NEON GENESIS EVANGELION Short Story

『お年始廻り』

Written By pzkpfw3さん





それは前触れもなく、二人の家を訪れた。


「すいませーん。宅配便でーす!」

「はーい、いまいきまーす。」


と返事をして、玄関に向かったのはもちろんシンジ。アスカの方は、リビング

で転がりながらテレビを見ている。

「じゃ、ここと、ここにサインをお願いします。」

「はい、じゃ、これで。」


セカンドインパクトで失われた大量の印鑑証明が、とうとう日本からも印鑑を

駆逐してしまったのだ。

受け取った箱をシンジは嬉しそうに見つめる。どうやら、半ばは予期していた、

というかそもそもシンジが注文したものだったらしい。


とたとたと、あまり男にはふさわしく無い擬音をたてながら、シンジはリビング

のアスカの元に急ぐ。

それに気がついたアスカが


「ねぇ、何だったの、届けもの」


と聞く。


「あぁ、去年のうちに僕が頼んどいたものが来たんだ、期日指定便ってやつで
さ。
 1年365日いつでも指定した日に配達してくれるんだ。」

 「尤も、盆暮れ正月は、時間までは指定できないんだけどね。」

とシンジが言うと、アスカは自分にも四分の一日本人の血が流れているにも

関わらず


「まぁったく、日本人ってのも変な人種よね〜。
 その期間は何があっても休むんだから。」


シンジは苦笑しながら


「それが伝統文化ってやつだよ。大目に見てほしいな。」


と悪態を突くアスカをなだめる。


「で、話がそれたけど、結局の箱はなんなのよ。結構大きいみたいだけど。」


アスカは本来の追求にかかる。


「そんじゃあ、今開けるね。」


シンジが簡易包装のデパートの包装紙を取って箱を開けると、中にはえんじ色

を基調にした着物一式が入っていた。


「わぁ、きれいねぇ・・・ねぇ・・・これ、どうしたの?」


アスカは着物をすっかり気に入ったようで、少し上擦った声でシンジに問う。


「アスカに初詣に着てもらおうと思って、去年から準備しておいたんだ。」


シンジは声に出しては少し悄然と、口元には薄らと笑みをうかべて


「でも、アスカ、日本の伝統文化には興味ないみたいだし・・・返しちゃおっか。」


その言葉を聞いてぴくっと肩を震わすアスカ。


「えー、ねぇシンジィ私一度着物着てみたいって思ってたの、ね、お願い。
 そんなこと言わないでよぉ。」


ジト目になるシンジ。


「ほんとにぃ。」


「ほんと、ほんと。ねぇってばぁ・・・これで許して、ね?」


アスカはシンジを引き寄せて熱烈なキスの嵐をみまう。

思わずキスに没頭する二人。少しの間リビングをキスの音だけが満たす。


「・・んん・・・。」(ちゅっ、ちゅぱ)

「・・・はぁ・・・ん。」(ちゅぅぅ、ちゅ)


