「ねえ、シンジって雪、見た事ある?」

 

その一言から総ては始まった。

 

 

 

そして僕は犯罪者の仲間入りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

或る日或る時突然に(其の壱)
Written by PatientNo.324

 

何故か僕とアスカは飛行機に乗っている。

というか、アスカは僕の横で大口あけて、涎垂らして寝てる。

 

こういう姿、きっと「無様」っていうのかもしれない。少なくとも、同級生の前でやることじゃない…と思う。だらしないよなぁ…
分からなくもないけど。

 

 

 

 

なんで、僕は飛行機に乗っているのか? それも国内便じゃなくて国際便。

謎だ。

 

 

 

たしか、それは昨日の夕方だったような気がする(いろんな事がありすぎてちょっと時間の感覚おかしくなってると思う)。

アスカはリビングでTV見てた。寝っ転がって、ポテチバリバリ食べながら凄くヒマそうに(ずーっと観察してたら欠伸してたのも見られたかもしれない)。

僕は、晩御飯の準備をしていたような気がする。

何を作っていたんだっけ?

 

金平牛蒡に、鱈の酒蒸、あとは付け合せと汁物…純和食。

箸を使うのヘタクソなくせに(なんていったらぶん殴られるだろうから、これは秘密だ)、和食ばっかり要求する。なんでも洋食よりも綺麗になるんだそうだ。

んで、たしか、鱈に塩を振ってるときだったかな。

 

「アンタ、雪って見た事ある?」

背中越しにそう聞かれた。
具体的に誰って指してないけど、アスカの他には僕しかいないから、僕に聞いたんだろう。

「ううん、日本って今はどこも雪って降らないから、見たことないけど、それがどうかしたの?」
手を止めて振り返って答える。

前にこんな感じで尋ねられたとき、振り返らずに答えたらクッションが飛んできた。失礼だから、らしい。確かにそうかも(そのくせご飯が遅くなると文句を言う。だったら自分で作れよなっ! って言ってみたいけど…結果は知れていると思うから僕はそんな無駄な事はしない)。

「あーっ なんでもないなんでもないっ」

凄く慌てた感じ。なんで?

まあ、あまり関わって怒らせたりでもしたら晩御飯が遅くなってきっと蹴りが飛んでくる。僕は酒蒸作りに戻る。

 

アスカはもう何も言ってこない。

 

 

ヒマだったらお風呂掃除とかしてくれればいいのに…するわけないか(手肌が荒れるんだってさ)。

 

 

 

 

 

小一時間くらいでご飯が出来た。

 

「熱いから気をつけてね」

アスカは呼ばれずとも既に席についている。いつも出来上がる頃にはダイニングに来てて、僕を急かす。だったら手伝えよ、と思っているが言わない。

テーブルに並べられた料理は全部で五品。二人分の皿が並んでいるから結構な量かもしれない。四品だと文句が出る。だったら自分でやってみろ。

今日はミサトさんが泊り込みで帰ってこない。初号機がS2機関を取り込んだ所為でかなり大変な事になってるらしい。あの使徒戦のあとは殆ど帰ってきてない。

 

「いっただっきまーっす」

元気な声。凄く嬉しそうな感じで食べてくれる。

ちょっと嬉しいかもしれない。

 

あ、箸からご飯が毀れた。相変わらずヘタだ。親指と人差し指だけで使おうとするから…

 

「なに、人の顏みてニマニマしてんのよ、気色悪い…」
アスカの声に我に返ると、アスカは箸を止め、僕の顏を怪訝そうに見てた。

「あ、ゴメン」
慌てた僕は鰯と海老のつみれが入った澄まし汁を流し込む。凄くヘタなリアクションだな。

 

「アンタ、パスポートは持ってる?」
「は?」

箸を止めたついでだろうな。アスカは尋ねてきた。

「パスポートって言うか…たしか、ミサトさんがネルフのIDって世界で身分証に使えるって言ってたよ」
僕がパスポートを持ってると何かあるのだろうか? 小学校の時の修学旅行が海外だったので持ってるには持っているけど…

「そうだけど…普通のパスポートは持ってないの?」

「持ってるよ?でも何で?」

「あー持ってるならいいのよ、持ってるなら」
アスカは何を納得したのかニマニマし始めた。誰だよ、ニマニマしてると気持ち悪いから(止めろ)って言ったのは…

「アスカ、どうかしたの?」
気色悪いので一応止めに入る。

 

 

 

「明日、雪を見に行くわよ」
高らかに宣言するアスカ。

ブボッ

吐き出す僕。
「汚いわねぇ、何よ、そんなに行きたくないの?」

眉を顰めるアスカ。

いや、行きたくないとかそう言う問題じゃないだろ? 雪は国内では見られないってさっき言ったじゃないか。
だからパスポート持ってるか聴いたのか。いや、だから…

なんとか気を持ち直す僕。

「いや、そういった問題じゃなくて…「じゃどんな問題?」

「使徒とか…実験とか…」

「アンタ、ネルフのために生きてるのぉ? やあねえ、これだから日本人はエコノミックアニマル、なんていわれるのよっ」

いや、それは違うと思うけど…そう言えば、給料、どうなってるんだろう?

