単発らぶらぶ小説 その60

生。








「むふー……」

「『むふー』じゃないわよ! このど馬鹿っ!」

 アスカは自分の背の上で恍惚の表情を浮かべているシンジの腹を蹴り上げて、
仰け反ったところをそのまま首筋に脚を絡めて海老反りながら壁に投げ飛ばす。
 ヘッドシザースホイップとか言う技に似ているが、とりあえず若い娘が全裸
で実行するものではないだろう。
 壁に顔面から叩き付けられたシンジはと言うと、もの凄い音を立てたのにも
関わらず軽く鼻の頭をこすりながらアスカの元へ這いずり寄った。
 ちなみにシンジも全裸である。
 更に言うと、2人の年齢は様々な事情によりここではあえて触れないことに
すると只今決定。

「痛いよ、アスカ……」

「ハナチくらい垂れ流しなさいよ! ああもう可愛げのない!」

 ぷんぷん怒りながらシンジを罵倒するその光景は、普段の彼女達を知る者で
あれば別段違和感は感じないだろう。
 しかしながら両者共に全裸、しかもベッドの上でアスカはちと恥ずかしがり
つつ可愛いヒップを押さえているとなれば……最早シンジが普通の人とはやや
違う趣味を持ち合わせているのだろうと、簡単に推察することが出来そうな気
がするが一目瞭然でもある。

「あー、垂れて来ちゃった……もう! この馬鹿シンジ! こっちは嫌だって
何回言えばアンダスタン!? それとどっちにしてもちゃんと着けてよ!」

「そんなこと言わないでさ、アスカ。ちょーっとポーズ取って、垂れてるとこ
をよーく見せてくれると嬉しいな僕」

「誰が見せるか――――!」

 どげん。

 ベッドの上にぺたりと座り込んでいると言うのに、見事な踵落としである。
 シンジはまたもや顔面から突っ伏したが、今回は叩き付けられた先がベッド
なので全くダメージはなさそうだ。
 ちなみに、これも若い娘が全裸で実行するものではないだろう。

「ちょ、ちょっと見えた」

「ばっ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿――――っ!」

 どんが。

 1回の『馬鹿』と言う間にアベレージ16回の踵落としを連撃する、アスカ
オリジナルの滅殺技『馬鹿馬鹿ラッシュ』(暫定名)が炸裂した。そのあまり
の打撃の速さに、ヒットした時の打撃音は連続した1つの音となって周囲の者
に聞こえてしまう。
 そしてこれも、若い娘が以下先に同じ。

「くっはー、肩こりが取れたよ」

「少しは痛がりなさいよキモチワルイ!」

 何故か攻撃したアスカの方が、一風変わったダメージを受けているようにも
見える。

「ああもう頭に来た! アタシが毎回どんな思いでいるのか、その身体に思い
知らせてやるんだから!」

 何事もなかったかのように首を回しているシンジの髪を引っ掴んでうつ伏せ
に引きずり倒し、アスカは枕の下からちょっと描写する気が失せるような物体
を取り出した。

「あ、それはミサトさんが毎晩使ってる……」

「何で知ってんのよ!?」

 今までどうやって2人に気付かれずに隠れていたのか、ベッドの下から鬼の
ような形相で登場したのは葛城さん。
 ちなみに携えているビデオカメラは職場から無断拝借したものであり、その
咎で無期自宅謹慎処分を受けているのだが言い換えると『クビだもう来るな』。

「何よそのカメラは!? アタシとシンジの愛の現場を激撮して、それをあの
ヒゲメガネに売り付けて職場復帰でもしようって魂胆!?」

「アスカぁ……あんなんでも一応君の義父になる予定なんだからさ、そう言う
呼び方はマズいと思うよ……」

 自分で『あんなん』言ってりゃ説得力皆無である。

「まぁいいわ、今から実施するシンジの情けない姿披露パーティを色んな角度
で撮影しちゃって」

「え、いいの?」

「ただし現時点より前の撮影分はこの場で破棄」

 ちぇー、と年齢を考えるとどうかと思うような仕草をしながらミサトは手に
持ったビデオカメラからDVDを取り出して叩き割った。
 代わりにアスカが枕の下から取り出したDVDを入れて、すちゃっと構えて
親指をぐっと立てた。