キスを終えて、紅い顔をしながら、それでも額を寄せ合って囁きあうふたり。


「アスカ・・・美味しかったよ・・・。」

「いや。シンジの意地悪・・・でも私も・・・。」


二人ともすっかり着物の事は忘れているようである。


「ねぇ、シンジィ・・・私のこと、好き?」

「もちろんだよ、誰よりもアスカの事愛してるよ。」

「じゃぁ・・・すっといっしょにいてくれる?」

「もちろんだよ。誰がなんと言おうと、絶対に放さないよ。」

「うれしい・・・。」

「アスカ・・・。」


またもや熱烈なキスを交わす二人。

あまりのラブラブさにミサトが耐え切れなくなって半ば追い出すように新居を

用意したという噂が信憑性を帯びるような二人の行動である。


しばらくお互いを抱きしめていた二人だが、漸く我に返ると二人で着物の箱に

向き直った。それでも手は繋いだままであるが。


「でもシンジィ。私着付けなんかできないよ。どうすんの?」


アスカが当然の疑問を出す。


「そうだよね、僕も最初はそれであきらめかけたんだ。洞木さんなら着付けが
 できるかもしれないけど、彼女はトウジの世話で忙しいだろうしね・・・。」


少し辛そうな表情をするシンジ。それを見たアスカも少し辛そうな表情になる。

アスカはシンジを抱きしめて


「シンジ・・・シンジ・・・(シンジが悪いんじゃないって言いたい・・・
 でも・・・)。」

「・・・・アスカ・・・有り難う。大丈夫、アスカがいてくれるから。」


ますます腕に力を込めるアスカ。シンジはアスカ胸に顔を埋めてされるがまま

になっている。

やがてアスカの腕がゆるんで、シンジは顔をあげる。アスカはその唇にかるく

キスをする。


「それでさ・・・デパートを回ってるときに見つけたんだ。一人でも着付けが
 できますって奴。」

「それが、これ。」 


シンジはケースの中身を指す。


「へぇ、じゃ早速着てみましょうよ。」


アスカは言いながら寝室に歩いていく。

もちろん荷物をもって後に続くのはシンジの役割である。

リビングから続く寝室は結構大きく作ってあって、広さは十四畳、アスカが

選らんだ絨毯がひいてある。

北側の壁には作り付けのクローゼット、大きな鏡のついた鏡台、そして、二人

のためのダブルベッドがでんと鎮座している。


シンジが広げかけた着物をきちんと箱詰めしなおして、寝室に入ってきたとき

アスカは既に服を全部脱いで、鏡の前でプロポーションをチェックしていた。


「な!!なに素っ裸になってんだよ!!!」


顔を真っ赤にして叫ぶシンジ。


「なにって・・・着物って素肌の上に着るもんなんでしょ。
 大体とっくに見慣れてるでしょうが、いまさらなに焦ってんのよ。」

「そ・・・そりゃそうだけどさ・・・その、なんだ、状況ってもんがあるじゃ
 ないか。」


ぶつぶつ言うシンジ。そんなシンジをみて、呆れたように


「とにかく、いつまで私を裸にしとくつもり?早くそれ出してよ。」


アスカが真顔で急かす。


「あ、うん。」


ハッと気がついたようにシンジは仕事にかかる。

てきぱきと中身をベッドの上に並べていき、最初の一枚をアスカに渡す。

アスカはそれを羽織ると、鏡の前でポーズを取る。


「どぉシンジィ。色っぽい?」


アスカはすそを割ってきれいな足を出し、胸の合わせを少しはだけて見せる。

シンジはアスカの色っぽさに、少しの間見とれて声も出ない。

漸く絞り出した声は少しかすれていた。


「う、うん。とっても色っぽいよアスカ。」

「あ〜、シンジったら鼻の下伸ばしちゃってぇ、エッチなんだからぁ。」


自分から誘惑したくせに、わざとからかってみせるアスカ。


「ほぉぉんと、シンジってしょうがないわねぇ〜。」

「このまま居ると襲われちゃうかしらね〜。」


言いながら部屋の奥の方にいくアスカ。

今までだまってたシンジも


「そんなに言うんなら襲ってやる!」


少し切れてしまったようだ。


アスカはキャーキャー言いながら部屋の中を逃げ回る。

シンジも、一瞬、怒ったものの、アスカがただふざけてるということが判って、

笑いをたたえながらアスカを追い回す。


しかし、着慣れてない襦袢で走っているアスカは直ぐに足をもつれさせてシン

ジに捕まってしまう。


絡み合うようにベッドに倒れ込む二人。

アスカの着物はさらに解けて、片方の乳房が出てしまっている。

そのままの姿勢でまじまじと見詰め合う二人、二人の距離がだんだんと縮まっ

て、零になる。

アスカの滑らかな足が片方ベッドの下にずり落ちて、奇麗な乳房はシンジの胸

板に押し付けられて形をさまざまに変える。


二人はそのまま暫くキスに耽る。このような事は日常茶飯事で、能率が悪いこ

とこの上ない。


やがて二人の間に銀の橋ができてキスが終わる。


「・・・ふぅ・・・アスカ・・・好きだよ。」

「シンジィ・・・わたしもぉ。」


そのまま暫し抱き合う二人。


「ねぇ・・・シンジィ・・・私・・・。」


「アスカ、続きはあとで。さ、着付けをして、出かけるとこがあるんだから。」

「はぁい。」


