『回想、そして新たな日常』

Written by ぽてきち


 

 

 

 

 

 

 

 

 


永遠に続く日常なんて無いけれど。
輝く瞬間をこころに刻みつけて、アタシ達は生きていく。


 









寝室の真ん中にどっさりと積まれた物体。
こんもりと山のように。
ほんのりとお日様の匂いを漂わせて。


そう、それは。
乾いた洗濯物の山。


「はあああああああああああああああああああああああ。」



その山を見つめながら、アタシは重く・長いため息をつく。





「シンジが帰ってきたら、手伝ってもらおうかなぁ…。」

今日は、部屋の掃除と花の水やりもしたし、ね。
アタシにしたら、良く働いた方だわ。





ふと、窓の外に目をやる。
日が傾きかけている。
部屋に差し込む西日。
思わず、目を細める。
西日に照らされた洗濯物の山が、濃いオレンジ色に染まる。










シンジと結婚して約3年が経った。
ふたりの間に子供はいない。

お互いに仕事を持っているから、家事は交代制。
今日はアタシが当番の日。


「シンジ、いつ頃帰ってくるのかな。」



積まれた洗濯物をちょいちょいと突っつきながら、アタシは考える。
こういう仕事…、洗濯物をたたんだり、溜まったレシートを整理する
ような単純作業って、取りかかるまでが面倒なのよね。
一旦、始めてしまえば、いつの間にか集中して、時間が経つのを忘れ
てしまうんだけど。

でも、きっかけが無いと、いつまでもほったらかしになってしまう…。





 

「しょうがないわ…、やるか。」


ぽつりとつぶやいて、アタシは洗濯物の山の一片をはぎ取る。
それは、シンジのパンツだった。










洗濯物をたたみ始めて数十分、アタシは周りの音も気にならないくら
い、集中し始めていた。
自分の感覚が研ぎ澄まされていき、思考が冴えていくのがわかる。





手を動かしながらアタシは、シンジとの出会い、恋の始まり、そして
結婚に至るまでの様々な出来事を回想していた。





初めて出会った時は、正直言って『冴えないヤツ』って見下してた。
エヴァに乗り、戦いを共にしていくうちに、『そんなに悪くないかな』
って思い始めた。
それが『恋』かどうかはわからなかったけど、シンジのことを考える
と、少しだけ胸の奥が締めつけられた。


シンジには何度も助けられた。
でも、素直になれなかった。


『ありがとう』の一言が言えなくて、眠れない夜を何度も過ごした。
優しすぎるシンジを憎みながら。
高すぎるアタシのプライドを悔やんで。


中学を卒業する頃、シンジはアタシの側からいなくなった。
『自分の意志』で、ミサトのマンションから出ていくことを決めた。
そして、外国へと旅立った。


 

シンジがいない数年間。
アタシはいろんなことを考えた。

 

 



シンジが側にいることが『アタリマエ』になっていた日常生活。
しかし、その『アタリマエ』が無くなった時、アタシの『日常』は決
して永久に続くものでは無いと感じられた。


シンジがいない数年間。
アタシは自分の身体の一部が抜け落ちてしまったように思えた。


そしてアタシは気づく。
一日のうちの大半は、シンジのことを考えているという事実。
単なる『冴えないヤツ』だったシンジに、いつの間にかこころを奪わ
れていたということに。


シンジがいない数年間。
アタシは、アタシの中でシンジが『かけがえのない存在』になってい
ることに気がついた。





高校生になった時、シンジは日本に帰ってきた。
もとの面影を残しながらも、見違える程に成長して。




再び出会う、アタシとシンジ。
そして、アタシ達はいっしょに住み始めた。




 







永遠に続く日常なんて、無い。

だからアタシは、シンジと過ごす一秒を、まばゆいばかりに輝く一
瞬をこころの中に刻みつけて生きていこうと誓った。








 



いっしょに住み始めて、一年が過ぎようとした頃。
照れくさそうに、シンジが小さな箱を差し出した。


エンゲージ・リング

確かめるように、いつくしむように、アタシはそのリングをそっと
指に滑らせる。
一生消えない、ふたりの約束。
この日、アタシとシンジは夫婦になった。










ふと気が付くと、日はすっかり暮れて、部屋の中には夜の闇が静か
に訪れていた。
ついさっきまで、部屋の真ん中に積まれていた洗濯物の山は、今や
きちんとたたまれて、納めるべき所に収められる時を待っている。


「なーんか、色々考えちゃったな…。」



あまりにも集中して作業をしていたせいか、少し頭がぼんやりする。
アタシは部屋の電気を点けようと、勢いをつけて立ち上がった。



 

 



その時、アタシの中を、得も言われぬ不快感が襲った。
ある予感と共に、アタシはトイレに駆け込んだ。








 

 

 

 

 

 

 

 

 


約一年後。

シンジの腕には、小さな赤ちゃんが抱かれていた。
新しい家族。
アタシとシンジの娘。
もうひとりの、かけがえのない存在。










 

永遠に続く日常なんて無いけれど。

輝く瞬間をこころに刻みつけて、アタシ達は生きていく。










 

 

 



※あとがき※

初めまして、あるいはお久しぶりです、ぽてきちです。

久々に書いたSSでしたが、如何だったでしょうか。
表現したいことはたくさんあるのですが、いざ、それを文章に
すると、本当に難しいと思います。

最近、書くことの楽しさを再び感じて来たので、徒然と日記な
どしたためてみようかなとも思っています (笑)
気まぐれだから、続くかどうかは別として (^^;

では、失礼します。



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