「あつ〜い!」
「冷房、つけたらどうかな」


 ただ今の室温は52度。暑いとか言うレベルではなく、危険だ。
 シンジもアスカも、ほとんど互いを遠慮することなしに上下ともラスト一枚になっていた。恥や外聞で人は生きていけない、それが今の彼らの心からの思いだろう。それに、そのラインならギリギリ許容範囲な関係でもある。
 目の下を赤くはらした顔でアスカは、シンジの提案を即座に却下した。

「つけれたらつけてるわよ〜、今完全に壊れてるからつけらんないんじゃないの〜」
「・・壊したのはアスカだよ」
「え〜い五月蠅い!」

 早い話が、アスカの突発的な思い詰めにから何の脈絡も予告もなしに始まった二人の不条理な我慢大会は、暑さのあまり不条理な怒りを発露した彼女の蹴りで機械が故障、暖房が全開でつけっぱなしになっているといった現状だ。
 当然、アスカはこんな高温に耐えられるはずがなかった。適切に言い換えるなら、アスカの限りなく我が儘な性格は、だが。
 ともかく彼女は、蹴ったところでどうなるわけでもないのに壁を蹴りまくっていた。

「どうしてこんな所に閉じこめられてるのよ〜!」






 話を過去に戻そう。
 なぜ彼、主夫&エヴァ初号機専属パイロット碇シンジとそのお隣さん&仲間&ライバル&恋人立候補者(すでに一度落選済み)、惣流=アスカ=ラングレーの二人が意味不明な苦しみを味わう羽目になったのか。それは必ずしも、アスカだけに責任があるわけではなかった。といって、その彼女と苦しみを分かち合うシンジには微塵たりともなかったが。

「----ちゅ〜わけで、私は今夜帰れないからよろしくね♪」

 食事も済ませまだまだ宵の口ですることもなく、リビングで仲良く転がっていたアスカとシンジの前に立っている、ピンクのノースリーブにジーンズをカットしたホットパンツという相当刺激的な格好をした女性----葛城ミサト、彼女こそこの事件の遠因だ。

「ひょっとして、出張にかこつけてお酒なんか買ってきたりしないでしょうね」
「ビールばら!」

 シンジとアスカの強烈なツープラトン攻撃に思わず精彩を欠くミサト。しかし、ここでひいては酒豪葛城の名がすたる。
 ミサトは自らのもてる全能力を口と脳に回し、二人----主にシンジをだが----の目先を誤魔化そうとした。

「それより、私がいないからってアスカ--------」
「なによ」
「シンジ君襲うんじゃないわよ」
「なっ・・・!」

 顔は真っ赤にして、語気だけは荒らげずにアスカは反論した。

「逆は心配しないの?」
「物理的にあり得ないわよ」

 そっけなく受け流すミサト。シンジは相変わらずの微笑み。
 アスカは拳をぷるぷる震わせながら、形勢不利と見て逃げるミサトの後ろ姿に手元のクッションを投げつけた。

「ぶわぁーかっ!」
「仲良くしすぎないのよ〜・」
「ぅうるさいっ!」

 パタン、と玄関のドアが閉まる音がした瞬間に、急に部屋中が静かになった。
 アスカはコホン、と咳払いをして、シンジの方を改まって振り返る。

「ちょっといい?」
「うん」

 彼女はシンジの隣に座ると、不意にエアコンのリモコンに手を伸ばした。そして暖房のスイッチを入れるやいなや、限界まで温度を上げて部屋を突然閉め切った。
 さすがにシンジも慌ててとっさにリモコンをアスカの手から奪い取ろうとするが、アスカは手にしていたそれを壁へぽいと投げつけるとサッとその場を離れてしまった。

「・・・アスカ、どうして電池を抜いたのさ」

 シンジが拾ったリモコンには裏蓋がついておらず、そこの空白を埋めるはずの物質が見あたらない。アスカは窓を開けてポイと手にしていたものを捨てると、部屋を飛び出て言った。だが、仕方がない、といった風に困った顔をしてゆっくりとした足取りでそれを追ったのがいけなかった。
 彼がぐるりと家中を一周してきて走って戻ってきたアスカに追いついたときには、異様な熱気----いや、ある種格闘家のような特殊な職業しか発散することの出来ないような殺気すら室内の空気に感じることが出来た。辺りを見回してみると、全てのリモコンというリモコンが転がっており、丁寧に電源を抜き取られている。窓もきっちり閉められている上カーテンも閉められ、まさにここは都会の砂漠。

「アスカぁ?」

 彼にしては随分と頓狂な声で、再び顔をあわせるや納戸に引きこもった彼女のことを心配している。すると中からは不思議な言葉が漏れ出てきた。

「--陽と------ぜ」
えっ!?

