを通すリツコ。だけど、警告音が鳴り、ゲートの扉は開かない。

 眉を顰めたリツコの背中で、激鉄を起こす音が響く。

 

「無駄よ、アタシのパスがないとね」
ミサトの声。

「そう…加持君の仕業ね」
「此処の秘密、この目で見せてもらうわよ?」

 いつもの、媚びる感じが全然しない、無機質な声。

「いいわよ、但し、この子達も一緒にね」
「いいわ」
 ミサトはアタシ達がいた事に気づき、こちらを一瞥すると、銃を降ろす。
 ミサトがパスカードを通すろゲートが開く。その先にあるのは、エレベーター。
 物凄く下にまで下りていく。

 到着した先にあったのは、人口進化研究所 3号分室。
明かりが点き、部屋の全体が見える。

 病院にあるようなパイプベッドと白いシーツ、ビーカーと薬品…いつのものか判らない、完全に酸化してしまいドス黒く固まった血溜まり。

 

「まるで綾波の部屋だ…」
 シンジが溢す。

「綾波レイの部屋よ。彼女の生まれ育ったところ。生まれたところよ。レイの深層心理を構成する光と水は此処のイメージを強く残しているの。」
「赤木博士。アタシはこれを見に来たんじゃないの」
「判ってるわ、ミサト。」

 リツコも、ミサトもまるで台詞を読んでるように、声に抑揚がない。能面みたく表情もない。

 

 ファーストの部屋のその先――ライトが点く。

 この部屋は一段高く作ってあり、その階下に広がる・・・・・・黒い床。縦横に彫られた溝と丸い穴から見えるのは…

「何あれ、エヴァ…? 」
零号機ににたパーツと、肉と、骨…

「最初のね」
リツコが呟く。
「10年前に破棄されたの」

「エヴァの墓場…」
シンジが呟く。

「只の塵捨て場よ。貴方のお母さんが消えた場所でもあるわ。覚えてないかもしれないけど…貴方も見てたはずよ?
お母さんの消える瞬間を」

シンジが息を呑み込む。
リツコの唇が僅かに吊り上った。何か、凄絶な感情は……あれは憎しみ?

「リツコ!」
ミサトがリツコに銃を向けている。リツコは…微笑っている。

 

 

その先…

 張り巡らされたチューブは脊椎のような装置に繋がり、その先で脳味噌のような形を形作っている。

 其処から一本だけ真下に垂れ下がっていて、そこはカプセルのようにガラス張りになっている。中はLCLで満たされているのか、オレンジ色をしている。

「これが、ダミープラグの素だってぇの?」
ミサトがリツコに尋ねて…

 

「真実を、見せてあげるわ。」
リツコは、リモコンのスイッチを押す。

 

 照明が点き、周囲が明るくなり…周り全体がLCLの水槽が浮かび上がり――

 そこには気泡が昇っていて…

 

 考えもつかなかった、現実。
「あ…」
 シンジの目が、皿のように大きく開かれている―驚きで。 「ファースト…」

 喉が、渇く。

 水槽の中に、大量のファースト―綾波レイが漂っている。

「綾波、レイ」

 シンジが名前を呼ぶと、全員が一斉に目を見開き、シンジを見つめる。

「まさか、エヴァのダミープラグは!」
「そう、ダミーシステムのコアとなる。その生産工場…」

 リツコは、笑っている。

 ミサトは…想像もしなかった現実にうろたえている。

 

 此処にいるファーストは…笑ってるけど…でも、どこかが……

「ここにあるのはダミー。そしてレイのただのパーツに過ぎないわ…
 人は神様を拾ったから喜んで手に入れようとして罰があたった。それが15年前。折角拾った神様は消えてしまった。
 でも今度は自分たちの手で神を復活させようとした。それがアダム…アダムから人間に似せて人間を作った…それがエヴァ…」

