Together & Forever


 

 

 

 

 

 

 


!CAUTION!

・ 一部性描写が含まれていますので、お子様には勧められません。お子様が読んでもさっぱり何のことやら…と思いますが。

・ TV本編23話あたりからのパラレルストーリーです。なので零号機は存在しません。


 

 

 

 

 

 

 

 

人類の最後の砦、第三新東京市、そしてその中央地下に位置するジオフロント。

だが本来地下にあって見えないはずのその広大なる土地は、襲来した使徒による天井部の破壊によってその姿を露出している。ぽっかりと空いたその穴からは青い青い空が覗いていた。

そこで今、激烈なる戦いが繰り広げられている。
銃弾が飛び交い、あちこちで爆発音が鳴り響くそこはまさに戦場であった。





 

 

「これでっ!!これでラァストォォォォっ!!」

 

 

 

弐号機の持つプログレッシブナイフが使徒の光球に刺さり、グラインダーのような音を立てつつ食い込んで行く。あと少し、あと少しで、使徒を殲滅できる、この長い戦いに終止符を打てる。

「アスカっ!」

プログレッシブナイフを使徒に突き立てている弐号機は無防備になっている。それを援護するべく初号機はパレットガンを連射した。標的と弐号機が至近距離なために正確な射撃が要求されるが、これ以上無いほどの集中力が効を奏し劣化ウラン弾が次々と使徒にだけ吸い込まれて行く。

「シンジっ!爆発するわよ!離れて!」

使徒の動きが急に止まったのを感じとったアスカが叫ぶ。どの程度の規模の爆発になるかはわからないが、ここからできるだけ離れなければ…だが彼女は使徒の殲滅に集中するあまり、ATフィールドを中和するのに精一杯だった事を忘れていた。

それにシンジが一瞬早く気付いたのだが、その時には既に使徒の体から光が洩れはじめてきている。爆発の前兆が使徒の体を覆い尽くして行く。

「ダメだ!そのままじゃアスカが!」

「え?」

間に合うか!?


初号機はパレットガンを捨て弐号機の元へ走る。500mほどの距離だがいやに遠く感じる。光はやがて視界を遮るほどの量になり、だんだんと目の前から弐号機の背中が消えて行く…今ATフィールドを展開すれば!

「アスカぁっ!!」

「きゃぁぁぁっ!!!」

一瞬の後、爆風と爆音がその周りの空間全てを支配した。
猛烈な衝撃と耳を千切られるような大音響がシンジの意識を埋めて行く。



光の柱が立ち上り、戦場だったジオフロントのありとあらゆる物を照らして行く。
立ち並ぶ木々はその激しすぎる風に煽られ、揺れ、あるいは折れていく。

発令所の中央スクリーンは真っ白に発光し、ジオフロントの様子がこれ以上視認ができなくなっている事を示していた。だがやがてその光も消えて行く。




「使徒の反応消失!殲滅を確認!」

「初号機と弐号機はっ!?」

「モニター回復します!」

爆心地一帯に立ちこめていた煙が徐々に晴れて行く。そこから数百メートルは離れて−どうやら爆風に吹き飛ばされたのだろう。エヴァ二体が折り重なるようにして倒れていた。

 

「パイロットは!?」

「両者とも心音、脳波正常!生きています!」

わぁっ、という歓声が発令所を埋め尽くした。辛く長かった使徒との戦いにも、これでようやくピリオドが打たれたのだ。戦闘中の張り詰めた空気から一転、抱き合って喜ぶ者あり、肩を叩き合うものもあり、涙を流すものあり、そこにあるのは全てから解放された空気である。

「パイロットを救出、急いで!」

だがまだ後始末は終わっていない。喜ぶのは後でいくらでもできるとして、実際に戦った彼らはまだあの忌まわしい兵器の中に居るのだ。慌てて自分達の気を引き締めて処理に当たろうとする発令所のスタッフたち。

その発令所の中でもかなり高い位置にある心臓部−3人のオペレータが作業を行っているそのコンソールで突然WARNINGの文字が点滅を始めた。その意味するところは−まだ見ぬ敵の存在。


「ネルフ各支部のMAGIコピーに異常侵入発生!防壁も効きません!」



−そして、これが本当の最後の戦いの幕開けであった。



常に命を落とす危険と隣り合わせながらも、順当に使徒を殲滅してきたネルフ本部、そしてエヴァ3体。17体の使徒を倒し、これで全てかと思われていた矢先の出来事だった。使徒の次は人間−戦いはまだ終わっていない、その事実にその場に居る総ての者の表情が凍り付く。