 引き戸に耳をあてて本当に心配そうにしていたシンジは、しかしいきなり開かれた天の岩戸に飛び込むこととなった。急に開けられたのでさすがの彼も体勢を立て直すことが出来ず、ケンケンで室内に入ってしまう。
 そこへ待ちかまえていたようにアスカが素早く引き戸を閉め、それと同時に壁の向こうから何かの落ちる音が聞こえた。
 ぺたん、と、とうとうしりもちをついてしまったシンジの顔を目一杯すまなそうに覗き込むと、アスカはこういった。

「太陽と北風よ」
「え?」
「童話にあったでしょ、太陽と北風がどっちが凄いかって決めるのに旅人のコートを脱がせる争いをやったおはなし。太陽がアタシで、北風がシンジね」
「----誰が旅人?」

 思わず聞いてしまう付き合いのいいシンジだったが、アスカの表情は彼が話にのったと見るや、やたら勝ち誇ったものに変わっていく。そんな彼女の様子を見ながらなお何をたくらんでいるのか感づくことが出来ずに、シンジは首を傾げている。

「アンタが兼役するのよ」
「僕が僕の服を脱がせるの?」
「あなたばか!?アンタは北風兼旅人だから自発的に服を着ていいのよ。でも、この納戸の中も物を保存するために一応エアコンついてるから、当然もうすぐ我慢できないくらい部屋の中は暑くなるわ」
「そんなことして何になるのさ」
「----既成事実よ」

 声が赤面するとはさもありなん、うっすら頬に赤みをさして、アスカは上着を脱ぎ始めた。
 ここで動転するのが普通の人間で----それ以前に、普通の人間なら男でも女でもアスカのような不器用だけど可愛い性格の美少女の告白を無下にはしないが----そして、ここで彼女の肩を優しくつつんで、それから一分あまりの静寂のあとにそっと放し、本人のためになる厳しいことをいうのがシンジなのだ。

「焦っちゃダメだよアスカ。僕は確かにいつまでたっても君の求めることに対して拒否し続けていたけど、いつか僕がそういったことに気が回せるまで余裕が出来たとき初めて改めて考えるって、そういったじゃないか。
 僕たちが中学生だとかそういった言い逃れはしないよ。けどそれって、あらぬ事まで引き起こすトラブルの元になるよ。ミサトさんから伝わってネルフの人達に、ネルフの人達から家族の人達に、って・・・本当にそんな関係になっていてさえそういう噂が立つっていうのは困りものなのに、ましてや嘘を広めるようなことになったら僕たち二人、第三新東京市に居づらくなるよ。
 アスカだってわかってるよね、離れたくないよね、ここで知り合ったみんなと。僕らのここでの役目が終わったときなら構わないかもしれないし、いずれ人との別れは遅かれ早かれ来るものだから----しかもその時はまた、会いたいときに会いに行けるよね。でもそういった噂があると出向いていった先にも迷惑がかかるんだ。
 アスカは頭がいいからわかるよね?」
「----うん」
「だからちょっとした冗談でもさ、あんまり本気でしない方がいいよ」

 ある程度まで親密な関係を築き上げた人にだけ炸裂する、シンジお得意の説教爆雷がアスカに投下された。だが、正論で鮮やかにアスカの高い理性に訴えかけるシンジの作戦はせっかく目標へ確実にダメージを与えていたのに、最後の部分で極め損ねたようだ。
 アスカは「冗談」というその語句に反応し、烈火のごとく怒り始めたのだ。

冗談!?アタシが追いつめられて、その想いを必死に日常レベルまで落とそうとしてやったことを冗談っていうの!?それこそ冗談じゃないわよ!!
「僕は、将来ならともかく、今それを望まれるのが嫌いなんだ」
「----正論っていうのはね、聞かされていて正直、気持ちのいいものじゃないのよ!」

 だがシンジも退かない。というよりも、アスカの言葉のどれに反応したのか、見る間に普段の冷静さを欠いて、ムキになってまくし立ててきた。

イ・ヤ・だ!人類の危機を前に自分のことだけに構ってられない、だからアスカにはっきりイエスもノーもいう。ノー!
バカ!