「人…人間なんですか?!」

 シンジの顔からは…血の気がなくなっている。

「そう…人間なの。本来魂のないエヴァには人の魂が宿らせてあるもの。シンジ君や、アスカのお母さん達のようにね。みんなサルベージされたもの。
 魂の入った容れ物はレイ、一人だけ。あの子だけにしか魂は宿らなかった。ガフの部屋は空っぽになってた。だからここにある容れ物には魂はない、ただの容れ物なの。
……だから、壊すの。憎いから。」

 リツコは、ファースト…ううん、レイのパーツを睨みつけて…スイッチを押す。

 LCLが吸い込まれてくような音がして…

 

 壊れていく。

 笑い声が聞こえる。

 感情の篭ってない笑い声が。

 

 骨が、肉が、目玉が、LCLに漂う。

 でも笑い声は消えない。

 

「リツコ! アンタ何やってるのか判ってんの!!」
ミサトはリツコに再び銃を向ける。

「ええ、判ってるわ、只の破壊よ…人じゃないもの…ヒトの形をしたものなの…でも私はそんなものにすら勝てなかった!!…あの人の事を考えるだけでどんな陵辱にだって耐えられたのに……私の身体なんでどうでもいいの!

でも…あの人…

 

あの人…
判ってたのよ!!!

 バカなのよ、アタシは! 親子揃って大バカ者よ!

 

私を殺したいのならのならそうして…いえ、そうしてくれると嬉しい…

 

 

「それこそ、バカよ…」
 ミサトは、銃を降ろした。

 

 リツコは、泣き崩れた。

 

 

 

 もう、辺りには、ファーストは漂っていない…

 

 

 

 

 

 

 だた、首が浮かんでいた。アタシに向かって嘲笑いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、アタシ達はミサトの家に帰ってきた。
 あんなものを見たからだろう、熱がまた上がってしまい、うちに帰る途中で気を失ってしまった。

 シンジがアタシをベッドまで運んでくれたんだろう。 目が覚めた時、シンジはアタシのベッドの横で本を読んでいた。

「あ…何か食べる?」
 シンジは読んでた本を閉じる。

「そうね…」
「ちょっと待ってて…お粥作るから」
「うん…」

 アタシがベッドから身を起こすと、シンジは立ち上がる。
 アタシもリビングに行こうと思い、立ち上がろうとして、失敗して、ベッドから落っこちる。

「痛っ!」
「無茶しないで!」

 慌ててシンジがアタシを抱き起こして、ベッドに寝かせてくれる。

「ここにもって来るから…」
「うん…」

 シンジは困った顔してたけど、部屋から出ていった。

 

 

 シンジ、アタシを軽々と持ち上げた…やっぱり、男の子なんだな…

 さっきシンジがアタシを持ち上げたときに触れた、脇の下が、何故か温かい。

 

 

 

 

 暫くして、シンジがお鍋と、取り皿とれんげを運んできた。お皿にアタシの分を取り分けて、アタシの口に運んでくれる。

「熱っ!」
「あ、ゴメンっ!」

 れんげに掬ったお粥に息を吹きかけてちょっと冷まして…

「うん、この程度にしてね」
「うん…」

 同じように、冷ましてくれて、アタシの口に運ぶ。

「シンジは食べたの?」
「あ、…まだだけど?」
「食べないの?」
「アスカに食べさせてからね」
「冷めるわよ?」
「温めれば…いいから…」

 このバカ…

「あんたも…食べなさいよ」
「え、でも…」
「どうせ食器を洗うのアンタでしょ。洗うもの少ない方が楽でしょ?」
「でも…いいの?」

 なんでそんなに怖がるかなぁ…アタシが苛めたからか。

「アタシが良いって言ってんだからアンタは黙って従えば良いのよ! バカシンジ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皿洗いが終ってからシンジはアタシの部屋に戻ってきた。アタシに体温計を渡す。アタシはそれを脇に挟む。