「ドイツ、中国、アメリカ支部陥落しました!人的被害はありませんがセキュリティシステムが掌握され、外部との連絡は一切取れないようになっています!」

その手際の良さ、恐らく使徒が全て殲滅される時期を狙っていたのだろう。あまりにもタイミングが良すぎる。この戦いを常に監視できる者達はただ一つ。

世界を今まで裏から操っていた狂信者たち−ゼーレがついにその表舞台に立とうとしているのだ。ネルフが持つテクノロジー、そして施設は全て後々利用するつもりだろうから戦争の危険はない。

−エヴァ初号機、弐号機を保有するこの本部以外では。

「エヴァ管理システムにも侵入されています!…ダミープラグ挿入プロセス開始!各支部の量産機が起動していきます!」

最悪の事態が今、発生している。
人が操るエヴァとはまた別の可能性として各支部で以前から建造され、調整が進んでいた伍号機から拾参号機までの全てが起動しているというのだ。

その意味するところは一つ。
それら量産機に対する世界で唯一の対抗手段となりうるエヴァ初号機、弐号機の完全なる破壊。そしてこのネルフ本部の占拠。

あと数時間のうちに再びここが戦場になるのだ。






 

 

 


「…はぁ…」


アスカが肺から絞り出すようにため息をつく。
戦闘が終わってエントリープラグから出された二人に突きつけられた、信じられない事実。敵はまだ居る上に、相手はこちらのエヴァと同等の力を持つ量産機たち−

今回で最後とは言え条件が悪すぎる。今までも条件は悪かったが今回は特に悪い。1体1体来る使徒に対して今度はそれがまとめて9体ー

最後の戦いを前にエヴァのメンテナンスを行うのでロッカールームで少し休むように言われた二人は少し離れて長椅子に座りながら、ただ無言で目の前の床を見ていた。

「…ふぅ…」


今度はシンジだ。先程まで極限の状態で戦闘を行っていたため精神的にも体力的にも疲労困憊していたのだがそれを堪えてもう一度頑張らなければいけないとなると…それは無理な話だろう。そこに待つのは死だ。

お互いがお互いの様子を伺いながらも、目の前の事実に口も動かず、ただ時間は流れて行く。死へのカウントダウンが続いて行く。


部屋の中に流れるなんともいえない陰鬱な空気…


「ねぇ…」

だがそれから暫く経ってから、アスカが唐突に口を開いた。

「え?」

その声に反応してアスカの方に目をやると、アスカは相変わらず目の前の床に視線を投げかけながらも口元が少し綻んでいた。うっすらと笑っているのだ。

「…逃げちゃおうか」


まるで悪戯を考え付いた子供のように…本当に無邪気な笑顔で彼女は呟いた。

「え?」

「どこか遠くへ逃げるの…エヴァがない土地へ…」

それは無理な話だ、というのはお互い良く理解している。最後の戦いを目の前にして敵前逃亡されては困る、と先程この部屋にもロックがかけられたばかりだ。そんな状況下で逃げようというのも無理な話…それを踏まえた上で言っているのだろうか。

「アスカ…それは無理だよ…今僕等が逃げたって、必ず連れ戻されるし、量産機を倒さない限りこの世界がどうなるかはわからないし…」

「そりゃそうよね…アタシもバカな事言ってるなぁ…」

「どうしたんだよアスカ…」

変に自嘲的なアスカの口調にシンジは違和感を覚えた。いつもの勝ち気で強気な口調はすっかりなりを潜めてしまっている。いつに無く弱々しい言動。


 




そんなアスカの横顔をただ見ている事しかできないシンジであったが、少しためらった後、口を開く。

「…怖い、よね…」

自分は明らかにこの戦いに対して、そしてその後訪れる可能性が非常に高い死というものに対して恐怖している。今までの戦いならば相手が「わけのわからないもの」だったが、今回は自分達もよく知っている「エヴァ」だ。それがどれほどの力を有するかも知っている。だからこそ現実的なものとして死が感じられるようになっているのだ。

