もしそれが許されないことだとしても僕たちは後悔しない。
お互いに信じることが出来たからこそ分かり合える。
そう、信じて生きていきたい。


もしそれが許されないことだとしても私たちは後悔しない。
心から信じることが出来る人と巡り会えたのだから。
彼と一緒に生きていきたいと願うからこそ歩んでいける。


もしあの時彼らのように逃げなかったのなら。
嘘と本当と混じり合った彼との関係、それはまるで自らを欺くための逃避。
いや、私は結局同じ道を選んだだろう。




道は一本ではなく、人はそれぞれ選びながら未来へと歩んでいる。
その道がどうなるかは誰もわからないし、だからこそ未来へと進んでいける。
そう信じたい。


痛みと喜びを胸に
「本当に…いいんだね?」 少年は念を押すように言う。 「あんたはどうなのよ?もしかして私にすべてを押しつけるつもり?」 少女は少年の言動に苛立つ。 どうしてこうなのだろうか?性格だとわかっていても腹が立つ。 ここ一番で腰が引けるなんて本当に男なのだろうか? そんなことを考えると余計いらいらしてきた。 「違うよ、僕は本気だよ。でもね、好きだからこそお互いの気持ちを確かめたいんだ」 え? 少女は思いがけない言葉に驚く。 少年は顔を真っ赤にしながらも真面目に、まっすぐに青い瞳を捉える。 少年の決意を感じた少女もまた少年の黒い瞳を見つめ返す。 −逃げない− これから行われる儀式はもう後戻りが出来ない行為。 本当に心から信頼しあえる場合にのみ行う事が出来ること。 そうでなければただの快楽のみに溺れる獣と同じ。 「ねぇ?態度で示してよ」 少女は静かに目を閉じ少年の行動を待つ。 鼓動は高鳴り緊張する、しかし少女はそんな自分を出来るだけ隠そうとする。 それが少女のプライドでありアイデンティティである。 もちろん少年はわかっている、自分がするべき事を。 美しく、おそらく自分なんかよりももっと彼女に相応しい相手がいると思う。 だが少年は欲しかった、この美しい少女を。 少年は分かり合いたかった、この気丈な少女と。 少年は支え合いたかった、このあまりにも脆い少女と。 やがて意を決して少年は少女と唇を重ねた。 触れる他人 感じる吐息 初めての口吻 甘い禁忌 揺れる心は少女を抱きしめ 揺れる想いは少年を求める 長い、長い抱擁 お互いの欠けた心を埋め合うように 「ん…」 どちらからともなく唇を離す。 もっともっと溶け合いたいと思う心と次へと望む心 少年も少女も欲していた。 「アスカ」 「シンジ」 名前を呼び確かめ合う、お互いの他人を。 他人であり、想い求める人であり。 少年、シンジは衣類をすべて脱ぎ去った。 少女、アスカは衣類をすべて脱ぎ去った。 恥ずかしさともどかしさ、ふたりが思う大人への儀式。 薄暗いアスカの部屋に月明かりだけが差し込む。 どこか幼さを残す裸体と大人へと変わっていく美しさ。 子供であり、大人である今の姿。 どこか子供っぽく、でもどこか大人っぽく。少年の面影と男の力強さが見られる肉体。 お互いに恥ずかしそうに、それでいて目を逸らすことが出来ないぐらいに直視してしまう。 自分の裸を見られていることより相手の裸体に目がいってしまう。 それぞれに想像したよりも逞しく、美しい。 アスカはやがてシンジの男を見て驚く。 『やだ、なんで?興奮してるの?』 禍々しく隆起する男を見てしまった事でこれから行われる儀式に怖さを覚える。 シンジはアスカの胸の膨らみを見て驚く。 『綺麗……』 丸く美しい乳房はツンと張っているように見える。 まだどこかしら堅さがあるような、それでいて柔らかそうな感じがする。 視線を落としていくと細い腰そして女…。 でもさすがに暗くてよく見えなかった。 「あの…シンジ?」 アスカの何か躊躇するような声にシンジは疑問に思い顔を上げる。 「どうしたの?」 「その…それってやっぱり…興奮してるって事よね」 ためらいがちに指さす先を見ると自分の男が熱膨張していた。 「あ、あの…それはその」 おもわず手で隠そうとするが膨張しきった部分はそれでは収まりがつかない。 真っ赤な顔で俯くシンジを見ていると滑稽すぎてなにやら笑えてきた。 それがアスカにとって結果的にリラックスすることとなる。 