思いっきり甘い声でアスカは囁く。


そのあとは、取りあえず順調に着付けが進んでいく。

普通なら一大難関になる帯締めも既に形が出来上がっているものをセットする

だけという優れものである。


「さ、これで全部おしまいだ。」


その言葉を聞くなりアスカは姿見の前で一回転してみる。


「わぁ、なかなかきれいね。シンジも最近センスが磨かれてきたじゃない。」

「まぁね。」

「これも私の努力の賜物ね。」


 アスカの言葉にずっこけるシンジ。しかし半分以上事実なので反論はできない。


「で?さっき行くとこがあるって言ってたけどどこ?」

「まぁ、御年始の挨拶まわりってとこかな。日本の習慣だからね。」

「なんかつまんないのねぇ。もっと面白いとこかと思っちゃった。」

「いいじゃない、僕は奇麗なアスカをみんなに自慢したいんだから。」


その言葉を聞いてアスカは少し頬を染める。


「ま、そういうことなら付き合ってあげようじゃないの。」

「ありがと、アスカ。」


そのあと、美容院にいって、髪をアップにしたアスカは、シンジと共に再建委

員会のビルの前に来ていた。


「ねぇシンジィもうみんな仕事してるの?」

「まぁ、全員が・・・って訳じゃないけどね。少なくともミサトさんとか冬月
 さんはいるはずだよ。」
「ふうん。」

「じゃ、行こうか。」

「うん。」


ビルの中に入っていく二人。もちろん二人ともある程度のところまでは入る事

が許可されている、と言うよりもまだ解放されていないというのが、正確なと

ころであろう。


来客登録で取りあえずミサトに連絡を取るシンジ。


「ミサトさん?明けましておめでとう御座います。アスカを連れてきました。
 ええそうです・・・。」


どうやら去年のうちに当たりはつけておいたようである。 

アスカは(確かに手際はよくなってきてるわね。)と思う。


「さ、もう少ししたら、ミサトさんがくるって、でミサトさんと一緒なら
 かなり自由に動けるから。」

「へぇ〜、ミサトも偉くなったもんねぇ。」

「おまた〜、アスカ良く似合ってるじゃない。シンジ君が選らんだの?」


軽い調子でミサトは登場する。


「ええ、僕が選びました。」

「それにしても、馬子にも衣装とは良く言ったもんねぇ〜、
 あのアスカがお淑やかに見えるもんねぇ。」

「ぬわんですってぇ〜〜・・・。」

「あ・・・アスカ、押さえて押さえて。」


おろおろとしながらもアスカを宥めにかかるシンジ。


「あんた、恋人が馬鹿にされたのよ!もうちょっとなんか言うことないの!!」

「いいんだよ。僕はアスカの活発なとこが大好きなんだから。」


そう言ってシンジはアスカにキスをする。

それを見たミサトは


「はいはい、ごちそう様。みんな見てるわよ。」


と声をかける・・・が。

既に二人の世界に突入しているシンジとアスカには聞こえていなかったらしい。

熱烈なキスを続行中である。

へなへなとなりかけたミサトだが気を取り直してもう一度声をかける。


「もしも〜し、お二人さ〜ん、そろそろ出発のお時間ですよ〜。」


ようやくこちらの世界に帰ってきた二人は、ミサトの声に肯く。

それでも手はしっかり握ったままであった。

ミサトは心の中で(ケッこちとら正月から仕事だってのにこの餓鬼どもは)と

思ったとか思わなかったとか。


尤もミサトは正月明けには休暇を取って加持と二人で旅行だからまだいい方で

ある。

ここに名前すら出てこないそれなりに出世した元オペレーター二人は、寂しく

宿舎でインスタントラーメンを啜っていたそうである。


さて、シンジの今日の目的の一つ冬月議長の部屋にやってきた。

アスカも大分疲れぎみのようである。


「アスカ?大丈夫?取りあえずここで最後だから終わったらどっかで休もうね。」

「うん、シンジ。」


そのせりふを耳ざとく聞きつけたミサトは


「ご休憩?正月からお盛んねぇ。」


と、おやじギャグを飛ばす。


「そんなんじゃありません。ミサトさんって・・・。」

「そうよそうよ、まったく慎みってもんがないのかしらね、30超えちゃうと。」


とドアの外でぎゃあぎゃあやってると、中から


「どうしたのかね。早く入り給え。」


と、老境期に差し掛かったしかし落ち着いた声がかかる。

シンジははっとして


「失礼します。」


と言いながらその扉をあけた。

あまり広くない(尤もそう感じるのは、あまりにだだっぴろかったネルフの司

令室と無意識に比べてしまうからかもしれないが)部屋の真ん中にその老人は

いた。


「やぁシンジくん、惣流くん。久しぶりだね。
 おっとこの時期の挨拶は”明けましておめでとう”かな。」


二人は完璧なユニゾンで


「明けましておめでとう御座います、議長(「副司令」)。」


あ!という顔をするアスカ。

にこやかに笑いながら冬月は


「天才アスカくんも、新婚ぼけかな。」


といって笑う。それにつられてシンジとミサトも笑い出す。


「ぶう。」


と口を尖らせるアスカ、さすがにここでキスするわけにいかないシンジは、

肩を抱いてアスカをなだめる。