その言葉にアスカは目を見開く。やがて、静かに自分の両肩を抱くと、絞り出すような声で呟いた。

「…そりゃ…怖いわよ…9体も相手にできるわけ、ないじゃない…」

その言葉にシンジは新鮮な驚きを覚えた。あの常に負けず嫌いで弱音は一切吐かないアスカが今、自分の目の前で、他人の目の前で恐怖することを認めている。

「アスカ…」

「だって…死ぬのよ、アタシたち…しょうがないじゃない、怖いんだから…」

小さく震えるアスカの肩。初めてシンジに見せた弱さ。
これから同じ戦地に赴くシンジにはその恐ろしさが痛いほどによくわかる。

暫く右手を開いたり閉じたりしていたシンジだが、意を決したようにアスカの横に座ると、そっと肩に手を置いた。ピクリとアスカの肩が小さく震える。

「何よ…同情しようっていうの…?随分余裕ね。どうせ死ぬってのに」

「違うよ。勿論僕だって怖いよ。でも、アスカに…」

「アタシがどうしたってのよ…」

「…このまま言わないで死ぬのはもっと怖い」

「……」

「僕は、アスカのことが……その…好きだった。今でも勿論そうだしこの先…あるかどうかはわからないけど、多分、ずっと好きなんだろうと思う」

自分自身の言葉を噛み締めるように、確認するように確実に一言一言を紡ぎだして行くその口調。まるで自分の心を削っていくように言葉を送り出していく。

その言葉にハッと閉じていた目を開き、シンジの方に顔を向ける。そこにあったのは悲しげな目をしたシンジの顔。何でこんな時に……

「死ぬ間際だからって、こういう状況で、そういう事言うの?…卑怯ね。アンタ卑怯者よ」

「…そうだね。ごめん。もっと早く言うべきだったんだ。最後の最後でこんな事言っても、しょうがないよね。ごめん、今の忘れて」

「…人の話は最後まで聞きなさいよ」

「え?」

「アタシが卑怯って言ったのはね、ずっとその言葉を待ってたのに、ここまで追い詰められないと言えないアンタのそのろくでもない根性に対してよ。バカなんだから。ずっと、ずっと待ってたのに…やっと聞けたと思ったのに、こんな、こんな…」

みるみるうちにアスカの目に涙が溢れる。やがてその涙は粒となりその頬を伝い、そして足元の床にぽたり、と音を立てて落ちた。

「ごめんね、アスカ…僕が意気地無しだったから…でも、今だけ、許してくれるかな…」

そう言ってまだ小さく震えるアスカの肩をそっと抱き寄せ、そして抱きしめた。プラグスーツ越しに伝わるお互いの温もり。ずっと欲していた暖かさ。思っていたよりもずっと小さくて華奢なその体にシンジは驚きを感じていた。

「バカ…バカ…アンタ本当にバカシンジよ……どれほど待たせたと思ってるのよ…」

シンジの胸に顔を埋めて今まで堪えていた感情を露にするアスカ。
やがて、泣き止んでそっと顔を上げるとシンジと目が合った。シンジの背中に回した手に力を少しだけ込めて、そっと目を閉じる。

シンジもその意味するものがわかったのか、震えるアスカの唇を包み込むように、そっと自分の唇を押し当てた。彼らにとっては二度目のキス。だけれども本当に気持ちを伝え合ってからは初めてのキスであった。

「ん……」

シンジの唇が離れて行く感触に名残惜しさを感じつつも、そっと目を開けると自分だけを見ているシンジの瞳がそこにあった。自分だけをじっと見つめていてくれるその真剣な目。魔法がかかったようにその目に釘付けになってしまう。

「やっぱり…このまま死ぬのは嫌だな。さっきまで少し諦めてたけど、今は絶対に死にたくないと思ってる…アスカが、居るから、かな」

「アタシも…同じ事考えてた。やっとシンジから言ってくれたのに、死ねるわけないじゃない…それよりも、ね、シンジ」

「ん?何?」

「続きは?」

「え?続き?」

「そ。今の続き」

「今のって…ええっ!?」

ようやくシンジにもその言葉の意味するところが解ったらしい。確かに今は同じ部屋に二人っきりだしお互い想い合ってるわけだが…よりにもよってこんな場所で。

「だってこれから…戦いに行くんだよ?」

「だからよ。アタシは最後まで後悔したくないの。アタシはシンジが好き。この気持ちに嘘偽りはないわ。でもね、これじゃ死んでも死にきれないのよ…やっと…」

きっとアスカにとっては世紀の大決心だったに違いない。紅潮した顔でこちらを見上げるその目つきは真剣そのものだ。

「アスカ…」

「あんまり女の子に恥、かかせないでよね」

そう言ってそっと自分の顔を再びシンジの胸に埋めるアスカ。シンジも戸惑ってはいたがやがて落ち着きを取り戻すとその折れそうに細い体をしっかりと抱きしめた。





 

