「ゲーム」

野上まこと



大きなリビングに大きなテレビ。
その前で一人の少年がゲームをしていた。

ピコピコピコ ドカーン

「うーん、おかしいなぁ」

少年、碇シンジはどうもアクションゲームには向いていないようだ。
しかし、このゲーム「エヴァンゲリオン −決戦第三新東京市−」はハイパーキャストと言う
コンシューマーゲーム機ソフトの中でも今もっとも注目されているゲームなのだ。
やはりシンジとしては向き不向きはともかく、買った手前もあるので是非クリアーしておきたいと思う。

「ここをこうやって・・・・ぶつぶつ」

ピコン キュン キュン ドカーン

「・・・・・・・・」

向きになればなるほどやられてしまうのはたぶんみんな同じだと思う。
しかし本人にしたらそんなことは関係ないし、熱くなってるから全く気付かない。

「えい、このぉ!くそぉ」

終いにはかけ声まで出てくる始末。



「はぁ・・・・・・・」

シンジの背後に突然現れたのは幼なじみの少女、惣流・アスカ・ラングレーである。
アスカはちんたらゲームをやっているシンジに頭が痛くなってきたのだ。
この少年は何で自分と一緒にいるのにゲームなんかしているのだろうか?
もう少し、気配りと言うモノがないのだろうか?
全く鈍感な上に、馬鹿・・・・・・アスカはなんでこんな奴を好きになったのかちょっと後悔した。

「馬鹿シンジ!」

ブチン

「あーーーー!!!アスカぁ、酷いよ」

全く情けないと言ったらありゃしない、とアスカは思う。

「ゲームを切られたぐらいでそんな情けない声を出さないでよ、もう」
「だって良いところだったんだよ!もしかしたらクリアーしたかもしれないのにぃ」
「・・・・絶対無理ね」

それはもう断言しきったという声だった。
しかしシンジは珍しく引き下がらない。

「そんなことないよ!だいたいアスカだってクリアー出来ないだろ」

ぴきっっっっと言う音が聞こえてきそうなぐらいアスカの動きが急に止まった。

「シーーーーンーーージィィィィィィィィィィ」
「あ・・・」

迂闊なことを言ってしまった。
負けん気の強いアスカだったらどんな反応をするか何て百も承知なのに。

「やっっっってやろうじゃない!よし、あんたは初号機に乗りなさい。私は弐号機で出るわ」
「う、うん」
「足ひっぱんないでよね。もしあんたのドジのせいでクリアーできなかったら・・・・わかってるわね」
「う、うん」

こうなるとシンジも逃げられないと悟り観念した。
そして、地獄のゲームが始まった。


ピュピュン ドカーン ドコーン

「シンジ、回り込んで!」
「うん」

バキン ドカーン バシュ

「シンジ、危ない!」
「アスカ」

キュン キュン ドカーン

「ナイス、シンジ」
「アスカ、後ろ」
「まかせなさい!」

バシュ ドカーン




ジャーーーーン ジャンジャカジャーン ジャンジャカジャーン バーーーン

−Game Clear −


なかなか熱中した2人はいつのまにやら密着しそうなぐらいの近距離でゲームをしていた。

「やるわね、シンジ。見直したわ」
「アスカが居たからだよ」
「え!?」
「あ」

お互いの視線が絡み合い、お互いの言葉に頬が染まる。

「あ、あのアスカ!」
「は、はい」

突然のシンジの言葉にドキリとするアスカ

「え、えっと・・・その・・・」
「う、うん」

ごくり

シンジの生唾を飲む音がする。
もう少し顔を寄せればキスが出来る距離に2人は居た。

「あ、ありがとう・・・・アスカのおかげだよ」
「え?そ、そんなこと・・・・ないわよ」

アスカの返事の語尾が消え入りそうなぐらいに小さくなる。
シンジにはこんな色っぽいアスカを見たのは初めてだった。
頬を染めて少し視線を俯かせる。
そしてつい・・・・

「アスカ、綺麗だ」
「!!!!」

思わずシンジの顔を見る。
少し照れくさそうにしているけど、目の前の少年は真剣だった。

「シンジ」
「アスカ」

アスカは目を閉じてシンジに近づく。
シンジは意を決してアスカの唇に近づく。

そして・・・・・・・

「そこだ!!!」

「「!!!!」」

バッッッッッッッ

シンジは瞬時にアスカから離れて声の方を見た。
そこにはゲンドウがいる。

「と、父さん!?」

思わず声が裏返ってしまう。
その言葉でこんどはアスカがゲンドウを見た。

「あ・・・・あの、失礼します」

顔中真っ赤にしてアスカはそそくさと部屋を出ていった。

「と、父さん」

全く情けない顔をしてシンジはゲンドウ言う。

「だからおまえは駄目なんだ。シンジ、そーゆー事は一度覚悟を決めたらやめてはならん」
「だ、だって」
「だってもヘチマもない!父さんが若い頃は母さんと」

ガイン

一種異様な音と共にゲンドウは沈んだ。

「やだ、お父さんったらこんなところで寝たら風邪引くわよ」

母、ユイはくすくすと笑いながらゲンドウの足を掴むと引きずって出ていく。

一人残されたシンジはと言うと。

「か・・・・母さん・・・・また覗いてたんだね」

がっくりと項垂れてせっかくのチャンスを不意にしたシンジは涙していた。




<野上まことの 後書きという名の言い訳>

コミカルなパターンのお話を書いてみました。
ふふふふ、キスはさせんぞ!シンジ(笑
ゲンドウはともかく実はユイさんはさりげなくよそ様の娘さんを傷物にしないために・・・・・・。
い・・・いや・・・・あのゲンドウと結婚したお人だからやっぱり好奇心に・・・・。


感想メールはこちらへ。

 


投稿SSのページに戻る