「ミサトさんが良いっていうわけないじゃないか、絶対…」

食べ終わったので、お茶を入れる僕。今日は焙じ茶だ。

 

「あら、ミサトなんて関係ないわよ」
何を言ってるの? って口調のアスカ。

「なんでさ、ミサトさん、修学旅行だって許してくれなかったのに」
なのに海外なんて許すわけない。

どうしたんだろアスカ、テンションがちょっと高い。

僕はお茶を自分の湯のみに入れて、一口すする。

 

「大丈夫よ、言わないから」

 

ブバッ

「あーもう汚いわねぇ」
顏にかかったお茶をティッシュでふき取るアスカ。

だから、どうして狙っていうのかな…狙って言ってるでしょ。だってさっきから僕の顏ずーっと見てるし。

 

見てる?

 

 

 

 

なんとなく気恥ずかしい。

 

 

「で、アンタは見たいの?見たくないの?」

 

あ、また見つめてくる。

お願い、目を見つめないでくれる?

なんか、恥かしい。

 

 

「行ってみたい…けど…」
顏が赤くなりそうなので(なったら絶対冷やかされるだろうから)横を向いて何とかそう答える。

 

「よっしっ!じゃあアンタは今からテーブルの片付け。いいわね?」

あ。アスカ浮かれてる? 笑顔に戻った…?

どうなってるのだろう。

 

僕は加持サンが言っていた「女性は向こう側の存在だからな」って言葉を思い出した。

 

 

 

 

ご飯も食べ終わったので、僕は二人分の食器をシンクに持っていく。鍋に入っている汁をミサトさん用のお椀にうつして、んで酒蒸はお皿に移してラップをしておく。

食器を洗って、拭いて、食器棚に片付けて…

 

 

部屋に戻ると、まずアスカがいた。

 

 

僕のクローゼットが全開にされている。床にはパンツとか、Tシャツとかが散乱している…

 

 

「な、なにやってんだよっ!」
僕は床に落ちてたパンツを拾って握り締めて叫んだ。(凄く情けないような気がする。)

 

「何って準備よ準備っ♪」
語尾に音符マークがつくほどノリにのってる感じでアスカは僕の下着を鞄に詰め込んでいく。

 

 ってあのー。

鞄のなか。

僕のブリーフの横に見える薄い水色で、レース模様のそれは…

 

「あー何人の下着みて鼻の下伸ばしてんのよ、えっちぃー」

いや、『えっちぃー』じゃなくて、どうして同じ鞄なの?と思って…

 

「アンタ、冬物って持ってないのぉ?」
僕の下着を一通り鞄に詰め込むとそう尋ねてきた。僕の疑問は無視される運命にあるらしい。

「日本って夏だから、要らないんだよ…」
「それもそうか…ちょっと待ってなさいよ」
一寸だけ考え込むとアスカは自分の部屋にかけ込んでいく。ついて行こうかと思ったけど止めて自分の部屋で待つことにした。

隣からは何かクローゼットから引っ張り出してるだろうって音と、アスカの「んー、これは違う…これはアタシの…」って声が聞こえる。

 

椅子に座って一息つく。

床に置かれた鞄。

 

ファスナーが開けっぱなしになっている鞄からは僕の真っ白なブリーフとアスカの下着が見える。

カラフルだなぁ…ミサトさんのとそんなに違わないくらい派手かもしれない。

それに比べて地味だよなぁ…僕のブリーフって…でもいいなぁ…

 

 

 

 

 

「…あんた、やっぱり…『すけべぇ』よね…」

 

ハッ

 

声に振り返ると、扉口で柱にもたれかかったアスカ。

凄くあきれ返った視線。かなり痛い。

 

僕の手には…
「ご、誤解だよ、つめ直そうと思って…「思って、アタシのパンツ握り締めて弐拾四秒間硬直してたんだ?」

「は、測ってるなんてずるいよっ」

どう、ずるいのかはわからないけど、そう思った。
確かにアスカの手にはしっかりとストップウォッチが握られていたからきっとずるいんだ。

「あんたねぇ…つめ直すのならさっさとつめなさいよ。これでアタシのパンツ握り締めて四拾秒は経過したわよ?」

ずーっと測り続けていたらしい。アスカの溜息が、ああっ視線がとても痛い。

僕は鞄にアスカのパンツを詰め込む。

ああ、凄くバツが悪い…大体ファスナー開けっぱなしにしておいたアスカが悪いんじゃないか…それにストップウォッチだなんて…

 

「まあ、いいわ」
アスカは廊下の方を向いて言った。

 

 

クスッ

 

嘲笑ったっ

今絶対嘲笑ったっ!