 しかし絶叫と共に渾身の力を込めたアスカのビンタは、シンジの見切りであっさりと鼻先をかすめるだけに終わった。
 グイ、とその腕を掴み、自分の方へ引き寄せ、そして彼はアスカが初めて見るほど最高の笑顔で、残酷な言葉の牙を振るう。

「だからどうしたのさ?」

 そこにいる男が一体何であるのか、突然理解できなくなってアスカは、ジリ、と後ろに下がってしまった。
 耳慣れていたはずの声のトーンまで変わり、顔に浮かんでいる微笑みもいつもと違い張り付けられた仮面のように見える。

 一歩、彼は彼女へ踏み出した。
 二歩、彼女は彼から退いた。

「いったろう?僕は自分のことだけに構っていられないって」

 さらに一歩、彼が踏み出したとき、アスカは全身を押しつぶすような異様な殺気にあてられ、床にぺたん、とへたり込んでしまった。
 碇シンジと殺気、彼を知るほとんどの者にとってそれほど似合わない取り合わせもなかったろう。だが、現にこうして彼女はその殺気を浴びせかけられている。
 手に汗をかき、のどはからからに渇き、背中はびったりとノースリーブのシャツが張り付く。目を見ることすら恐ろしくて、混乱した彼女の視線はいつのまにか自分の体をちらちらと眺めるようになっていた。

 さわさわと全身の産毛が逆立つような感覚と、何者かにおさえつけられているかのような重圧。

 今彼がどこを見ているのか、はっきり肌で感じ取ることが出来るほど強烈な殺気が込められたその視線。


 アスカは例え猛獣の檻に入れられてもこれほどの恐怖を感じることはなかったろう。気がつけば歯の根は合わずかちかちと規則正しい十六ビートを刻み、目からは涙が溢れてきていた。


ズン


 シンジの殺気が膨れ上がったのを感じてアスカは、ヒッ、と小さな悲鳴をあげてしまった。動物に授けられた普遍にして最後の自己防衛本能から、頭を抱えてうずくまる。

(死ぬ!)

 しかし、いつまで経ってもアスカの身にはなにもおきない。
 一分ほどしてようやくそろそろと顔を上げると、そこには彼女の知るシンジがいた。

「・・・・?」

 いや、その微笑みにはいつもはのぞかせることのなかった深い憂いと、そして大きな哀しみが含まれている。先ほどまで自分にあれだけ殺気をぶつけていた本人だというにもかかわらず、アスカはその顔をじっと見つめた。
 そこには、素顔の碇シンジがいた。

「----いったでしょ?『僕は自分自身のことに構ってられない』って。アスカのこと、構っていられないなんて一瞬も思ったこと、ないよ」

 自分も床に座り込んでいる・・というよりは、へたりこんでいるアスカにあわせるつもりか、シンジはその場でストン、と腰を下ろした。

「ミサトさんはね、充分に大人なんだけど、ちょっと困ったお姉さんでいつも僕がしっかり見ていなきゃいけない人なんだ。
 リツコさんはそのお姉さんの大事な親友。しっかりしているみたいだけど、ちょっとでいい、誰かがそっと支えてあげるとすごく活き活きすると思うんだ」
「?」

 アスカは一体何が始まったのかと、頬を伝う涙も拭わずにきょとんとして話をじっと聞いている。

「マヤさんも。マヤさんはロマンチストだから現実の醜い部分を見せられたら、きっと耐えられなくなってしまう。僕が一番今心配してる人なんだ。
 シゲルさんもマコトさんも、いつもキビキビしてる。ホントに凄い人達だよ。でも自分達のやっていることが本当に意味のあることなのか、シゲルさんはいつも悩んでいる。マコトさんだって自分の望むことが本当にかなうのか、現実を知りながら苦しんでいる。
 副司令は----あの人は、もう何一つ僕なんかが心配するようなことなんてないと思うけどね」

 彼はそういってクスッ、と、表情を大きく崩して----これはシンジにしてみれば、という意味で、本当は普通の少年というものは、こうやって屈託なく笑うのが当たり前だが----笑い、そしてアスカの方にそっと体を伸ばした。