「ん…はぁ…」

その白い首筋にそっと舌を這わせるとそれに呼応する形で吐き出された熱い吐息がシンジの首元をくすぐる。まるで意識が朦朧としているかのように焦点の定まらない心地よさ。シンジがとても優しく自分を扱ってくれているのがわかる。

シンジの背中に回した手を少し動かすと、手首の部分にあるスイッチを操作してプラグスーツの拘束を緩めた。エアーの抜ける音でシンジもそれに気付いたのか肩口からそっとアスカのプラグスーツを脱がせていく。やがてその形のいい桃色に色づいた乳房が露になった。

「や…だ…恥ずかしい、よ、シンジ」

他人に初めて見られる体。その恥ずかしさからか声も掠れてしまう。

「…綺麗だよ、アスカ…」

「ホントに?」

「勿論だよ。だから、もっと、僕に見せて…」

無論このロッカールームには常に明かりが灯っている。少し眩しげなその照明の中で自分の体が段々とシンジの目の前で露になっていく、そんな光景を自分で改めて想像してアスカは赤面した。

「…死ぬほど、恥ずかしいんだからね…責任取りなさいよ、バカシンジ…」

それに言葉ではなく態度で応じるシンジ。
シンジの舌が、アスカの首すじから鎖骨を通り、やがて乳房の頂点にたどり着く。そこから伝わってくるジンジンとした刺激にアスカは声を荒げた。

「…んあっ!」

それを肯定と受け取ったのか、シンジはしばらく舌先でその感触を楽しんでいたが、やがて片方の手で乳首を摘んでいた指を離し、両手でアスカの胸を包み込み、揉みしだき始める。優しく、優しく…

「は……いぁ……ひ……んんぅっ」

「気持ちいい?アスカ」

「…う…ん…いいのぉ……シンジの手、凄く優しいから……」

「よかった…それじゃ、もっと気持ちよくしてあげるから」

「ね…シンジ…」

切なげな表情にシンジの胸がドキリとするのがわかった。今までに見たことのない表情、他の誰も見たことが無い、アスカの女の部分の顔−

「ん?」

「さっきの話、ね…続きがあるの…もし逃げ出せたら…どこか遠くの町に、アンタと一緒に住んで、仕事をして…そこでアタシはアンタの帰りを家で待ってる…」

「アスカ…」

「そのうち子供が生まれるの…三人であちこちに出かけて………ひゃぅっ」

その話を遮るようにシンジは胸への愛撫を再開した。

「ね…アスカ、今の話、また後でしようよ。戦いが終わったら、ゆっくりと、僕らの家でね」

「シンジ…それって…」

「絶対に死なないさ。大丈夫だよ。生きようとする者が勝つんだよ。だから、絶対に僕らは死なないし、これっぽっちも死ぬなんて思っちゃいけないんだ」

「うん…」

アスカのプラグスーツが小さな音を立てて床の上に力なく落ちた。今シンジの目の前に居るのは完璧なラインとバランスを兼ね備えた裸身の女神−その姿に思わず自分が何をしていたのかを暫し忘れて見入ってしまう。

「綺麗だよ…本当に…アスカ…」

そんな視線を受けて流石に恥ずかしくなったのかアスカが顔を赤らめながら呟いた。

「アタシだけじゃ…ずるい。シンジも脱いでよ…」

「え?あ、あ、そ、そうだね、ごめん」

やがてシンジもプラグスーツを脱ぎ捨て、二人とも生まれたままの姿になる。アスカが初めて見るシンジの男の部分。それがこれから自分の中に入るのかと思うと…下腹部の辺りが少し熱くなってくるのがわかった。

「(今…アタシの体がシンジを受け入れようとしている…)」

「アスカ…」

シンジはその既に湿り気を帯びていたアスカの女性自身に。そっと自分のモノをあてがった。アスカもそれに気付くと緊張のためか小さく肩を震わせる。多少濡れていたせいか、すんなりと半分ほど進入はしたが問題はそこからであった。

