NEON GENESIS EVANGELION Short Story

『一人で…』

Written By pzkpfw3









 はじまりは些細な、本当に些細なことだった。




 いつもならアスカが怒って僕がぼやいて、それで済んでしまうような。

でも、今日は違った。お互いに気持ちがささくれ立っていたのかも知れない。

二人とも引っ込みがつかなくなって(多分アスカもそうだと思うんだ)夕食

後から一言も話してない。


 僕はアスカに

 「今日は一人で寝るから。」

って言った時もアスカは僕のほうを見向きもしなかった。

そして僕は普段はお客様用のベッドに身を沈めた。


 暗闇の中で僕は一人考えていた、なぜ眠れないのだろうと。

昔は、そう物心ついてからずっと、一人で眠るときだけが僕の安息だった。

一人だから一人きりだから僕を脅かす人も傷つける人もいない。

自分を隠して誰かにとっての”いい子”を演じる必要もない。

そんな暗闇の安息。


 でも、今日は違った。

アスカが買ってきたレトロな機械式時計の僅かな動作音が気になる。

空調が起こす微かな空気の揺らぎが気になる。

普段使われていない部屋の空気のなんとなく湿っぽい匂いが気になる。

新品のシーツの冷たい感じが気になる。

そして…

アスカのことが気になる。

一度気になりだすと、もう僕の頭の中はアスカのことでいっぱいになって

しまった。

笑ってるアスカ、拗ねてるアスカ、怒ってるアスカ、泣いてるアスカ。

(そう考えると、アスカって表情がころころかわるよな。)

僕はそんな事を考えて少し笑ってしまった。


そして、僕は馬鹿みたいに唐突に気がついた。

(そうだ!この居心地の悪さは…)

そう、アスカがそばに居ないからなんだ。


そんな簡単な事に今まで気がつかないなんて。

僕達はそばに居るのが当たり前になりすぎていたのだろう、だから…。

明日起きたらすぐにアスカに謝ろう。アスカを失わないうちに。

そんな事を考えながら僕は漸く眠りに就こうとしていた。


その時、微かな足音が部屋の前を通り過ぎた。

(アスカだな。トイレでも行ってるんだろうな)

そのまま夢の世界に入りかけた僕だけど、不意にふわっとした

感触と暖かさが僕を現実に引き戻した。

薄く目を開けてみると、蜂蜜色の髪に縁取られたアスカの顔が

目の前にあった。

僕はしばらく身動きもできずに、彼女の顔を見つめ続けた。

(あったかい、いい匂いがする。アスカの匂いだ)

僕の腕は無意識にアスカを抱きしめていた。そしてそのまま

眠りに落ちた。




 (……なに…何か暖かくて、やわらかくて……)

 (……いい香りがする……)


 「……う、うう〜ん」

 「シンジ…おはよう」

 「ア、アスカ…おはよう」

 「………」

 「………」

 「「その、ごめん(なさい)」」


僕達は思わず顔を見合わせた。そのまま少しの間じっとして

いたんだけど、申し合わせたように二人して笑い出した。


 「…ほんとにごめん」

 「いいのよ、私も悪かったし」

 「じゃ、仲直りしよう」

 「うん、でも……」

 「でも?」

 「仲直りのしるしを頂戴」


っていって、アスカは目をつぶって桜色の可愛い唇を差し出した。

僕はアスカの可愛い仕草にふらふらとキスをしてしまう。


 「……ん…んん…」

 「……ふう」


「「大好きだよ、シンジ(アスカ)」」







                                   おわり



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