アタシにはライバルがいる。
今まで出会った事が無いほど強力な相手だ。これは間違いない。
アタシの中に眠っていたシンジへの想いに気が付いてから、シンジを見る事が多くなった。
いや、アタシ自身が気が付いていなかっただけで、ずっとアタシはシンジを見ていたのだと思う。
だからわかる。アイツはシンジの一番近くにいる。
一緒の家に住んでるアタシでさえ、あんなに近くに行けないのに……。
今はシンジの膝の上で、頭を撫でられ気持ちよさそうに目を閉じている。
悔しい。とてつもなく悔しい。
アタシにもしてくれないのに……。
でも、こんな事を心の中で愚痴ってる暇はもう無い。
積極的にシンジにアタックしなければ、アイツには勝てない。
悔しいけど認めるしかない。
アスカ、行くわよ!!
最
強
のライバル
by K-tarow
「コラッ、ペンペン!決着をつけるわよ!!」
ソファーに座っているシンジと、その膝の上で気持ち良さそうに目を閉じているペンペンの前に仁王立ちするアスカ。
ビッと指をペンペンに向けての宣戦布告である。
「クァ〜〜〜〜」
興味無さそうに一声鳴くと、ぽてっとシンジの背にもたれてまた目を閉じる。
そのだるそうな仕草がアスカの癇に障り、闘争心を更に燃え上がらせる。
「何よ、その態度!アタシをバカにしてるの!?」
今まさにペンペンに掴みかからんとするアスカ。
それを止めたのはやはりシンジだった。
「ちょ、ちょっとアスカ。落ち着いて、ね?」
さっきは驚いてしまい、ボーっと見ていただけだが、このまま暴れられては自分が巻き添えを食らう。
そう察した時のシンジの行動は普段の3倍ほどは速い。
「どうしたの?急にペンペンに絡んだりして。ペンペンが何かしたの?」
おそらくはペンペンがアスカの部屋に入り、何かをしでかしたのだろうとシンジは思った。
だが、次にアスカの口から出た言葉はシンジを驚かせた。
「違うわよ!シンジの膝に座ってるからよ!!」
「は?」
思わずシンジは間抜けな声を出してしまった。
それも当たり前だろう。シンジが頭の中で予想した答えに無い物だったのだから。
「アタシもシンジの膝の上に座って、頭撫でて欲しいのよ……」
「アスカ……」
声のトーンも落ち、自分の前に立って俯いているアスカを見上げる。
その目尻に涙が見えたような気がした。
「……アスカ、おいでよ」
ハッとなりシンジを見る。
アスカの前にいるシンジは微笑んでいた。
「……シンジぃ……」
その笑顔だけで充分だった。
シンジが自分を受け入れてくれた事がアスカにはわかった。
だから、シンジが座っているソファーの隣に腰を下ろした。
「シンジ、膝枕、してくれる?」
シンジの肩に頭を乗せていたので、意図せずに耳元で囁いたようになってしまった。
シンジはゆっくりとアスカの肩を抱き、ただ一言、良いよと言ってくれた。
そして、シンジの膝に頭を乗せようとした瞬間。
「クアァ〜〜〜!クァックァッ!クキュ〜〜〜〜〜〜!!」
ペンペンが嘴でアスカの頭を容赦無く突き始めたのであった。
「イタッ、イタッ、痛ぁ〜〜〜い!!」
バッと身を起こしペンペンを睨み付けるアスカ。
シンジの膝の上に立つペンペンがニヤリと笑ったように見えた。
「……ペンペン……覚悟は出来てるんでしょうねぇ……」
その言葉を聞いてか聞かずか、おもむろにシャドーボクシングを始めるペンペン。
その姿は「シンジの膝の上は俺の物だ、欲しけりゃ俺を倒して奪ってみな」と言わんばかりである。
やる気満々のようだ。
「上等よ!シンジはアタシの物だって事を思い知らせてあげるわ!!」
「クァッ!クァッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
ついに人間とペンギンによる取っ組み合いの喧嘩が始まった。
戦闘が開始して一分。最初に倒れたのはシンジであった。
「何で僕が……」
どうやらアスカが投げた29インチテレビをかわしきれなかったようである。
結局この勝負は2時間34分の長い闘いだったが決着は付かなかったようだ。
そして、この日から「シンジの膝の上」を賭けた勝負が毎日繰り広げられる事になったのであった。
数日後
「シンジぃ〜〜」
シンジの膝の上に頭を置き、幸せそうな声を出すアスカ。
ゴロゴロと子猫が喉を鳴らすように、頬を擦り付ける。
ポカポカと日が射すリビングの床で、少年と少女が穏やかな時間を過ごしていた。
優しくアスカの頭を撫でながら、シンジはペンペンの家を見る。
鎖でこれでもかと言わんばかりにグルグル巻きにされたペンペン専用冷蔵庫を見て、汗を一粒額に流す。
きっと明日になれば、またシンジの膝の上を巡る闘いが起こるだろう。 それを考えると頭が痛くなるシンジだが、目の前で幸せそうに目を閉じて自分に甘えるアスカを見て、今だけは忘れようと心に言い聞かせるのであった。
余談ではあるが、闘いの当事者達よりも多く、シンジの怪我が増え続けているそうだ。