「恥ずかしい…わよね」 「?」 少しだけ顔を上げたシンジはアスカの意図することがよくわからなかった。 「あたりまえよね、私たち初めてなんだから。それでも……するんでしょ?」 その言葉にシンジはハッとした。 何も恥ずかしいのは自分だけではない、アスカだってそうなのだと。 「うん」 言葉なんてほとんどいらなかった。 −好き−と言う言葉が陳腐に感じる。 −愛してる−と言う言葉が色褪せて見える。 −欲しい−と言う言葉に欲望がぎらぎら感じる。 だからたった一言。 「アスカ」 それだけで十分だから…やや小さめに肯くアスカを見てシンジはゆっくりと近づき抱きしめた。 ベッドにアスカを優しく寝かせ覆い被さるようにシンジはアスカを見下ろす。 肌と肌が触れ合いアスカはシンジの重みを感じた。 首筋に口吻されるとまるで電気が走ったかのように体が反応した。 それがものすごくいやらしく感じた。 「んぁはぁ」 思わず恥ずかしいと思い声を抑える。 シンジはかまわず頬に唇に、そして乳房に。 それから胸を少しだけ見て乳首を口に含む。 「いや」 アスカの思わぬ反応。 別にアスカは拒絶したわけではない、もちろん羞恥心から出た言葉なのだがこのタイミングは悪かった。 ナーバスな少年の心はすぐに恐がり素早く少女から離れた。 「ち、違う。あの!…ごめんシンジ。」 そう言うとアスカは体を起こしできるだけ優しく抱きしめる。 そして耳元でささやく。 「私だって恥ずかしいんだから・・・・ね」 先ほどの言葉が浮かんだ。たった数分前のことなのにシンジは欲望に溺れて忘れていたのかと自責する。 そう、お互いに恥ずかしいのだし、求めているはずだから。 『いや』と言う言葉の意味は冷静に思うと理解できる。 未知の体験、それはやはり怖いと感じるだろう。 こうしている間だってシンジは鼓動が高鳴り緊張しているのだから。 もう一度『任せて』とシンジは目で訴える。 アスカは再び体を寝かせシンジの前にすべてをさらけ出す。 ゆっくりと、ゆっくりと心のままに愛し合う。 初めて感じるアスカの体、初めて感じるシンジの体。 まるで溶け合うかのように体を擦り付け密着する。 アスカの吐息、喘ぎ声、体の中に入ってくるシンジ。 赤い痛み、熱い快楽、獣の交わり、寄せては返る波の悦楽。 繋がる体、溶け合う心、求める、交わる、貪り合う。 もう何が起ころうとも二人には関係がなかった。 ただお互いの事だけを、ただ心のままに。 愛する心と求める心、埋め合うふたり。 「ふんふんふーーん」 何やらご機嫌なミサト。 ようやく拷問ともいえる残業を終えて我が家に帰ってきた。 「たっだいまぁぁぁ」 どうやらビールを煽ってたらしい 「しっかし、リツコも鬼よね。あんなの後でも良いじゃない」 若干愚痴も入っているようだ。 靴を脱ぎほろ酔い気分でキッチンに向かう。 お目当てのビールはキンキンに冷えて冷蔵庫に貯蔵されている。 これでもだいぶ減ったのだが、ふつうに考えれば多すぎる。 「ああ、愛しのビールちゃん」 愛しい人に会うかのように恍惚の表情でビールを見る。 まあ、これだけで十分幸せなのだが。 「んん?」 缶ビールを銜えながら静かな、静かすぎるリビングを見る。 いつもは賑やかにテレビを見ながら(ミサトには)じゃれあっている(ように見える)二人がいない。 『もう寝たのかしら?』 いや、おかしい。時間はまだ20時だし食事が終わったとしても寝る時間までにはまだ間がある。 何かが変だ?それとも本当に寝たのだろうか?二人揃って?? 気になることはもちろん二人の部屋に行けばわかる。 まああんまり深刻には考えていないが少しは気になる。 ミサトはとりあえず自室でラフな格好に着替え空になった缶ビールを捨てる。 手持ち無沙汰になった手にはもちろん二本目のビールが。 「シンちゃーん?」 がらりと部屋を空けると誰もいない。 「・・・・・・ん?もしかして・・・」 にやり。 邪悪な笑みを浮かべてミサトはアスカの部屋を見た。 『シンちゃんたらいつのまにアスカと仲良くなったのかしら。  そんな楽しいことはお姉さんに教えてくれないと』 どうやって酒のつまみにしようかと思いながらアスカの部屋へと忍び足で近づく。 