赤い少女は絶望を 蒼い少年は未来を
2人が交わる時はいつやってくるのか?
永遠とも感じる時間のなかで少年は絶望と希望に未来を見つめる。

「ボクの出来る事なんて無いんだ。だけど・・・・・」

諦めるわけにはいかない、逃げるわけにはいかない。
自分が選んだ未来を自分で終わらせるなんて事は出来ない。
しかし少年の言葉は決して少女に届かない。
ゆらりと立ち上がった赤い少女は赤い海へと他人を拒絶し赤い海へと還えろうとした。




「疵   −罪と罰−」 afterday.1




「ちょっ、まっ、待ってよ、何やってるんだよ!!!」

目を離した隙に目の前に広がる赤い海に身を沈めようとしている少女を少年は止めようとする。
慌てて後を追いかけ、少女の背中から腰の当たりに手を回し足を踏ん張らせようとするが足場はヌルヌルとし、うまく押さえられない。
なのに少女はまるで何事もないかのように確実に赤い海へと沈んでいこうとする。

「こんな事したって解決なんて出来ないじゃないか!!」

少年が止める理由は自分のため、少女が沈む理由は自分のため。
他人の為じゃなく自分のため。
まだ少年はそれに気付いていなかった。
なんとか、少女の腰にしがみつき少年は少女の行動を阻止する。

「・・・・・して」
「?」

突然立ち止まった少女は少年を見ようとせずに呟いた。

「アスカ・・・なに」
「離して・・・・あんたには関係ないでしょ!!」

明らかに怒気を含んだ少女の言葉に思わず少年はビクッと少し震える。
身体にしがみつく少年の腕の力が抜けたと同時に振り払い少女は少年を冷たく見据えた。

「あんた・・・・私に何をした?あんた私に何をしてくれた?」

ぬかるみに足取られ正座をしている状態の少年は腰の当たりまで赤い水に浸っていた。
少女は膝まで水の中に沈んでおり、少年を見下ろす状態で睨み付けた。

「私が傷付き、苦しんでいた時、あんたは何をしてくれた!?」

静かにしかし怒気を含んだ言葉はシンジの心に疵を作る。

「あんた、私が病室で眠っていた時、何をしてた!?」
「あ、あれは」
「あんたはいらない、あんたは私を惑わし疵付けるだけの存在よ!」

言葉を遮られ、悔いても悔やみきれない行為を指摘され少年は居たたまれない気持ちになる。

『逃げても良い事なんて何も無い。ボクは・・・・未来を選んだんだ』

言い訳、言葉に出来ない心の弱さ、不確かなモノにしがみつくことしかできない悲しさ。
逃げることも進むことも出来ない少年には苦しみしか残らない。


「ふん、そこで一生後悔すると良いわ」


少年が自責の念に捕らわれているのを冷たい目で見つめる。
そんな少年に見切りを付けて再び赤い海へと沈んでいこうとする少女、大きく目を見開き動けない少年。


時間は残酷、過去は残酷。


「あ、アスカだって、逃げてるじゃないか!ボクから、そして現実から!!!違うだろ!君だってボクと同じだ」

自分を非難する・・・・そして他人を非難する。
頭の中は伝えたいことの一欠片も残っていない、ただあるのは拒絶された事への憎しみだけ。

「何・・・・なんだって?」
「そうじゃないか!自分は悲劇のヒロインのつもりか!アスカだって間違ってるじゃないか。あの時は逃げてたのはアスカだって同じだ」
「・・・・・・・・」
「アスカだって汚いんだ!!」


叫んだ少年に走るように近づくと少女は少年の首を片手で握りしめる。
突然のことに少年は驚いたような顔を少女に向けるが、少女はそのまま抱えるようなカッコで砂浜へと投げた飛ばした。


「ぐはぁ」

少年は砂浜に転がり倒れる。
突然投げ飛ばされたことで体中に痛みを感じ、自分の状態がよくわからない。
そんな状態の少年の真横まで勢いよく少女は走ってくると憎しみに満ちた瞳で少年を捉えていた。


「あんたに・・・・あんたになにがわかる!!あんたなんかに私の苦しみがわかってたまるか!!」
「う・・・わ、わからないよ・・・・・・げほっげほっ・・・・アスカは何も言わないんだ、わかるわけないだろ」
「あんたにわかって貰いたい訳じゃない、私は私の意志で進んでいくのよ!」
「選んだ道が死ぬことが進む事なの!そんなの弱虫のする事だ・・・・ぐぁ」