 一眠りしたからか、平熱に下がっていた。

「お湯と、それからタオル持ってきて」
「何するの?」
「骨折してるでしょ、お風呂に入れないじゃない。だから身体くらい拭いておくのよ」
「あ…うん、持って来るよ」

 シンジはお湯が入った洗面器とタオルを持って部屋に戻ってくる。

「拭いて。」
「あ、うん…」

 シンジはタオルを洗面器に浸して濡らし、硬く絞る。

「脱がせて」
「うん…」

顔を下に向けて、上のほうから順にパジャマのボタンを外していく。顔が火照ってくる。

「じゃ、拭くよ…?」

 シンジは背中から拭いていく。

 おずおずと、ゆっくり。丁寧に。

 

 

「ねえ、シンジは初号機にアンタのお母さんの魂が閉じ込められてるって…知ってたの?」
アタシは背中越しに問い掛ける。

「今日…初めて知った…ずっと…忘れてたから…」
「そう…お母さんが取り込まれるところにアンタは居たんでしょう?」
「そうだけど…覚えて、ないんだ…」
「そう……」

 

 シンジの手が、アタシの胸の下に回りこむ。左右にに撫でるように、ゆっくりと。

 

「アタシのママが、実験の後で変わってしまったのは…弐号機に取り込まれたからだったのね…」
「………」

 今度は胸の上のほうを…シンジの手が動いてく。

 

 やだな、違うのに…

 

 胸の先端が、硬くなっていく。

 

 アタシの顔の火照り、酷くなる。

 シンジの顔も赤くなってく。

 

 シンジは上半身を拭き終わる。

 シンジはアタシの脚の方に移動して、アタシのパジャマのズボンの裾をつかむ。

「生地が痛むから、ウエストの部分掴んで。」
「あ、ゴメン…」

 シンジはウエストの部分を持ち直してアタシのズボンをずり降ろす。アタシは脱がせやすいように腰を少し浮かせる。

 

 アタシの身体の正面からは目を逸らしながら脚を拭いていく。爪先から丁寧に…少しずつ、上の方――足のつけねの方に。

 

「何回か…さ…」

 シンジは向こうを向きながら、呟く。

「初号機の中で…お母さんみたいな感じが…したんだ…何故か判らなかったけど……」
「そう…」

 

 アタシは、そう言う風に感じた事はなかった。

 ずっと、アタシの人形だと思ってたから…弐号機は。

 どうしても、信じられなかった。

 

 

 

「シンジ…?」

タオルを絞っていたシンジにアタシは呼びかける。

「どうしたの?」

 

「ううん…」

アタシは、部屋の天井を見る。

 

「どうかしたの?」
「ううん…アタシ…さ。」
「うん」

シンジの手が、止まる。

 

「アタシのママが、病院の病室でさ、首を吊って死んでるの、見たんだ…

 ママの顔はね、すごく……幸せそうだったの…」

 

 

 

 

 

 

 

中篇 おしまい。
後篇へ続く。


PostScript=あとがき

きつーいよーっ
すごくきついよーっ

バイクは年寄りよろしく、体のあちこちにガタがキテるから土日は一日中OHだし、パーツ代はかさむし(だれか2NYのガソリンコック譲ってください(笑) つーか再生産しろYAMAHA(-_-)凸)、専門実験は予習してこないと死亡するくらいに時間かかるし(でも予習する時間なぞ存在しない)、卒研は方程式がたたないし、論文の英語は難しくて最早アタシの手には負えないし…

助けてぷりぃず。

 

 

な癖に、逃避する脳みそのままに書きました。正直時間が足りてません。 もっと表現したいことは遥か遠いのに、覚えたい表現は沢山あるのに……

えー101匹レイちゃんがバラバラになりました。残りは1人です。

残す使徒もあと1つです。

 

第2部もあと1話です。

 

 

Patient No.324  mail
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