「んん」 「はぁん」 小さく聞こえてくる喘ぎ声。 『え?何?』 思わぬ状況に思考がうまく働かない。 ミサトは不審に思いながらアスカの部屋の前に立ち止まった。 トントン 戸をノックする音。 ミサトは部屋で求め合っている二人のことを知らない。 もちろん二人はミサトが戸の前にいる事など気付きもしない。 「ああ・・」 出来るだけ声を殺しているつもりがあまりにも「きもちいい」快楽に殺しきれない。 その声はしっかりとミサトの耳に入った。 がららららら 変な声に驚いたミサトはあわてて扉をスライドさせる。 目に飛び込んできたのは頬を真っ赤に染め恍惚の表情のアスカと・・・・。 「な、ななななななななななな」 ふたりともミサトの驚きの顔を夢見心地に見る。 視線の焦点が合わないので入ってきた人物が誰なのかよくわからない。 そんなことより高まってきた快楽にもうふたりはミサトの事など関係なくなる。 「シンジぃ、シンジぃぃ」 「うぅあ、アスカぁ」 「ああんぁぁぁぁぁんんんん」 突き上げる快楽と下腹部に注がれた熱い迸りにアスカは押し寄せる未知の快楽に溺れる。 シンジは深く入り込むようにアスカの腰を両手でしっかりと押さえながら小さく痙攣していた。 「あんたたち、なにやってるの!!!!」 思わず我を忘れていたミサトは二人に怒鳴りつける。 「「え」」 恍惚の状態から我に返った二人はミサトが目の前で鬼のような形相で睨んでいる姿を認識した。 急激に血の気が引いた −禁忌を犯す− 意味。 してはいけない事をする後ろめたさが二人の心を満たす。 しかしミサトは二人を見ていたわけではない、二人に忌まわしい過去を重ねていた。 女である事の喜びを知ったあの時、体を重ねる事によって得た安らぎ。 さも永遠に続くと錯覚してしまう幸せ。ミサトの目に映るのは自分と加持の情事だった。 気づかずに手にしていた缶ビールを握りつぶしてしまう。 見たくもない過去をまざまざと見せつけられた事に動揺する。 たった数秒がまるで何時間にも感じられた、やがて見えてくるのは二人のチルドレンの痴態。 ようやく我に返ったミサトはすぐさま大人の常識を考える。 それはまだやってはいけない事、そして心も体も未熟であるが故に許されない成人の儀式。 ミサトは過ちを正しく導いてやらなければならない立場である保護者であり人生の先輩である。 だからこそ怒った。 「あんたたち!自分のやっている事の意味がわかってるの!」 「ミ、ミサトさんこれは」 シンジは真っ白になった思考で言い訳をする、何がなんだかわからなかった。 しかしアスカは違った、自分をしっかり持っていた。 「私たちは合意の元でひとつになっ!」 最後まで言えなかった、何が起こったのか一瞬わからなかった。 気づいた時には熱と痛みを伴って頬が真っ赤に腫れ上がった。 同じようにシンジも何が起こったのかわからなかった。 目の前には赤くはれた頬に手を当てて睨むアスカと怒りのこもった目で睨むミサトがいた。 「殴る事無いじゃないですか!」 シンジはアスカを抱き寄せミサトに敵意をありありとむき出しにする。 ミサトはまるで過去の自分と対峙しているように感じた。 それが一層の怒りをかき立てる。 「シンジ君!あなた自分のした事の意味わかって言ってるの!?」 「わかってます!ミサトさんに迷惑を掛けてる事もわかってます。でもそれとこれとは別です。  アスカに謝ってください!ミサトさんが手を出す事と僕たちのやった事とは別問題です!」 「私は私の立場で行わなければならない事をしたまでよ。それが間違った事だというならあなた自身の  行った事はどうなるの?え!はっきり言ってみなさい!」 「何も言わずに手を出す事無いじゃないですか!」 「言ったわ!だけどそれを拒否したのはアスカよ!」 そう、確かにそうだ。シンジは言葉に詰まってしまった自分を恥じた。 それでも認めるわけにはいかない。でなければアスカが・・・。 「ごめん、アスカ。」 小さく呟くシンジの声はもちろん庇いきれない情けなさに謝った言葉。 悔しかった、悲しかった、情けなかった。少しだけ涙が出た。 シンジのアスカを抱きしめる手が震えた。アスカもそんなシンジの心はわかっている。 