『カクテル』

 




ここは、第3東京市にあるショッピング街。
そこの一角に、1人の女性がややそわそわしながら誰かを待っていた。
それも、すこぶる美人であった。
街中で会えば、10人中10人全員が振り返るぐらいの美人である。
「まったく、なにをやっているのかしら」
どうやら、だいぶ待っているのかややいらついている。
「あっ、アスカ」
その時、通りの向こう側から1人の青年が走ってきた。
「遅い。何分待たせるのよ」
「ご、ごめん……でも、いきなり電話で呼び出されても」
「だめ。あんたは、私に呼ばれたらすぐに来るの」
「そんな無茶な……。で、なんのよ用なの」
「うん、今夜暇がある」
「うん、暇だけど……どうしたの?」
「実は、頼みごとがあるの」
「頼みごと?」
「うん、実はね……」
そう言って、何かを頼むアスカであった。


かわって、こちらはアスカの友人の洞木ヒカリ嬢。
今年で18になり、今は思い人の鈴原トウジと同じ大学に通っている。
(余談だが、シンジとアスカも同じ大学の政治学部に在籍している)
そして、今日も思い人の鈴原トウジと一緒に大学に来ていた。
「か〜、大学っつうののは以外と大変やなあ。世間では、大学生は気楽な商売と言われとるがありゃ嘘だな」
と、けだるそうなトウジ。
「あ、あのねえ。それじゃあ、鈴原は何しに大学に来たのよ」
「そりゃ、合格したからや」
「……」
二の句がでないヒカリ。
「ま、それにや委員長もこの大学におるしな」
「えっ……」
一瞬、何かを期待するヒカリ。
「気心の知れた連中とおると、ワイも気楽やしな」
「そ、そうよね。あ、あははははは……」
「うん、どないしたん委員長」
「な、何でも……。そ、それよりその委員長はやめてよ。もう私は委員長じゃないんだから」
「せやけど、いまさら洞木さんって呼ぶのもなんやし。かといって、ヒカリと呼び捨てもでけへんし」
「わ、私は別にいいけど」
やや、小さい声で話すヒカリ。
「うん、なんぞ言いおったか委員長」
「い、いえ。そ、それよりその委員長は……」
「わかっとる。まあ、極力気をつけるさかいにな」
まあ、この二人は万事がこの感じである。
無論の事ながら、恋愛関係に発展するわけもない。
しかし、この二人の関係が進展する出来事が刻一刻と近付いていた。


