想像と現実のギャップ あるいは百害有って一理無し




炎天下、今日もこの街はいつものように暑い。
蝉の鳴く声がうるさいほど聞こえる。

そんないつもと変わらない日に汗をぬぐいながら青年が歩道を歩いている。
少しよれたシャツに無精髭、うだる暑さに辟易しているような表情。

「暑い・・・・」

口癖のように呟く青年はやや疲れた様子。
しかし別に足を止めるでもなく歩き続けている。

「暑い」

額から吹き出す汗を特に気にせず目的地に向かって緩やかに歩いていく。
青年は何度引き返そうかと思っていた。
しかし約束したのは自分だと思うと帰るわけにも行かず・・・。

重い足取りのまま数分後ようやく目的の公園が見えてきた。

「はぁぁぁぁぁぁぁ、やっと着いたよ・・・」

目的地に着いた事による安堵感が大きな溜息と共にでる。
ふと、視線を公園の入り口に向けるとそこには一台の自動販売機があった。
何の変哲もない販売機。
どこにでもあるような自動販売機に青年は足を向けた。

青年は少し戸惑うように陳列されている商品を見る。
商品名が違う以外なにが違うのかわからない。
味でも違うのだろうか?

「そう言えば・・・・・」

昔、尊敬していた人がこの中にある一つを持っていたことを思い出す。
そして青年はおもむろに目的の商品のボタンを押した。

ガコン

と言う音と共に商品がでてくる。
少し緊張した面持ちで商品取り出し口からそれを取り出した。

「ふぅ」

何故緊張していたのかよくわからないが青年は公園へと足を向けて入っていく。



公園内は中央に噴水があり、回りには結構たくさんの植林がある。
それが避暑地になっているので結構人がたくさん集まる場所にもなっている。
ただ、今が平日のお昼過ぎと言う時間でもあって青年以外の人は見かけない。
噴水前のベンチに腰掛けた青年は手に持つその商品をしげしげと見つめる。
こんなものが美味しいのかよくわからない。
だが、なんとなくかっこがいいと思えてしまう。
それに大人の仲間入りを果たしたと言う感じもする。
つまり些細な興味なわけだ。

青年はおもむろに小さな箱に巻かれている透明のビニールを外す。
箱の上部がフタになっていてパカッと外してみた。
中に入っているモノから一本だけとりだしてみる。

じぃっとそれを見ながらも「よし」と心の中で呟き、指に挟み口に銜える。
なんだか大人になった気分がするらしい。少しにやけ顔になる。
あいてる方の手をポケットにつっこむとなぜかライターがでてきた。
それの先端部に火を付けると同時に煙が立ち上った。

タバコ・・・・・それは大人の必携アイテム。

青年はそう思っている。
そしてタバコをくわえたまま息を吸い込んだ。

「げほっげほっげほっ」

むせた。

「ばっかじゃないの」

突然女性の声が聞こえる。

「げほっげほっ・・・・うぅぅぅぅ」
「気持ち悪いなら唾吐いちゃいなさいよ」

その女性は青年の持つタバコを取り上げすぐ横にある灰皿にタバコを入れてしまう。
そして冷たく冷えた麦茶の缶を青年に手渡した。

「ん・・・・んんんん・・・・・はぁ・・・・・」

口の中に広がる嫌な味は麦茶を流し込んだことによりなんとか消えた。

「ばっかねぇ」
「・・・・・・いいだろ、僕だって大人なんだし」

口をとがらせながらバツ悪そうに言う青年に対してその女性は苦笑する。

「タバコなんて百害有って一理無し。それにあんたには似合わないわよ」
「そんなことないだろ、加持さんだってタバコ吸ってたし」

反論してきた青年に対して少しだけ驚くような顔を女性は見せた。

「はぁ・・・あんたはあんた、加持さんは加持さん。でしょ?馬鹿シンジ」
「そうやってぽんぽん馬鹿、馬鹿ってアスカが言うから僕だって・・・・・ぶつぶつ」

なにやらいじけてしまった様子。

「カッコから入るなんて悪い癖よ、どうせ害しかないモノを口にするぐらいなら・・・・」

と言うと俯いている青年のあごに手を当てて女性の顔を直視させた。

「え?えええぇ?」
「ん」

青年の唇に触れた柔らかなモノ。

「これなら百理あって一害なしよ」

そう言うと、青年の手を掴み眩しいほどの笑顔を魅せた。

「行きましょ、せっかくのデートなんだからさ」
「・・・そうだね」

お互いの手を握り真夏の街に2人は飛び出していく。
2人とも嬉しそうに微笑みながら駆けだしていった。
そんな2人の去った後のベンチには先ほどのタバコが一箱。
そこに
「百害の元」
とあまり上手くない字で書かれていたまま放置されていた。





「タバコの臭いってさ、キスの時結構嫌よ」
「あ、そうなの?だったらやめるよ」



<野上まことの後書きと言う名の言い訳>

えーー、私はタバコを吸いません。
とは言えやっぱり吸ったことはあります。
あまり美味しいモノじゃなかったと思いましたが「かっこいい」と思ってたので3年ぐらいは吸ってたかと。
タバコ吸わないヒトにとってヘビースモーカーって結構「臭い」がするらしいです。
って言うか、今では私も結構敏感になりました>タバコの臭い
アスカの言うように「百害有って一利無し」
これを機に禁煙にチャレンジしてみては?(^^