「レイだって、僕の知らない深い・・・どれほど重いかしれない何かを背負っている。しかもそれが重いものだとも知らずに、これまで生きてきたんだ。だから僕は彼女に少しでもその重荷を下ろして欲しいと思って、何度も接してきた。
 今じゃほとんど妹みたいな感じなんだけどね」

 言いながらも彼のその表情にはどこか安らぎにも似た色が浮かんでいて、それを見るアスカの心まで落ち着かせる、そんな心のぬくもりが顕れていた。
 だがそこでつと言葉に詰まり、「ダメだな、まだ」と小さく呟き、それからアスカの手を取ってへたり込んでいる体ごと自分の方へ、その細身からは想像もできないほどしっかりとした力で引き寄せる。その、今度こそ全く予想だにしなかったシンジの行為に、アスカも思わず赤面をしながらされるがままだ。

「父さんは----父さんは、さ・・不器用なんだよ。自分の知っているやり方がそうだから、それだけを信じて、一直線に進んでしまう。僕もこんなに偉そうに人のことをあれこれ言ってるけど、自分でもわかる、子供だ。
 だから僕たち親子の関係って、なかなか元に戻らないんだろうね、って、アスカに今話す事じゃないよね、ゴメン」

 線の細くやや女性的ではあるがそれが中性的な魅力をもかもしだし、造作の整っていることもあって見慣れた今でも綺麗さにハッとする----そんな顔が、すぐ目の前で本当にすまなさそうにして彼女の瞳の奥を見つめているのは、奇妙にもそれまでの全てをかき消すほどに強く、そして甘い衝撃となってアスカの心を芯まで貫く。
 
  先ほどまで自分にあれだけの殺気を放っていたにもかかわらず、彼女はそれを全て忘れてしまったかのように--いや、間違いなくそれを忘れほれぼれと、自分の手をまだ掴んでいる少年の顔に・・・初めて自分の魂を揺さぶった男の顔に、見ほれていた。

「さっきはね、アスカが少しでも僕のことを嫌いになってくれるといいな、って、そんな気持ちも含めてああしたんだ。ごめん、ほんっとうにごめん」
「いいのよ、そんなこと--------それよりも、あたしがあなたのことを少しでも嫌いになるようにって言ってたけど、そんな回りくどいやり方をしなくったってあなたが『もう姿を見せないで』っていうだけで、まだ普通に諦めもついたのに。アタシのこと嫌いなら、さ・・・・はじめっからはっきりそういえばいいのにさ!」

 アスカは辛くなって、彼から顔をそらした。

「アタシは本当にあの時聞いた、あ、アンタのセリフが好きだったから、だから一度きっぱり断られてもこうやって毎日さ、少しでもシンジのそんなところに触れていたくて来てたのに、なのに、いつもアタシに気をつかって----バカみたい!なれない言葉遣いまでしてアンタに少しでも前より近づけるように努力したのに、当のシンジがそんなじゃアタシ、まるっきりバカみたいじゃない!
 もういい、帰る!!」

 部屋を飛び出ようとしたアスカの右腕は、だがしっかりと強い意志に掴まれていて立ち上がることすら出来なかった。

「僕がいいたかったのは、アスカが僕に近づけば近づくほど、僕がアスカの思っているような人間じゃないってことだった。だから・・」
「そんなの・・・そんなの、人間だから当たり前じゃない!」

 今度はシンジが固まる番だった。

「アタシだっていくら天才って自負してたって人の心まではわかんないわよ!才色兼備で性格だってそんなに悪くないと思ってるし、同じくらいの他の女に比べてアタシが劣るなんて思ったことないわ!
 けど、アンタはそんなアタシをはっきりふったじゃない。アタシ、自分から告白するなんてことがあるなんて、しかもふられるなんてこと、考えたことだってないわよ。でもシンジにはシンジの好みとかがあるんだし、その・・他に好きなやつがいるかもしれないって考えもしたわよ。
 なのにアンタはまたアタシのことを否定する、アタシを受け入れてくれない!受け入れようともしない!そんなのってないわよ!!」

 もう途中からは半分涙声で、その美しい顔を小さな子供みたいにくしゃくしゃに泣き濡らしてアスカはためにためていた思いの丈をぶちまけた。
 シンジはただ、胸を突かれたような顔をしてアスカの言葉の続きを待っている。

「----だからぁ

  ・・グスッ

自分で何でも背負い込まないでよぉ!