そんな震え抱き合う二人を見て自分はなんと滑稽なのかとミサトは思う。 また大学生時代の自分とふたりがだぶって見えた。 もちろんミサトは許されるであろう年齢で体を重ねた。 二人とは違う、若すぎるふたりが許される行為ではない。 わかっている、わかりきっている常識がなぜこんなに滑稽なのだろうか? 「とにかく服を着なさい」 出来るだけ怒っている演技をするしかないミサトはなんとか大人を演じる。 愛し合う・・・本当の意味・・・・自分でさえ確信することが出来なかったのに。 シンジはアスカにタオルを掛けて目で合図をした。 うなずくアスカは下着と服を持ってシンジの部屋へ向かった。 「着替えますから出ていってください。後でリビングへ行きます」 「わかったわ」 ミサトはただ肯いて部屋を出た。 私は本気だった。 この人なら一生を共に生きていけると思った。 女の喜び、支え合う事の大切さ、共に生きていく事の意味、自分以外の存在。 『加持君、私の事好き?』『当たり前じゃないか』『んふふ』『おいおい、気持ち悪いな』 『だってさぁ、幸せなんだもん』『…それは俺もさ』 だけど幸せは長く続かない、それはいつだってそうだった。 母がいて、父がいた。でも母はとても弱かった。そんな母を見ずに父は仕事に明け暮れた。 父と南極へ行った。アレのせいで私はすべてを失った。加持と出会った。たくさん愛し合った。 でも結局は一緒に生きてはいけなかった。自分に嘘はつけない、加持に父親を重ねていた自分に。 私は父を愛していたのだろうか?父に抱かれたかったのだろうか? 加持はそれでも笑って許してくれた。その優しさが痛かった、その暖かさが苦痛だった。 こんないやな思いをするならいっそうの事出会わなければよかった。 でも過去は消せない、だから別れた。何も告げずに別れた。こんな思いをするのはもう嫌だ。 だから、アスカにもシンジ君にも味わって欲しくない。 ミサトはリビングでうなだれていた。 心が重なれば重なるほど感じる苦痛、それならば初めからそんな関係にならなければいい。 ふたりにこんな思いはさせたくないからこそ。 『ほんとうにそうなの?』 ミサトはぎくりとする。 『ほんとうにそう思ってるの?本当は妬ましいんじゃないの?』 子供のミサトがゆがんだ笑みでミサトを見る。 『だって加持君とはうまくいかなかったものね。子供ごときに負けたの認めたくないものね』 えぐる言葉、本音なのか?卑しい自分が彼らを妬んでいるのだろうか? 『そうよ、私は嫉妬深いんだから』 別れたはずの加持に未練を持つ心、関係ないと口では言うがなぜかイライラする。 ああ言う性格だったのはとうの昔にわかっていた事なのに。 『嫉妬してるのよ』 チルドレンに、アスカとシンジに。 「違うわ!!」 思わず叫んでしまった。 「…あの……」 アスカとシンジがちょっと驚いた顔でミサトを見ている。 いつの間に来たのだろうか?と時計を見ると五分ほどたっている。 「ごめんなさい、座ってくれる?」 気持ちを切り替えなければ、ミサトは忌まわしい過去を心の奥底へ再び沈めた。 二人ともソファーに掛けてミサトを見る。ミサトは向かいのいすにすでに座っていた。 「回りくどい事は言わないわ、あんたたちの今回の事は黙っているわけには行かないの。  司令に報告して処分してもらうわ」 ビクッとシンジは体を強ばらせた。 「勘違いしないでね。別に告げ口をするつもりはないの。でもね、私はあなた達を保護する  立場にある人間なの。だから私の失態を…私の責任を果たさなければならないの。  もちろんあなた達にも何らかの処分はあると思う。最低でも別々に生活してもらう事になるわ」 淡々と話している間にも幻に苛まれる。自分だったらどう言うか…もちろん分かり切った事だ。 「嫌よ。別々に暮らすぐらいならシンジと出ていくわ。」 アスカならそう言うだろう、だから…。 「出ていくならエヴァには乗れないわよ、わかってるわね?」 卑怯だと思う。 「……」 やはりアスカは言葉を続ける事が出来なかった。 「僕たちは本気ですよ」 ようやくシンジが口を開いた。 「何が?」 「僕たちは本気で愛し合ったんです、これからもそうするつもりです。僕は僕の半身を見つけたんです。  僕は今でも恐がりで…弱くて…卑怯者です。