その日の夕方。
「ヒカリ、ちょっと時間がある」
大学の講議も終わり、家に帰ろうとした時アスカが話し掛けてきた。
「あらアスカ、経済学部の校舎にくるなんて珍しいわね」
「まあね。それより、時間がある」
「ええ、あるけどなに」
「じゃあ、今夜は暇?」
「うん、特に予定はないけど。アルバイトも、今日は休みだし。特に書かなきゃならないレポートもないし」
「なら、ちょっと私につき合ってくれない」
「ええ、いいけど何処にいくの」
「ふふっ、内緒。それより、少しめかしこんで来て。すっごく、いい店があるの」
「!?」
「じゃあ、7時に駅前の公園で待っていて。あたしも行くから」
「う、うん……」
こうして、アスカの企み(途中からシンジ参加)とは知らず申し出を承諾するヒカリであった。
うんでもって、時間は流れて午後7時。
「お待たせアスカ」
グレーのスーツに着替え、アスカとも待ち合わせ場所にやってきたヒカリ。
「うん、なかなかいい服ね」
「そ、そうかしら。これ、お姉ちゃんのお下がりなんだけど」
「ふーん。ま、いいわ。それより、そのお店はすぐ近くだから行きましょう」
「ええ。どんなお店か、愉しみだわ」
しばらくして、洒落たバーが見えてきた。
「ここよ」
「へえ、お洒落な店ね……って、ここはバーじゃないの」
「そうよ」
「だ、ダメよアスカ。わ、私達は未成年なのよ」
「大丈夫よ。さ、入って入って」
「ちょ、ちょっとアスカ……」
むりやり、ヒカリを店の中に入れるアスカ。
「もう、ダメじゃないの。お酒は、20になってからって」
「いいからいいから。っと、それよりまだ来てないわ。何をやっているのかしら」
「うん、アスカ。誰かと待ち合わせ」
「えっ!?ち、違うのただの独り言よ。それより、いい感じのバーでしょう」
「そうね。クラシックな感じがいいわね」
「それじゃあ、カウンターに座りましょう」
「そうね」
そして、カウンターに座る二人。
「おや、惣流さんじゃないですか。今日は、女性だけですか」
カウンターには、店のオーナーでもあるマスターが座っていた。
「まあね。たまには、甲斐性無しの彼氏じゃなくて私の親友と飲むのいいかなあと思って」
「ははっ、そうですか。それはそうと、お連れのお嬢様もお美しい方で」
「ど、どうも……」
恐縮するヒカリ。
「では、御注文は?」
「あっ、私はいつもの。ヒカリはなんにする」
「えっ!?わ、私はその、う、ウーロン茶にしようかと」
「え〜、ダメよここに来てウーロン茶は。マスター、ヒカリには軽いカクテルをお願い」
「かしこまりました」
「ちょっとアスカ、お酒は……」
「いいから。たまにはヒカリも規則から離れなさいよ」
「でも……」
「いいから」
しばらくして、注文したお酒が届いた。
「それじゃあ、いただきまーす」
運ばれてきたお酒を、いきなり半分あけるアスカ。
「ほら、ヒカリも」
「う、うん。じゃあ……」
カクテルを一口飲むヒカリ。
「あっ、これ美味しい」
「でしょう。ここのマスターは、バーテンの全国大会で優勝した事もあるの」
「へえ、そうなんだ」
「それより、あのバカはまだ来ないのかしら」
「うん、やっぱり誰か来るの」
「えっ……っと、その〜」
『カランカラン』
その時、店のドアが開き二人の男が入ってきた。
「あっ、遅い。何やっていたのよ」
「ごめんごめん。道が混んでいたから」
「もう、あんまし待たせないでよね。遅いから、先に始めてたわよ」
「ごめんよ〜。でも、ちゃんと彼は連れてきたよ」
と、シンジの後ろにいる人物が姿をあらわした。
トウジである。
「なんやセンセイ、ワイにセンセイと惣流がいちゃついているところでも見せるんかいな。およ、委員長やないけ」
「えっ、鈴原!?」
驚くヒカリ。
「ちょ、ちょっとアスカ。なんで鈴原がここにいるのよ」
あわてて、アスカをひっぱり店の奥に行く二人。
「さあて、なんででしょうか。私は、シンジを呼んだだけよ。まあ、鈴原がくるとは思わなかったけど」
しらじらしい態度で答えるアスカ。
「アスカ〜、はめたわね」
「失礼ね。私は親友を騙す趣味はないわよ。これは、ヒカリへのお礼。いつも、シンジの事で相談にのってもらっていたから」
「アスカ……」
「おせっかいかもしれないけど、このまま見ているのも辛いのよね。だから、せめて場面だけは作ってあげる。あとは、ヒカリ次第よ」
「アスカ……でも、私は鈴原にどう思われているか」
「大丈夫よヒカリ。自分に自信をもって」
「うん……」
席に戻る二人。
席では、シンジとトウジが飲み物を注文していた。
「おう、どないしたんや二人して店の奥でこそこそと」
「なんでもないの。さ、飲みましょう。ヒカリは、こっちの席に」
と、ヒカリをトウジの隣に座らせるアスカ。
「ちょ、ちょっとアスカ」
「いいからいいから。さて、あたしはシンジの隣に」
「なんや、やっぱ見せつけるんかいな」
「ち、違うよトウジ」
「ま、そういう事にしておこうやないか」
「それより、今日はいろいろ話ながら飲もうよ」
「そうね。私はそれに賛成」
「同じく」
と、アスカとヒカリ。
「そうやな。語りながら飲むのもええな」
そして、思い出話しをしながらお酒をかわす四人。
しばらくして、酒が回ったのかアスカとヒカリは半分寝ている状態になってきた。
「ところで、トウジには好きな人がいるの」
と、シンジ。
酒のせいか、やや口が軽くなっていた。
「ふえ、ワイか。そ、そらあ、お、おるで……」
こちらも酒のせいか、ややガードが弱くなっていた。
「へえ、誰なの」
「そらあ、もちろん……」
ちらっと、ヒカリを見るトウジ。
「やっぱり、洞木さんか」
「なんや、気付いておったんかいな」
「ははっ、そりゃあ僕だって少しは色恋に強くなったよ。アスカのおかげでね」
そう言って、隣ですやすや寝ているアスカを見るシンジ。
「せやのう。で、察するに今日の事を仕組んだのは惣流やな」
「当たり。で、どうするんだいトウジ」
「何がや」
「洞木さんの事さ。このままじゃ、彼女が可哀想だよ」
「そうやな。でも、ワイは不安なんや」
「不安……何が」
「つまり、委員長に……ヒカリにどう思われているかや」
「それなら、杞憂だね。洞木さんはトウジの事が好きなんだから。まあ、本人からは直接聞いてないけど言動で分かるよ」
「ほ、ホンマにか」
「うん。だから、あとはトウジ次第だよ。じゃ、僕とアスカは帰るから。マスター、今日はごちそうさま」
「ええ、またいらして下さいね」
料金を払い、アスカを抱きかかえて家路につくシンジ。
「後は、ワイ次第か……」
その後ろ姿をみながら、ぽつりと呟くトウジだった。