怒りのあまりに少女の足は少年の脇腹を力一杯蹴る。
苦悶の言葉が少年から漏れるのを聞くと逆に少女はいやらしい笑みを浮かべ始めた。

「あんた何も出来ないくせに良くそんなこと言えたわね・・・・・ふうん?・・・・・・・ああ・・・・そう・・・そう言う事ね」

少女は身体を覆う赤いスーツを力任せにはぎ取り、包帯を引き千切り上半身のみ、裸体をさらした。

「な、何のつもりだよ」

思わずギュッと目を瞑る少年に少女は再び蹴りを加える。

「うっ」
「ちゃんと見なさいよ、ほら・・・・・あんたがオカズにしていた身体よ!あんた本気で私を救えると思ってるの?お笑いぐさだわ!
 自分さえもどうにもならないあんたにこの疵に意味が解るっての!?」

無数の疵が少女のさらけ出されている上半身に付いていた、新しいモノから古いモノまで、数え切れないぐらいの疵が。




「な・・・・・」






絶句。








少年の脳裏に浮かぶ少女の裸体には疵一つなかった。なのに見ているだけで痛々しい疵痕は少女の身体に無数に付けられている。

「さあ、やってみなさいよ・・・ここで今すぐあんたの汚い欲望で私を汚してみなさいよ」
「・・めろよ」
「さあ」
「やめろよ」
「さあ」
「やめろ」
「さあ」
「やめろぉ」
「さあ」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」



少年は突然跳ね起き少女を力一杯抱きしめた。



「何すんのよ!」
「違うだろ、アスカ、違うだろ。そんなに自分を苦しめたって何も無いよ。アスカ止めてよ、もう、こんな事は止めてよ」
「離せぇ」
「嫌だ、アスカが止めるまで離さない」
「離せぇぇぇぇぇ」

暴れ少年の腕を振りほどこうとする少女、しかしいくら暴れても少年は決して離さない。
肩と首に噛み付こうとも、額に頭突きしようとも少年は離さなかった。
あまりにも悲しすぎる少女の心に触れて、疵に苦しみ続け、今も自分を傷付け続けようとする行為に少年は涙した。


血が流れ少年の身体に疵が刻まれる。それは少年の懺悔か?少女の復讐か?
痛みが現実を刻み込む、少年と少女の心はまだ闇の中。


「それでも・・・・・ボクは・・・・アスカが好きだ・・・・この気持ちは嘘じゃない」


柔らかい痛みが少女を襲う。
不快な気持ちと心地よい気持ち。
言葉はすべてを溶かしはしないが氷の心に小さなヒビを入れた。
それでも少女はまだ残酷な現実を選び、少年はまだ見えない未来(みち)を選んだ。

見えてしまった他人の欲望、砕けてしまった自分の心、失ってしまった未来への道。
このまま楽になりたいと思う心と拒絶する心、そんな揺らめきが震える手で少年を振りほどく。
少女は揺らぐ心にけじめを付けた。


「私は・・・・あんたの事なんて・・・・嫌いよ」


心なしか声が震えている。
しかし少年には十分すぎる言葉だった。
糸の切れた人形みたいにその場に座り込んで俯いてしまった。
言葉の変化に気付かないまま絶望に押しつぶされてしまった少年、救いの糸を自らの手で断ち切ってしまった少女。
その足は再び海に向かうことはなかったが静かに少年から離れていった。


「それでも・・・・ボクは・・・・・」


焦点の合わない視線のまま少女を捜し求めるが捉えることは出来なかった。
再び俯いた少年はは声もなく涙を流す。
決して振り返らない少女は一歩、また一歩と現実から遠ざかって行こうとした。
求める答えがどこにあるかもわからずに。







<野上まことの後書きというなの言い訳>

ご無沙汰しております、野上です。
なんかすごい展開になってきました。
このお話は「現実」をテーマにしています。
甘い、楽しいことばかりじゃない。
でもそれを乗り越えていく様を書いていきたいと思っています。
執筆の遅さや一本の短さがもどかしさを感じますが(苦笑



あいわからず漠然としかこの先を考えていませんが私のペースでこの後も書いていきます。
読んでくださる方が居る限り。
では次でお会いしましょう(^^。


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