それはシンジも良く理解している。アスカの純潔の証−それを今自分が破ろうとしている。それにはかなりの痛みを伴う事も知っている。だからこそ…今目の前に居るアスカが心配だった。

「アスカ…いい?」

「今更そんな事聞いてどうすんのよ…アタシの心はもう決まってるの。来て、シンジ…」

願わくば、その痛みを少しでも減らせますように−

そういった願いも込めてもう一度アスカと唇を合わせる。先程の仕方とは違って今度は舌を絡ませあう深い深いキス。ざらざらとした舌の感触とぬめりとした口内の感触が同時に自分の下に伝わる。やがてそっと唇を離すとお互いの唾液が合わさって小さな橋を作り、音もなく崩れた。

「…あ……はぁっ…はぁ……んっ………くぅんっ!!

痛みを堪えるアスカの額に脂汗が浮き出す。

「アスカ…」

「いいから、シンジ、早くっ!!」

その声に押されるようにして一気に腰を突き出すと、二人の接点から深紅の液体が流れ出してきた。それは破瓜を意味する。アスカの純潔の証。

「…はぁ…はぁ……うっ…くっ!」

よほど痛かったのだろう、アスカが肩で息をしている。しかしお互いの中では一つになれた満足感が全てを支配していた。そっとアスカの唇に自分のそれを寄せ、繋がったままもう一度アスカの味を貪る。

「は…………いった、の……?」

「うん……すごい………アスカの中、暖かいよ………」

「バカ………」

痛さ半分、嬉しさ半分といったところだろうか、その目にうっすらと浮かぶ涙が一粒、また一粒と流れ、その美しい顔を伝っていく。シンジはいとおしげにその涙の跡をそっと指の腹で拭ってやる。それに呼応する形でそっとアスカは微笑んだ。

「動いても………いいかな?」

「ん……ちょっとまだ痛いけど……時間ないから……いいよ」

「わかった……でも、苦しかったらすぐに言ってね」

その言葉に応じるようにゆっくりと腰を動かし始めるシンジ。まだジンジンとした痛みが自分の中心から依然として体中に伝わってくるがそれを上回る絶大な安心感。決してシンジが乱暴にしない、とわかっているから、大好きだから。

「ふあぁっ……!」

「アスカ……アスカぁっ……」

「ああ……はぁ……奥のほうに、当たってる……」

息も絶え絶えに喘ぐアスカを見ているうちに自分の気持ちがどんどん昂ぶって来るのがわかる。きっとまだ痛いのだろう、その形の良い眉が時折歪み、それに耐えていてくれる、それが伝わってきてなんとも言えない切なげな気持ちになった。

「もう、少しだからね、アスカ……」

「うん……大丈夫、だから……シンジ……」

やがて背筋にゾクゾクとした快感が走り、自分の限界を告げる。

「あ……アスカ…僕、もう、そろそろ……」

「うん………シンジ…来て……」

「で、でも……」

「最初に言った筈でしょ?後悔は……したくないの」

「アスカ……う、あ、あ、あ、あぁ、うああぁぁぁ………」」

シンジの顔が切なげに揺れる。奥のほうで暖かいものが広がっていく感触…
ガクリと力が抜けたシンジがアスカの肩にもたれ掛かってくると、そっとその頭を抱きしめた。慈しむようにシンジの髪にすっと指を通し、優しく撫でる。

「アタシは……シンジが好き。だから、これで終わらせたくない。頑張らなきゃね、シンジ……」

「…………うん」

荒い息を整えつつシンジが応える。
そうして長い間−二人はそうして抱き合っていた。









 

 

 

やがてネルフ本部内にけたたましく非常警報が鳴り響く。量産機が日本の領空圏内に入ってきたのだ。その数は九つ。身支度を整え再びプラグスーツを着込んだシンジとアスカはやがてミサトが呼びに来るであろうその時まで抱きしめ合い、長い長い口付けを交す−

名残惜しそうに離れた後、アスカがそっと口を開いた。

「さっきの話−」

「え?」

「まだ続きがあるんだけど…」

「でもそれは…」

戦いの後に、と約束したはずだったのだが…それは承知の上、とアスカが言葉を続ける。
いつものあの勝気な笑顔で、背をピンと伸ばした姿勢で。

「いつかね、アタシたちの子供に、パパとママの武勇伝を聞かせてあげるのよっ!だから、ヘマすんじゃないわよバカシンジっ!」

もう大丈夫、そう目が訴えていた。さっきまでの弱気な自分を引き摺ったままこの戦いに赴くわけには行かないのだ。

「アスカ……………」

「やられたりなんかしたら、承知しないんだから……覚えておきなさいよ……」

そう言ってアスカはシンジの首に両腕を回すと、もう一度口付けた。










 

 

ゴォゥッ!!