でもアスカがいてくれるから、アスカと生きていけるなら  僕は…うまくは言えないけど立っていけると思うんです」 『そうよね、私もあの時そう思ったもの』 シンジとアスカの後ろに幻のミサトがいる。楽しそうに、馬鹿にしたようにミサトに言う。 「僕は本気です」「わたしだって」 シンジの言葉にハッとしてアスカも答える。 「ふたりともわかってない!あんたたちはエヴァのパイロットでしょ?パイロットとしての責務の妨げになるわ」 「関係ないわよ!」「そうです、心がつながっていることがどうして妨げになるんですか!」 『加持君と一緒に生きていきたかったのに』恨めしそうに幻はミサトを睨む。 「快楽に溺れる事の怖さを知らないあんたたちに何がわかるの!!  本気ってなに?裏切られた時はどうするの?怖くなった時はどうするの!?」 その言葉は誰に言ったのだろうか?ミサトは心にある疵をナイフで再びえぐるような行為をしている。 ふたりに自分を重ねて、ふたりに自分達を重ねて。 「関係ないわ!そんな事を怖れてたら一歩も先へ進めないじゃないの!じゃあ一生独りで生きろっていうの!?」 アスカもムキになってミサトに反論する。もう独りじゃない自分を得たのだ。もう独りになるのは嫌だと感じている。 「何もそんな事言ってる訳じゃないの、でもしても良い事と悪い事の問題なのよ。子供のする事じゃないわ」 「大人って何よ、子供って何よ!そんなの関係ない!」 「そう…かもしれない…でも、それは人が社会で生きていく上で必要な決まり事の上の事なの」 「綺麗事言ってるんじゃないわよ、そんな事だけで生きていけるほど私は良い子ちゃんじゃないわ!」 無言…でもそれは一瞬だけだった。 「仕方がないわね。話し合う余地はないわ。あなた達のワガママにつきあってはいられない」 ミサトはそう言うと立ち上がった。 『それでいい、それでいいのよ。私の選択は間違ってないもの。自分の疵をえぐられるような事を  他人にはさせないんだから。あれは正しかったの。そしてこの子たちは間違えた。間違えたのよ』 くくくっと笑いながら幻は言う。 それはミサトの心に浮かんだ言葉。幻はミサトの心に溶け込むように消えていこうとする。 「ミサトさん」 沈黙していたシンジは口を開いた。ミサトは振り返ってシンジを見る。 「僕はどうしてエヴァに乗ったか…ミサトさんならわかりますよね?僕には僕が存在してもいい場所が欲しかった。  だからエヴァに乗る事が苦痛だったのに僕は乗り続けたんです。  でも今は違うんです。アスカと生きていくために…アスカと未来を掴むために乗りたいと思います」 「え?」 予想しないシンジの言葉に軽い驚きを感じた。 「もし…僕たちの事が許されないのなら僕はアスカとともにここを去ります」 「あなたはそれで良いかもしれない、でもアスカの気持ちはどうするの?アスカはエヴァに乗るために生きてきたのよ」 「わかってます、でもアスカも僕の事を信じてくれると言ってます。なら同意してくれると思います」 アスカは驚いた、それはエヴァを捨てると言う事をシンジが言った事に対してじゃない。 シンジもアスカを信じてくれているのだ。それがアスカの心を動かした。 今までの人生はエヴァがすべてであってそれ以外に生き甲斐はなかった。 それをシンジという存在が過去のものにした。それがアスカの心で理解するとすぅっと一筋涙が出た。 シンジはアスカを見る。アスカはシンジを見る。 ふたりの瞳はお互いの強い意志が浮かんでいた。 そしてシンジは肯きミサトを見る。アスカはシンジの隣に立ち手を握ってミサトを見る。 「ミサトさんに迷惑を掛けた事は謝りたいと思います。その上に脅迫している事も謝ります。  でも僕たちにはこれしか方法がないんです。これしか」 「で、でも…」 それでも認められない、認めてはいけない。ミサトは俯きながら拳を握りしめる。 「ミサトさんは父さんにそのまま言ってくれればいいんです。もちろん今現存するチルドレンは  僕たちだけなのだから脅迫している事になると思うんです。でも認めてくれれば僕もアスカも  未来を掴むために今まで以上にがんばります。お願いです、ミサトさん」 「登録抹消になる可能性もあるわよ…」 「ええ、父さんなら脅迫に屈しないでしょうね。