畜生っバカにされたっ!!

 

パンツを握り締めてたのは確かに僕だっ

でも部屋にパンツを持ち込んだのはアスカじゃないかっ!!

アスカがパンツを持ちまなければ…

パンツを持ち込んだアスカが悪いんじゃないか!!…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「声、出てるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

へ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それから、ぱんつぱんつって連呼しないでくれる?恥かしいから」

そして僕は死にそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、とりあえず着てくれる?」

アスカの腕には何枚かのセーター(ッて言うのかな?)と、それから今僕に差し出されてるのはコート(でいいんだよね?)。真っ黒で結構丈は長めに作ってある。

「それ男女兼用だし、アタシとアンタ、そんなに背格好変わんないしね。あ、胸囲はアタシの方が上か♪」

だから何故そこで音符マークがつくの?

音符マークではなくクエスチョンマークを頭に浮かべたまま僕はそのコートに袖を通す。

 

「何か…」

アスカの顔色はあまり良くない。

「な、何だよ…」

さっきのパンツ事件を未だに引きずっている僕はどこかおかしいかもしれない。

 

「変質者って感じはしないわねぇ…」
持ってた服をその辺に置いて腕を組んだアスカはまた嘲笑いながら呟いた。

僕は素直には喜べなかった。

「他のも合うかどうかちょっと試してみて。アンタの持ってる服じゃあっちじゃ寒くて凍死するわよ」

「あっちって、アスカ、どこにいくか決めてるの?」

「明日、教えるわよ。それまで考えなさい。クイズよっ」

 

アスカの持ってきた服は僕に問題なく合っていたのでそのまま鞄に詰め込まれた。アスカも僕の部屋に持って来たものを着るのか(ってアスカの服なんだから当然か)持ってきた物が詰め終わったら鞄のファスナーが閉じられた。もうパンツは見えない。

見えないけど、頭の中にはっきりと残っている。手触りとか、色合いとか…
何とも言えない感じがした…

 

ちょっと変な感じがする。だから下着泥棒っているんだろうな。

 

 

 

 

 

「リニアトレインの始発って何時だっけ?」
今度は明日の算段らしい。

「えーっと」
僕は机の上にある端末を立ち上げて回線を繋げる。

「朝の5時10分かな」
「じゃ、明日は四時半には起きるわよ」
「なんでまたそんなに早く?」
「裏をかかなくちゃいけないからよ」

裏、ですか?

「ちょっと替わって」
アスカはシンジの椅子に座ると航空会社のチケット予約ページを開く。一分くらいそのページを見てたかと思ったらすぐに別のページに移る。

何か入力しているのだけど、僕には何処行きを予約しているのかは見えなかったし、なにしてるのかよく分からなかった。

 

 

 

 

「さ、準備はこれで終わったわ。いいわね、明日のあさ四時半起床。寝坊したらコロスからねっ!」

殺されなくても半殺しにはされそうなので僕は素直に頷いた。

 

 

其の壱 おしまい。
其の弐へ続く。


PostScript=あとがき

 はじめましての方、はじめまして、Patient No.324こと患者参弐四号でし。またお読みいただけた方。へっぽこな作品にお付き合い頂き、誠にありがとう御座います。
 このSS、突発的に始めました。
 普段書いてるSSや、散文詩があまりにも暗いのでタマには明るいお話を…と思ってプロット立ててましたが…

 明るいですよ? アタシ的に、かなり(アタシの好みは特殊と言われるがそれは棚に上げておく)。ATFへの投稿を考えて書いた訳ではなかったのですが、『アタシの好みな血糊べったり(<オイ)』なシーンはありません。出てきません。
 何処らへんが本編弐拾話の続きなのかまだ解りにくいかもしれませんが、何卒お付き合いいただければ…(だったら落とすなよ?ヲレ)

 公約では二週に一話のペースで進んでいくと思います。一応全話のプロットは出来上がってるのですが、忙しくなりそうなので、亀な歩みの連載になりそうです(ゴメンなさいm(__)m>TENさん&さんごさん&読者さま)

さーって頑張って続きを…

 

 

Patient No.324 拝 mail
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