道標

written by せつ



 

 



本当にほしいのは、あなた。
大切なあなた。
世界で一番大切。

 


私だけを見て。
いっしょにいて。
私だけを抱きしめて・・・・。

 

 

 

 



人類補完計画の失敗。
いや、失敗ではなく、LCLの命の水から帰ってきた人々によって、新たな世界が始まろうとしていた。
最初に世界に帰ってきたシンジとアスカ。


「気持ち悪い・・・。」


と、最初に肉体的接触をこばんだアスカも、今ではシンジといると安らぎを感じるようになっていた。
復興にむけて、世界が動き始めたころ、アスカはが言った。

「シンジ、私、行きたいところがあるの・・・。」

アスカ自身が、シンジに頼みごとを言ってくるのはめずらしいこと。
アスカがシンジに心をひらき、お互い目に見えない絆で結ばれてるとはいえ。
アスカは以前のアスカのままに、プライドは高く、性格もかわってはいない。


どこへ?とは、あえて聞かない。
アスカが行きたいというのなら、いっしょに行こう。
青い瞳をそらすことなく、シンジはアスカの願いにこたえる。



「いいよ。いっしょに行こう。」

 



シンジは、背をむけているアスカの右手を握り締める。
かすかに震えるアスカの身体。

背後からアスカのうなじをみつめる。
肩、腕、腰へ・・・。
視線は無意識にむけられる。
そして、アスカの頬・・。
シンジは握っている手に力をこめる。

「大丈夫だよ。いっしょに行くよ。」

なにが不安なのか。
アスカはまだ語ってくれない。だから、わからない。
でも、そばにいてあげることはできる。見守ってあげることはできる。
背後から、アスカの華奢な身体を抱きしめた。

ビクンッと、アスカが震えた。

シンジはなにもいわずに、ただ、アスカの頭をなでた。金色の髪の流れにそって。
言葉などはいらなかった・・・・・。
必要なのは、、たしかなぬくもり。




シンジとアスカは、ミサトが用意してくれた飛行機に乗って空へと飛びだった。
そして、ついた場所は・・・。



ドイツ。



飛行機に乗っている間、シンジは眠るアスカの手をずっと握っていた。
アスカが寝返りをうつ。


「マ・・マ・・・。」


寝言。



以前、アスカがミサトのマンションに越して来て。
初めて二人だけだった夜。
アスカがはっした言葉と同じ。



ちょうど2年前・・・。
同じことがあったわ。
ちがうのはシンジがいなかったこと。

サードチルドレン。

なんの訓練もなく使徒を倒した噂のチルドレンとして認識をしていただけ。
まだ、会ったこともなくて。
興味もなかった。


私には加持さんがすべてだった・・・・・・ころ。

アスカの夢。


ママ!
私、選ばれたの!
世界を守るエヴァのパイロットに!
だから、私を見て!
私を殺さないでぇぇぇぇ!


でも、ママは私を見てくれなかった・・・。最後まで。
私に見せてくれたのは・・・。
幸そうな死に顔・・・。

どうして生まれてきたの?


どうして生んだの?ママ・・・・。


えらいわね、アスカちゃん。


本当に泣かないのよ。
母親が死んだっていうのに、涙一つみせない。

アスカちゃん・・・。

まだ幼いからよ。

本当にそう思ってるの?


「薄気味悪いのよ。」


私が生きていくためには・・・。
涙はいらなかった。


必要だったのは・・・・・・・・。



なんだったんだろう。わからない

わからない。わからない。わからない。



なんのために私はエヴァにのっているのだろう・・・。
経過は、シンクロ率は順調。
特に問題はなし。
私の存在ってなに?


なにを求めていたのだろう。


「加持さん♪」


なにがほしいのだろう。


「なんだ?アスカ。」

「お仕事は終わりました?」

加持の腕に自分の腕をからませる。
お願いをするように、上目づかいをする。

「加持さん、ちょっといいですか?」


「かまわないよ。」


アスカの腕をふりほどかない加持。


「アスカ、なにもおれじゃなくても、ほかにもっと良い男がいるだろうに。」

「やだなあ、私には加持さん以外の男性なんてクズ同然ですよ。私には加持さんだけなんだから。」


まんざらでもなさそうに、加持はアスカをいっしょに歩く。

「で?俺になんのよう?」

視線をふせるアスカ。

「明日はもう、日本出発だろう?準備とかしなくていいの?」


アスカがからめていた腕を放した。
数歩先に歩く。後ろで両手を組みながら、アスカは加持のことを振り返らずに、
かすれるような声で言った。

「ついきてくれるだけでいいですから・・・・。」

そういうと、アスカは目的地まで無言で加持の前を歩いた。


そして、到着した場所は・・・。


墓地。


「2度と来ないと思ったから。」


アスカはそう言うと、母親の墓の前で止まった。


‘KYOUKO’