  ・・ヒック
  
ミサトだっていってくれたじゃないよぉ

  ・・グスッ

アタシのこと

  ・・グスッグスッ
 
家族みたいに

  ・・ヒック
  
このうちに来ていいってぇ!」

 そしてとうとう彼女は声をあげて泣き始めてしまった。

 シンジはその最後の言葉を聞いてからしばらく、ぎゅっと目をつぶり唇をきつくかみしめていたが、やにわにキッと精悍な顔つきになり、アスカのことを強く抱きしめた。それはシンジがアスカの想いに対して初めて応えた証であり、彼女に本当にすまないことをしたという自責の念の表れであり、泣きやまない"家族"を優しくなだめるための仕草でもあった。

「・・・ゴメン、やっぱり僕、まだまだ子供だった。独りよがりだったね」
「そうよぅ、バカァ!」

 ドン、と背中を叩くアスカを、ただじっと抱きしめ、そしてシンジは一滴の涙をこぼすのだった--------





 と----

 ここまでの経緯を聞けば誰もが感動し、涙すらしたかもしれない青春の熱い1ページだ。
 だが、それからが問題だった。

 泣きやんだアスカを連れてとりあえず納戸からでようとしたシンジだったが、なにかつっかい棒のようなものが引っかかっているらしく、引き戸のドアは二人がかりの力でも開くことはなかった。

 大分調子を取り戻してきたアスカが怒ってドアを蹴ったのが決定的で、妙な具合に壁にめり込んだ引き戸はそれ以降びくともせず、二人の脱出を困難なものとしてしまった。

 それだけならまだミサトの帰りを待つという選択肢も悠長に選ぶことが出来たろう。

 だが、問題はアスカが全室のエアコンの電源を、暖房をフルにかけたあと窓から捨ててしまっていたということだ。
 セカンドインパクト以前の仕様ならまだ手動のスイッチもついていて、直接消すことだって出来はしたが、運の悪いことにこれでもこのマンション、ネルフが用意した士官用の、最新設備の整った場所だった。
 全室付属のエアコンはコンセントすら内部に電線が通っているために不要とされ、電気機器最高の禁じ手にして最終手段、電源落としすら通用しないということだ。
 そして中の暖房外の暖房さらに自然の暖房とトリプルの責め苦を受けることになった二人は、密室での地獄の我慢大会を開催、ということになってしまったのだ。

「なんとかしなさいよ!」
「僕じゃあどうしようもないって。壁とか蹴り壊せるわけないし----」
「アタシこんな死に方いやぁっ!シンジ、いっそさっきみたいな勢いでアタシを殺して!」
「・・・馬鹿なこといってないでなんとかしないと、本当に大変なことになっちゃうよ」

 アスカとしては初抱擁のあとに感動的な流れにのって初キスぐらいまでいきたかったかもしれないが、今は互いに近寄っていることすら苦痛な状況だ、それはかなえられない願い。
 シンジですらなりふりかまわずトランクス一丁で部屋の隅に立って、それでもけなげにブラとパンティー姿のアスカの方を見まいと壁と向かい合って汗の滴を垂らし続けている。
 まさにここは都会の砂漠、一夜にして出現した幻の秘境。そしてミサトという考古学者が発掘したとき、そこには間違いなく二体のミイラが横たわっているに違いない・・・・そんなぞっとしない想像までアスカは思わず浮かべていた。

(正常な思考が出来なくなってきているわね、マジでやばいわ。でも--------チャ〜ンス!)

「シンジィ〜!」
「我慢だよ、アスカ」
「アタシ、もうダメ〜・・・」
「ダメだって、アスカ」
「死ぬ前に----最後に、キス、してぇ〜」
「アスカ!」
「キス〜」



 ちなみにこの三十分後、なんとか納戸の壁にはパイプスペースへの穴が空いていることを思いだしたシンジが、意識を半ば失いかけ、ぼうっとした顔でへらへら「キス、キス」と呟きながら笑っていたアスカと共にそこへこもり、さらにその1時間後にやってきたネルフの保安部に救出されたのだけは知らせておかねばなるまい----



★あとがき★

どうもみなさん、いかがだったでしょうか?

ここには初投稿ですが、アスカ×シンジとなっているのかどうか心配です(笑)
なにせ当初の予定からは大きく外れてしまったので、いっそ本伝の方に組み込もうか
とも思ったくらいですから

まーそんなこんなで、どうもおつきあいいただきましてありがとうございましたm(
__)m


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