「覚悟しなさい、シンジ」

 例の見るだけで3日間は夢に出て来そうなグロテスクな物体を一舐めすると、
突っ伏したままのシンジの突き出された臀部に狙いを定める。

「アスカ、だからそれはミサトさんが毎晩……」

「初号機のコアに突っ込んで溶かして再構成してあるから、とりあえず舐める
くらいは出来る程度に綺麗になってると思うわ」

「うわ、だから最近母さんの様子が変だったんだ」

 色々会話が変である。
 当事者達は至って真剣に話しているところが余計に変。

「さ、これを」

「あ、気が利くじゃないのミサト」

 何故どこからどうしてワセリンが出て来たのかも考えずに、手に持った常人
なら注視した途端に嘔吐を催しそうな物体に無茶苦茶に塗りたくる。
 更にああもう言いたくもないや的な外見に進化したそれは、振り被って勢い
よくシンジを貫こうとしたところでもの凄い勢いで止まった。

「毎晩一緒に寝てるのに、何でミサトの悶々独り寝熟女ショーのこと知ってる
のよ――――!?」

「何だよ、アスカだって知ってるんじゃないかよう」

「……私って……」

 またも不思議時空発生である。
 ぱっと見た感じでは、こめかみを押さえて頭をふるふる振っているミサトが
1番まともそうではある。
 だが例の以下省略を毎晩飽きもせず使っていることを考えると、そう結論を
出すのはいささか時期尚早であろう。

「まぁいいや。アスカ、とりあえず早くやっちゃってよ」

「何でそんなにうきうきした表情なのよ、この馬鹿シンジ――――!」

 ずぬん。

 肘まで突き刺さらんばかりの勢いで繰り出されたアスカの手は、万馬券予想
的中な感じで手首までしか入らなかった。
 ちなみに『狙いを外す』が2重丸、『半分』が丸。『命中』と『誤って自分
に命中』が白黒の三角であった。下馬評では『ミサトに命中』。

「うきゃ――――!」

 手首まで埋まっていることに驚いたのではなく、シンジがその埋まっている
手首を解放しようとしないことに狂乱して出たアスカの悲鳴である。
 驚くポイントがズレているのは毎度のことなので、シンジもミサトも全く気
にしない。
 むしろ気にするべきは平然としているシンジのことなのだが、気にしている
場合ではないのでここでは割愛する。

「いい、実にいい映像よアスカ!」

「いいいいい嫌あああああ!」

 シンジの身体が持ち上がりそうなくらいに力を込めて腕を振るのだが、その
シンジがとても嬉しそうな表情なのは何故だろうか。

「あっ……」

 とぴっ、と発射されたものをミサトのカメラはしっかり追っていた。
 涎を拭きながらもカメラを放さないその姿勢たるや、何だか見てて怖い。

「いい加減放して――――! もうこんなことしないから、むしろこれからは
シンジの好きなようにしてくれちゃっていいから放してお願い――――!」

 涙を流しながら哀願するアスカだったが、至福の時を過ごすシンジの耳には
どうやらその声は届かなかったようだ。

「視聴者の予想の斜め上を錐揉み飛行しながらの攻守入れ替え! いい、実に
いい映像よアスカ!」

「うああああん! ママ――――! アタシを見て――――!」

 最早何が何だか理解不能である。
 彼女達を止められる者は、恐らくこの地上には誰もいないと思われる。






 …………。
 アシスタントディレクターが大きな時計をぐるぐる振り回しているので今夜
の葛城さん宅からの生中継はここで終了とする。
 もし次回があったなら、もっと突っ込んだ内容を取材したい。
 いや極々一般的な意味でね。






<続きません……単発だし
<戻る>