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汚れた天使達


 

 

朝からどんよりと曇った空。
前日散々降り続いた雨の影響だろうか、それは昼を過ぎても晴れる気配は無かった。
だが、だからと言って雨が降る気配も無い、なんとなく憂鬱な天気。

素晴らしき週休二日制による休日の土曜日。
昼食を済ませた葛城家に人を呼びつけるけたたましい電子音が鳴り響いた。
何か心当たりが有るのだろうか、電話など普段は同居人の少年、碇シンジに任せるはずの少女、惣流・アスカ・ラングレーが慌てて駆け寄り受話器を取った。

「もしもし……ああ、やっぱり……もう、携帯にかけろって言ったじゃない……うん、うん、わかったわ、今行くわ……」

受話器を置くとアスカはすぐに部屋に戻り、黒のTシャツにジーンズというラフな格好に着替えて再び部屋から姿を現した。

「アタシ、ちょっと出かけてくるから」

一言シンジに声をかけると、急ぐように……まるでシンジから逃げるように玄関へ向かい、外へと飛び出していった。

洗い終わった食器を片づけていたシンジは、そのあまりの素早さに声をかける事も出来なかった。

「あんなに急いでどうしたんだろう? デートの時間に遅れちゃうのかな……って、そんなワケ無いか」

濡れた手をエプロンで拭きながら、自分の言葉に苦笑いしてしまう。
アスカに恋人が居ない事など百も承知である。シンジの知る限りは。
だが、聞こえてきた会話 -アスカの対応だけだが- を聞くと、恋人同士の会話にも聞こえなくはない。

「・・・そんな事・・・あるはずないよね・・・?」

少し表情を曇らせ、自分に言い聞かせるように呟くと、再びシンジは動き出す。
今日という休みの日を使い、掃除洗濯など、他にもやらなくてはいけない家事が残っているのだ。

「この天気じゃ、洗濯しても乾かないか・・」

濃い灰色で覆われている窓の外の景色を見る。
シンジは深呼吸をすると、頭を切り換えた。

「今日は掃除だな。今から始めれば、夕飯の準備までには終わるかな」

学校とネルフの訓練で時間が潰れてしまう平日には手を付けられなかった場所を思い浮かべて見回す。
ミサトやアスカから見れば年末の大掃除じゃあるまいし、と思うだろうが、シンジにとっては当たり前の事が出来なかったに過ぎないのだ。

マスク、三角巾、そして既に装備済みのエプロン。
主婦にとっての標準装備・最終形態を身につけ、パンと両手で頬を叩いた。

「よし、始めようかな」


 

 

 

 


 

 


「遅いな……」

今日この言葉は何度目だろうか。
気が付けば何をするにもチラチラと時計に目を向けている。
現在の時刻は既に五時半を回っている。
いつもならば、早く夕飯を作れと席に座ったアスカに急かされているはずの時間だ。

「・・まさか・・ね」

何故だかシンジの脳裏に突然浮かぶ記憶。
あの電話だ。
あの電話の相手と・・・

頭を振ってそのイメージを掻き消す。
が、ジワジワと沸き上がってくる。

シンジは普段ならしない行動をした。自分でも何故そうしたのか解らない。
保安部に連絡を取ったのだ。アスカの居場所を教えて欲しい、と。
ただ単に帰りが遅いだけかもしれない。偶にはこんな日もある。
シンジ自身もそうは思っている。
だが、それでもシンジは不安だった。

それは窓の外の曇った空模様のせいかもしれない。


 

 

 


 

 

 


『セカンドは、現在、新東京公園にいる』

 

 

それが保安部からの返事だった。

シンジは走った。公園に向けて必死に足を動かした。
あの街を見渡せる公園へ。
胸の中に渦巻く嫌な予感に後押しされるように。
息が苦しい。心臓が張り裂けそう。それでもシンジは足を止めなかった。

