「疵 −きず−」



無数に残る背中の疵

それは僕の贖罪と愛する人との絆

聡明で明るく強がっていた少女を壊してしまった僕の償い

でもそれだけじゃない

確かに愛している 僕はこのヒトを

どんなに拒絶されても、どんなに恨まれても もう僕はどこにも逃げない

過去の呪縛に捕らわれながらも 必死にもがき苦しみながらも 生きることを諦めない僕の好きな人 −アスカ

あの時、僕は母に誓った 苦しくても 悲しくても 拒絶されても 僕は現実に生きると

悲しく心が千切れそうになっても僕はそれでも歩いてゆく

この疵と共にいつかアスカと一緒になる日を願って

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

耳をつんざくような金切り声

「いやぁぁぁぁぁぁぁ、死にたくない、殺さないでぇぇぇぇぇぇ」

「アスカ!!!!」

ベッドでもがき苦しむアスカを抱きしめ落ち着かせる

僕にはたったこれだけのことしかできない

「あ、ぐぅ・・・・・・」

アスカの指が僕の背中に食い込み僕の背中には激痛が走る

この痛みは現実に立ち向かうため

「殺してやる、殺してやる、殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「うぅぅぅぅぅぅ」

アスカの爪が更に深く背中に突き立てられる

流れ出す紅 肉を切られる痛み

それでも僕はアスカを抱きしめることをやめない

痛みは僕が選んだ道

現実はどこまでも残酷だけどそれでも僕は歩み続ける

いつか分かりあえるときが来るのを信じて

いや、もしそんな時が来なかったとしても僕自身は信じたい

だから・・・・そのためにどんなに苦しくても僕は・・・・

「アスカ・・・・・」

突然大きく目を見開きアスカは全身を痙攣させる

「あ・・・・あ・・・・・・あ・・・」

「ア、アスカ!!アスカぁぁ!!!」

消えない疵はアスカを苛み僕を絶望させる

現実はその確認をするための世界なのか?

「う・・・・うぁぁぁぁ・・・」

アスカはほとんど聞こえないほど声を押し殺して泣く

誰も頼らない 自分だけで生きていく そう 他者を受け入れることはない

壊れた欠片を必死で血なまこになって集めた心なのに

何度集めて作ってももう入ったヒビは消えない 心とはそうしたモノだから

ならば僕の心をさらけ出してアスカを癒したい

「もう、大丈夫だから・・・・・・大丈夫だよ、アスカ」

僕の腕の中で泣く少女は僕の知っている気丈な少女ではない

でももしそうだとしても人は少しずつ変わっていけるはずだ

例え時間が掛かったとしても僕はアスカに未来を掴んで欲しい

だから

「アスカ、好きだよ。愛してる」

驚くように小さく震える

「うそ・・・・・・・」

「嘘じゃないよ」

信じて欲しい、 ただそれだけを望むのも罪なのだろうか?

「うそ・・・信じない」

「僕はアスカの事を好きなんだ。愛してる」

彼女にとって僕の言葉はどれだけ真実なのだろうか?

例えアスカが僕を受け入れてくれなかったとしても僕は・・・・・

「いやぁ・・・・・嫌い・・・あんたなんかだいっきらい」

「それでも僕は構わない、それでも僕は・・・君を好きなんだ」

「ば・・・・・・かぁ・・・・・ぅぅぅぅぅ」

傷つけ合うことでしか生きていけない不器用な存在

アスカの流す涙は何を意味するのだろう?

小さくしがみついてくる弱々しい手は何に怯えているのだろう?

「ねえ・・・・アスカ・・・・」

「なに・・よ」

「僕のこと・・・・・・」

「嫌いよ・・・・・・世界一大嫌いよ」

「・・・・・そう・・・・」

わかっていた答え でも確かめずにはいられない

本当は違う答えが聞きたかったのかも知れないけど僕は安心する

まだアスカは生きていると

「そうよ・・・・・デリカシーもないし、カッコ良くないし、私の気持ちぜんぜん気付いてくれなかったし・・・」

「ごめん」

「だから嫌いよ・・・・」

「うん・・・・・・・それでも・・・・アスカのこと・・・・・・好きだ・・・から・・・・」

そう、それでも僕は君が好きだ

どんなに嫌われても どんなに拒絶されても 僕は君を選んだのだから

あの砂浜で君が投げつけた最後の言葉

『気持ち悪い』

それでも僕は君を求める

赤く染まった月は今でも僕たちを見ている

未来へ続く道を僕らが踏み外さずに歩いていけるように

希望と痛み 僕はすべてを受け入れて歩いていくよ

君と一緒に進めるならば僕は望む いつか君と笑顔で手を取り合える日を



<野上まこと の言い訳という名の後書き>

野上の処女作 「呪縛・贖罪・癒し」 に2通の感想を頂きました。

Boltさん、怪作さんありがとうございます。

ほとんど自己満足の世界を抜けきれずあまりにも書き殴られただけの構成も

へったくれもない作品でしたが、反響が有ったことは野上にとって非常に励ましになりました。

さて「疵」ですが、シンジ君サイドからのアプローチで書いた「呪縛・贖罪・癒し」です。

最後に眠ってしまったシンジはそれでも希望を捨てずに歩んでいく

そんなのを書いてみたくなりました。

「疵」は癒えないまま新しい疵が刻まれていく様

でもその痛みこそが現実です。EoE後でも生きている2人をこれからも書いていきたいと思います。


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