「あ、あれっ……私いつの間にか……」
しばらくして、目をさますヒカリ。
「おう、目が覚めたんかいな」
隣では、トウジがウイスキーのグラスを開けたところだった。
「ご、ごめんなさい……眠ってしまって。あれ、碇君とアスカは」
「帰ったで」
「そ、そう」
「それより、大事な話があるんや委員長。いや、ヒカリ……」
「えっ……」
「あのな、ワイはヒカリの事が好きや」
「す、鈴原……」
「ホンマは、もうちょっと早う言わなああかんかったかもしれへんけどな。ワイは、自信がなかったんや。委員長に……ヒカリにどう思われているんかを」
「ううん、遅くないよ。それに、私すごくうれいい……」
「ヒカリ……」
「碇君とアスカに感謝しなきゃね、ここに誘ってもらった事に」
「惣流は、ヒカリへのお礼だそうやで。いつも、自分とセンセイのことで相談に乗ってもらったお礼だって」
「ふふっ、アスカらしいね」
その時、二人の前に二杯のカクテルが出された。
「およ、ワイはカクテルなんぞ注文してへんで」
「いえ、これは店からのオゴリです。また、いい出合いを見せて頂きましたから」
「いい出会い?」
「ええ、お嬢さんの友人である惣流さんもここで碇さんから告白を受けたんですよ」
「アスカが……」
「はい。その時も、いい恋を見せていただいたお礼にこのカクテルを出したんですよ。私のオリジナルです。さ、どうぞ」
「それじゃあ」
「遠慮なく頂くで」
そういって、一口カクテルを飲む二人。
その味は、ほのかな甘味をもつカクテルだった。
「いかがですか」
「おいしい……カクテルってこんなにおいしいものなのね」
「ホンマや。ワイは、日本酒かウイスキー専門やったがこれはいけるで」
「そうですか。さて、そろそろ店じまいですがお二人はもう少しここにいてもかまいませんよ」
「えっ、でも……」
「遠慮なさらずに。今日は、貴女達の記念日なんですから」
「あ、ありがとうマスター」
嬉しさで、涙がこぼれるヒカリ。
「では、ごゆっくり」
「ねえ、鈴原」
「トウジでええで」
「じゃあ、トウジ。これから、何を話しましょうか……」
「せやな、それじゃあ……」

こうして、夜は二人の夜は静かにふけていった。
ようやく、幸せの地に辿り着いた二人に幸あらん事を。

 

 

(FIN)



あとがき

ども、はじめまして『暗黒騎士ソード』といいます。
今回、ここにはじめて投稿をさせていただきます。
ホントを言うと始めてではないのだが……。
まあ、そんな遠い過去の話は忘れて今回のお話ですが。
読み返すと、う〜んごろごろって感じですね。
あっ、ちなみに作者はあんましカクテルには詳しくありません。
ですから、このオリジナルカクテルの作り方を教えろとかいわれても答えられませんので。
それでは、感想をお待ちしてます。
 


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