ようやく公園の入り口が見えた頃、シンジの足は笑いだし始めていた。

公園の中に入り、アスカの姿を探す。
隅から隅まで、端から端まで。何度も見た、見間違うはずのない少女の姿を。

そして、ようやく見つけた。

「アスカッ!」


自分を呼ぶシンジの叫び声でアスカは振り向いた。


「アタシ、汚れちゃったのよ……汚れてるのよ……」


自らを嘲笑うように言うと、アスカは俯いてしまった。
アスカの側にはしゃがんでいる人影がある。
シンジはそれが誰だか嫌と言うほど知っていた。


「なんで……なんでだよ……アスカ……」


当たって欲しくなかった自分の予想が現実に起きていた。
やはりあの電話だったのだ。
だが、あの時点でシンジにはどうする事も出来なかった。
この結果を防ぐ事は出来なかったのだ。
しかし、シンジはやりきれない思いでいっぱいだった。


「こんな事して、バカな女だと思ってるでしょ」


自分自身で言うように、アスカは汚れていた。
認めたくはないが、シンジでさえも、そう思ってしまった。

 


「笑えば良いでしょ? アタシは、汚れた自分を! 汚れきった自分を見てみたかったのよ!」

 


叫び。

それはまさに少女の魂の叫びだった。





 

 

 

 


シンジは一つ溜息をついた。その表情に怒りや、呆れをにじませて。

 

「そりゃ雨上がりの公園の砂場で遊べば、泥だらけになっちゃうの当たり前だろ!?」


目の前には服だけでなく、顔や腕までに大量の泥を付けたアスカが居た。


前日の大降りに加え、今日は曇っていた為に公園内は水たまりだらけ。
その砂場ともなれば、わざわざバケツに水を汲んで運ぶ必要も無く、ピラミッドもお城も思いのままに作れる状態である。

それはもう物凄く泥だらけだった。

「まったく、ワケの解らない台詞で誤魔化さないでよ。誰が洗濯すると思ってるんだよ、ホントに……」

「えへへへへ。ゴメリンコ」

アスカは無邪気な子供のような笑顔を浮かべながら、泥だらけの手で頭をポリポリと掻いた。
その表情と行動は、まるでアホの子供であった。

「ゴメリンコじゃないよ……ホラ、綾波も!」

砂場に座り込み、せっせと作業をしている少女に視線を移す。
なにやらヘラのような物で、城の窓などを職人の如き集中力で刻み込んでいる。
尚、職人のようなのは集中力だけで、技術は幼稚園並だと言うことを付け加えておく。

「?」

ようやくシンジの存在に気付いたようで、作業を止めて顔を上げる。
そのレイの顔も、当然のように泥まみれだ。

「もう。二人ともこんなに泥だらけになっちゃって……」


そう。あの電話は、シンジが何度も頭の中で必死に消していた人物である綾波レイからのものだったのである。
どうやら昨日、アスカとレイは学校で計画していたようなのだ。
『明日、雨が止んでたら公園で砂遊びをしよう』と。

アスカがシンジに何も言わずに家を飛び出したのも、もしシンジが知れば、必ず止められるからだ。
当たり前である。洗濯物を増やしたくないのは主婦の基本精神なのだから。

しかも、平和になってからというもの、幼児化が進みまくりやがっているこの二人のアホ少女である。
シンジの居ない時に二人揃ったが最後、必ず全身汚して帰ってくるのだから。

例えば、川が浅いと思えば迷わず入り、頭まで濡らして帰ってくるわ。
学校の裏山が険しいと思えば迷わず入り、道無き道を突き進み、服をボロボロにして帰ってくるわ。
破棄された工場に進入しやすいと思えば迷わず入り、放置されたガラクタで遊び、油まみれになって帰ってくるわ・・・。

とにかく、こんな事は序の口で、思い出したらキリが無いのだ。
ちなみに、平和になってまだ一ヶ月も経っていなかったりするから困ったものだ。

「はぁ……もう怒らないから。とにかく、暗くなってきたし、終わりにして帰ろうよ」

シンジは盛大な溜息を付いた。
怒ってもしょうがないのだ、このアホ少女達は聞かないのだから。

ぐぅ〜

ユニゾンする二つの音。
アスカとレイは同時に相手の腹部を見る。
そして、ニッと笑みを浮かべるとシンジ告げた。

「シンジ! お腹空いたぁ!」
「・・・碇君、ごはん・・・」

なんとも勝手なことを言ってくれる少女達だ。
だが、シンジにはそれが嬉しくもある。

レイが頻繁に葛城家に出入りするようになったのはその最たる物である。
いつも独りで居たレイが、親しい人と一緒に食事をするのはとても楽しいと言った時のことを、シンジは今でも覚えている。
そして、アスカと一緒にお風呂に入り、夜遅くまでお喋りをし、アスカの部屋に泊まっていく。
そのときのレイの表情はとても明るいのだ。