暫く4人で歓談して、そろそろ冬月が面会に割ける時間もなくなってきたころ。

彼は引き出しから何やらだしてシンジに渡した。


「預かっていたものがそこに入っている。どう処分するかは君に任せる。」

「有り難う御座います、議長いえ冬月さん。」


そう言って立ち上がると深々と礼をするシンジ。アスカも慌てて立ち上がって

シンジにならう。


「それでは、また来ます。」

「うむ・・・気をつけてな。」

「有り難う御座います。」


アスカはシンジに、退出したあと廊下で問いただす。


「さっきのあれはなによ。」

「あれ?」

「しらばっくれないで。何かもらってたでしょ。」

「あぁ、あれか・・・あれはね・・・鍵だよ。」

「鍵?」

「そう、今日どうしてもアスカを連れて行きたいところのね。」

「・・・・・・・。」

「さ、喫茶店にでも入って腹ごしらえしようか。アスカも疲れたでしょ。」


シンジは”この話は取りあえずおしまい”と言う顔でアスカに向き直る。 

喫茶店で十分休んだシンジは携帯でタクシーを呼んだ。


「一寸歩いていくには遠いんだ。今はね。」


このシンジの言葉にアスカはある予感を覚えた。

そしてそれは間違っていなかった。

目の前にあるのは巨大な旧ネルフの正面入り口。


「今は閉鎖されてるんでしょ?シンジ。」


心なしか青ざめた顔でシンジに聞くアスカ。

ここには嫌な記憶が沢山沈殿している。


「うん、そうなんだけどね。マギのサルベージでマヤさんが発令所にいるはず
 だし、それに・・・この鍵があればいつでも何処へでも入れるんだ。」

「ってことはマヤのとこにいくんじゃないわけね・・・。」

「うん・・・・。」

「わ・・・私は嫌!どうして今更こんなとこに潜らなきゃなんないのよ!!」

「シンジ!説明しなさいよ!!」

「お墓参り・・・になるのかな・・・アスカを見せたい人がいるって言うのは
 嘘じゃないよ。」

「・・・・・・。」

「解ったわ、でも今回が最初で最後なんだからね!」

「ありがとう、アスカ・・・。」


アスカを抱きしめて口付けするシンジ。その温かさでアスカの震えも収まって

いく。


「じゃ、入るよ。」

声を掛けてジオフロントへと降りていくVIP用エレベータに乗り込む。

ジオフロントにつくと、まるで何回も着た道のごとくシンジは進んでいく。

程なく司令室にはいると、主のいなくなった机のスロットにカードキーを通す。

すると部屋の一角にエレベータが現れる。


「なに?こんなの有ったの?」


アスカはシンジに問う。


「この中に本当のネルフが有ったんだ。」


厳しい顔をしたシンジがぽつりとつぶやく。


「さ、行こうアスカ。」


再びエレベータで下る二人。その間シンジは厳しい顔をして一言も発しない。

アスカは何度か声を掛けようとするがそのたびに思いとどまる。

エレベータをおりてすこし行くと、崩れ掛けた玄室のようなところに来た。


「ここだよ、アスカ・・・。」

「何にもないじゃない。」

「ここで・・・最後の・・・戦いがあったんだ。」


シンジの顔をみるアスカ。

そのアスカを抱き寄せるとシンジは


「綾波!かあさん!!これが、この人が僕の生涯の伴侶です。
 僕たちはきっと幸せになって見せます。」

「とうさん!!どうだい!!うらやましいかい?うらめしいかい??
 でも人は分かり合える、人は成長できる、
 僕も人の心を判ろうとすることができる。
 そして一緒に生きていって、子どもをつくるだろう。
 そうして人は続いていくんだ!!」

「カヲルくん、ありがとう、君にあえて僕も本当によかったと思う。
 みて僕のアスカを、僕はもう大丈夫だ、
 人はこれからも過ちを犯し続けるだろうけど、
 それでも何もしないより何かしようと思う。本当にありがとう。」


シンジの宣言が虚空に消えていく。

それと同時にシンジは思いのたけをこめてアスカにキスをする、

アスカもそれを受ける。


「シンジ・・・私も・・・あなたのこともっと解りたいと思う、
 そして私のこともっともっと解ってほしい。
 ふたりで一緒に頑張りましょうね。」

「アスカ・・・ありがとう、ね、これ受け取ってくれる?」


取り出したのは、アスカのパーソナルカラー、レッドの石ルビーの指輪。


「今すぐ・・・って訳にはいかないけど、まあ予約みたいなもんかな。」


ちょっと照れたようにシンジはいう。


「ありがとうシンジ・・・喜んで受け取るわ。」


いって、左手をそっと差し出すアスカ。

その左手を恭しく取ってその薬指に指輪をはめるシンジ。

アスカの目にはうっすらと涙が光る。


その涙をキスでぬぐって、細い体を力いっぱい抱きしめるシンジ。



「これからも、宜しく、アスカ。」


「私も・・・シンジ。」








二人の神聖な儀式の立会人は二人自身だが、その誓いが破られることはないだろう。







 



                     おわり




 

 

 

 


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