その時はその時でアスカと静かに生きていきます」 「難しいわよ、死ぬかもしれないわよ」 「僕だけだとそうかもしれません、でもアスカも居てくれます。」 「使徒に人類が滅ぼされても?」 「難しい事はわかりません。僕たちは僕たちの出来る事をするだけです」 「……」 「おねがいします」「お願い」 強く二人は手を握りあう。 ミサトの心は揺れていた、認めてあげたい、協力してあげたいそう思う一方認めるわけに行かないと言う自分が居る。 だから 「駄目、やっぱり駄目」 「ミサト!」「ミサトさん!!」 「駄目なのよ!あなた達に私のような思いはして欲しくないの!!!」 「!!」 ミサトはよろよろと座り込んでしまった。 シンジもアスカもようやくミサトの心の奥底に秘めた本当の意味を知った。 そんなミサトを見てアスカが口を開こうとした時、シンジは首を振ってミサトの横にゆっくりと座った。 「ミサトさん、ミサトさんの過去に何があったかは知りません。ミサトさんは僕たちよりたくさん生きた分  たくさん苦労してきたんだと思います。だからミサトさんの言葉は真実だと思うんです。」 「なら…」 力無くミサトは呟いた。 「でも僕は思うんですよ、人生を生きていくのに正解も不正解もないと思うんです。僕が一人で居た事も  アスカがエヴァにこだわった事も、ミサトさんの過去も。僕たちが選んできた事が今の僕たちを、そして  これからの僕たちを作ると思うんです。後悔する事があっても、それだけで生きていく訳じゃない。  僕には今アスカがいます。だから僕は今は幸せなんです。ミサトさんだってそうじゃないですか?」 「シンジ…君」 「後悔する事もあるかもしれませんけど。」 ららりとアスカを見る。 「なによそれ!」 あまりのタイミングにアスカはムッとする。 が、もちろん一瞬だけ。 くすっ なんだか馬鹿みたいだった、つまらない自分の意地が馬鹿みたいだった。 『もう、いいの?本当にもういいの?』 幻が睨むように自分を見る。 『幻のあんたも私なんでしょ?ならいいのよ、もう。あんたも抱えて生きてやるわ』 ミサトは少しだけ笑っていた。馬鹿馬鹿しい答えだった。 嫌な事もあるかわりに良い事もある。たぶん人生なんてそんなものだ。 だから最後ぐらいはお姉さんとしてこの子たちに何かをしてあげようと思う。 「なら・・・・・誓いなさい。今後このような行為はしないと。使徒を殲滅するまで」 「「わかりました」」 不満がないわけではない、でもミサトは自分たちを認めてくれたのだ。 それ以上の事を望んではいけない。 「シンちゃん、ムラムラ来てもアスカを押し倒しちゃ駄目よ」 「な、何言ってるんですか!!」 「なーに言ってんのよミサト、シンジにはそんな根性無いわよ」 「なんだよ、アスカまで」 「あらあら、シンちゃんは尻にひかれるタイプね」 「そんなミサトさんまで」 これでいいとミサトはそう思った。 この子たちは自分で道を選んだのだ。なら大人として応援してやらなくてはいけない。 もちろん怒らなければならない時もあるだろう、その時は怒ってやろう。 二人の気持ちを汲んでやろう、そう思う。 シンジも今はこれでも良いと思った。 ミサトさんが笑ってくれる、アスカが喜んでくれる。 それに、微笑んでくれるのだから。 シンジは思いを込めて手を握った、アスカもしっかりと手を握り返した。 満たされた心に自然と笑顔が浮かぶ。 例えふたりの行為が常識の範囲で間違いだったとしても関係ない。 そのことによって今のアスカとシンジが居るのだから。
<野上まことの言い訳と言う名の後書き> お久しぶりです。夢現の絆を見に来てくださる方はこんxxは。 前回はショートショートでしたが、今回は短編です、少しは読みこたえありますか? もちろんアスカとシンジが主人公ですが、今回はミサトにもがんばっていただきました。 子供の真剣さ、大人の事情、難しい問題かもしれません。 シンジたちが選んだ道は間違いかもしれません、けどそれは二人が選んだのですから。 選ばされたのじゃなくて。そしてミサトだってそうやって生きてきたのです。 もし心になにか残ったのでしたら感想くださるとうれしく思います。