「もう、しょうがないなぁ。準備は出来てるから、帰ったらすぐ食べれるよ」

自分でも甘いなとは思うのだが、この二人を前にしてしまったら仕方がない事だと既に諦めている。

そんなことをぼんやりと考えていたら、アスカとレイが自分を挟むように駆け寄ってきた。
そして、腕にしがみついてくる。
泥まみれの状態なのに、そんな事をしたらシンジも汚れてしまうのだが、少女達はそんな事はお構いなしだ。
何故お構いなしかって?
それはアホだから。

「でも、ご飯の前にお風呂だよ。わかった?」

「はーいっ」
「はい」

自分が泥まみれになって遊ぶなど、想像も付かなかった二人の少女。
それがこんなに楽しい事だなんて、それこそ思ってもみなかった。
そして、それがどれほど大切な時間なのかを知った。
友達と時間を忘れて遊ぶ。・・幼い頃に出来なかった事。

しかしそれも、汚れた服を洗濯してくれる少年が居てくれるから。
最初は怒って、困った顔をするけど、最後には笑顔で許してくれる彼が居てくれるから。

二人の少女は、これ以上無い幸せを感じ、今を生きている。
そして、これからも、と希望を持って生きている。

「レイ、ついでだから今日も泊まって行きなさいよ」

「うん。そうする」

「明日も休みだからって、あまり夜更かししちゃ駄目だよ?」

「明日も休みだから夜更かしするんじゃない。ねぇレイ」

「そう。夜更かし万歳。ジーク夜更かし」

「・・・トホホホホ」

曇った空が、ギャーギャーと騒ぎながら帰る3人を優しく見守っていた。

 

 

 

 

 


fin

 




おまけ


その日の深夜。

あの街を見渡せる公園に怪しい人影が多数あった。
黒服を着込んだゴツイ体格の男達が砂場を囲んでいた。
なんとも場違いで似合わない光景である。

「・・・なぁ・・・俺達何やってるんだろうな・・・」

キャンプ用品のチェアに座り、コンビニで買ってきた安っぽいアンパンを一口囓り、男がボソリと呟いた。

「・・・言うな。これも仕事だ・・・」

問われた男は、これまた安っぽいコーヒー牛乳を一口飲んでから答えた。

何を隠そうネルフ保安諜報部に所属している4人の男達だ。
正四角形の砂場で、お互いを背にしてチェアに座り、四方を固めている。

どこから持ってきたのか、体育祭などの学校行事でよく使われているテントを立てている。

いったい彼らは何をしているのか?

事の発端はアスカとレイからの電話である。

『明日もそこで遊ぶから、作りかけのお城を守ってほしい』と。

そんなわけで、雨対策のテントを立て、人や動物などから砂場を守っているのだ。

「・・・はぁ・・・全く、楽な仕事じゃないよなぁ・・・」

もうすでに丑三つ時と言われている時刻だ。
流石に愚痴りたくもなってくるだろう。
彼らは本来のローテーションでは徹夜の予定では無かったのだから尚更だ。

だがしかし、彼らはやらなければいけない。
あのワガママお嬢様達が暴れ出すと尋常ではない被害が出るのだから。

がむばれ保安諜報部員!
負けるな保安諜報部員!

尚この日、公園から「蒸し暑いよ〜」「眠いよ〜」という呻き声が聞こえたと近所の人達の証言があったとさ。

 

 

ほんとにおしまい



後書きって程のもんでもない後書き

さんごの「痛くて切ないお話」に触発されて書きました。
久々に書いたんで、まぁこんなモンか、ってな感じです。
作中ヒロイン達をアホアホ書いてますが、怒らないで下さいね。
ギャグなんで、怒る人が居たら俺は引いてしまいます(笑)

であであ


 

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