ジオフロントに轟音と共にエヴァ初号機と弐号機が射出された。先程の使徒が襲来した際の攻撃でその天井にはぽっかりと穴が開き、青い青い空が見える。

あれはいつだったか…学校の帰りにアスカと見た青い空…何気ない、他愛ない会話…そんな事を思い出した。もう一度あの空を二人で見られるだろうか。

だが、やがてその青い空にぽつりと白い点が浮き上がり、やがてその数を増やし、段々と大きくなってくる。その点は円をぐるぐると描き、まるで獲物を狙うタカのようにこちらの様子を伺っているかのようだ。


あれが−エヴァ量産機−




サイドモニタを見るとアスカも同様にして奴らを見上げていたようだ。だがシンジがこちらを見ている事に気付くとそっと微笑みで返す。

「シンジ、わかってるわね、先手必勝よ」

「大丈夫、あの時の、ユニゾンと一緒さ。きっと勝てる」

「当たり前よ。あんな感情の無いロボットなんかに負けるわけないじゃない。こっちには人が乗ってんのよ。人間様に勝てると思ってるのかしら」

そう言いつつ、そっと自分の下腹部に手を当てる−

まだシンジの温もりが残っているようだ。なんとも言えない幸せな気持ち…戦いの前なのに安心する感じ…

やがて弐号機にもその気持ちは伝わったのだろうか、徐々にシンクロ率が上がっていくのが、なぜかは知らないけれど解った。エヴァが自分を包みこんでいてくれるのがわかる。今までに無い安心感。どこか懐かしいこの感じは−


「この感じ…まるでママの腕の中に居るみたい……………守ってね」



ヒュゴウッ

今まで空中で円を描くように飛んでいた量産機がやがてその輪を乱し、次々と降下してくる。その爬虫類的な笑みが見るものを圧倒するがそんな事はお構いなし、と着地の隙を狙って弐号機が、そして初号機が一瞬遅れてダッシュを始める。


みるみるうちに降下してくるエヴァ量産機との距離が縮まってくる。
これで本当に最後の戦い−本当にこれで平和が来る・・・そして・・・



「アンタたちなんかにぃぃぃ」



プログナイフを構え、今までに無い速度でエヴァが加速して行く。生きようとする意思がその動きに、そして手元の武器に集約されていく。超振動によって対象物を破壊するそれはやがて発光を始め、まるで彼らを照らす太陽の如く輝いた。



「アタシたちの未来を邪魔されるもんですかぁぁぁっっ!!」



予想外の速さに着地を狙われた格好になったエヴァ量産機たち。感情の無いはずのその顔には明らかに狼狽の色が浮かんでいた。
















「……で、その後どうなったの?ママ」

ぴょんぴょんと元気が有り余る様子で母親に物語の続きをねだる女の子。その栗色の髪は母親譲り、そしてその黒い瞳は父親譲り。


そんな娘の頭を優しく撫でながらその続きを記憶の中から紡ぎだす。あの頃のプロポーションはそのままにすっかり美しく成長したその女性は、柔らかな笑みを浮かべて椅子に座っている。

「そりゃぁもう大活躍よ。ママもパパも必死になって戦ったわ。覚えておきなさい、愛の力の前にはね、どんなものも無力なのよ。勝って当たり前の勝負だったわけよね」

「ふぅん……よくわからないけど、すごかったんだね!ママ!」

「そうね………でもね、あの時一番凄かったのはパパなのよ」

そんな親子の様子をその横で雑誌に読み耽りながら聞いていた黒髪の男が照れくさそうに頭を掻く。

「ホントに?」

「そりゃホントよ…敵をね、こう…バッタバッタと…ねぇ?シンジ」

「ん?ああ、そうだっけ?」

「まったく……あの時はすごいと思ったのに普段はボケボケっとしてるんだから…」

呆れ顔で食ってかかる妻の美しい顔から逃げるように目を逸らし、窓の外の空を見上げてみる。















あの日と同じ、どこまでも澄み切った青い空だった。











 

 


 



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