墓石にはそれだけが刻まれていた。


「ママが死んでから、ここに来たことなかったんです。私。
 ここにきても、ママがいるわけじゃないのに。
 思い出したくないことばかりを思い出す。
 私の中のママは、いつも私じゃない私を見てたから・・・。」


「アスカ、母親のこと嫌いだったのか?」


アスカは振り返らずに言った。


しばしの沈黙。

「嫌いじゃなかった・・・・と思う。
 だって、私はママに見てほしかった。抱きしめてほしかった。
 好きだったと思う。
 でも、断言はできないの。
 ママを憎んだことも事実だから・・・。」


「でも、私はママが大好きだった。」


アスカは泣いていた。
泣かないと決めたのに。


加持はその辺に咲いている小さな白い花をつむとアスカの前に差し出した。

「アスカ、この花は今を懸命に生きている。
 アスカだって今、生きてる。
 アスカのママはいない。
 それだけだよ。」


その花を受け取るアスカ。


「ママが死んだ時、私はここに私の大好きなママもいっしょに置いて行ったの。
 私だけしかママを愛してあげてなかったから。  
 パパはもう、別の人を見てたもの。」


ここにいっしょに私自身も置いて行った。
泣きむしな自分を置いて行った。
だから、私は・・・。

私は人形じゃない。ママの人形じゃない。
私だけの私。


エヴァにのれば、みんなが私の存在を認めてくれる、誉めてくれる。

だから、乗るの、自分のためにエヴァに乗った。


「どうして、急にこようなんて思ったんだ?」

ドキ・・・。

アスカの胸が高鳴った。


それは聞いてはいけないこと。
でも、あえて、加持は聞いた。自分にはその権利があるように思えて。

初めてアスカは、振り返った。
笑顔で・・・。


「もう、これないかもしれないから・・。ここに。
 だから、確かめに来たの。自分自身を。
 だから、いっしょにいてください。加持さん。ずっと・・・。」

アスカが抱き着こうとしたとき、加持はそれをかわした。

「アスカの相手は俺じゃないだろ?」


誰か、私を抱きしめて。
掴まえていて、離さないで。
いっしょにいて。







あれから2年・・・。
もう、来ることはないだろうと思っていた。
あの時の加持さんの言葉。
今ならわかる気がする。

寂しかったから、抱きしめてほしかったから。
その時は、誰でもよかったのかもしれない。だから、そばにいた加持さんにすがったのかもそいれない。

憧れていたのは真実。

でも、それは憧れであってそれ以上ではないかった。
ね、加持さん?



「アスカ、起きて。着いたよ。」


ドイツに入国して車で1時間半。


アスカが行きたいといった場所。
それは、

墓場。


アスカはシンジの手をとり足ばやに歩いていく。
墓場といっても、墓石は目の前のあるもの1つだけ。



‘KYOUKO’


シンジは墓石に刻まれた名前を見てはっとした。

アスカの実の母親の名前。
以前、アスカが話してくれたアスカの母。


「ママ。」


アスカが墓石に話しかける。


「ママ、私来たわよ。
 私、ママのこと大好きよ。でも、弱いママは嫌いだった。」

アスカの手は震えている。
でも、その震えはおびえからではないとシンジは感じた。



決意



アスカの。


「ママに紹介したい人がいるの。
 ママ、私が誰かに紹介したいって思った初めての人なの。
 碇シンジ。シンジっていうの。
 さえないでしょ?  
 でも、好きなの。私の大切な人なの。
 だから、ここに連れてきたの。」


アスカは一気に言った。
そのせいか、ちょっと息があがっている。肩で息をするアスカ。
シンジはきょとんとしていたが、その言葉を聞いて、アスカの一歩前に歩みでた。 
 

「僕は・・。碇シンジです。
 あなたのことはアスカから聞いています。
 アスカのことは心配しないで下さい。僕がいますから・・・。」

シンジは、一瞬、間をおく。
自然に指先に力がはいる。指先は手のひらにくいこむ。



「僕がアスカを守ります。」



それだけいうとアスカの隣に立つ。
  



本当にほしいのは君。
大切なアスカ。シンジ。
世界で一番。


僕だけを私だけを見て。いっしょにいて。抱きしめて。


離さないで。もう離さないよ。


誰にもわからない。僕らの私たちの絆。


アスカが、シンジがどちらというわけでもなく手をつなぐ。
指をからませて・・・・。
振り返りざま、アスカは言った。



「またね、ママ。」




‘さよなら’じゃないの・・・・・。

 

 

 






THE END


あとがきです。


ほっ(^^)

御待たせいたしました。テンちゃん、さんごさま。
お約束していたssです。(^^;;
遅くなりましてすいません。m(__)m
いや〜。この作品は以前から暖めていたのですが。
親亡くしたことなんてないんで、アスカの気持ちが難しかったです。(T T)
アスカがシンジと未来を歩んでいくために過去と向き合うという設定です。
シンジ主体で書くことが今まで多かったんで、アスカ主体で書くのはやっぱ慣れてないです。
では、また書きますのでよろしく。(^^)/




Byせつ


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