udesu「起っきろ----っ! バカシンジぃ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「へぁ?」

 

 

アスカが僕の上に立ってる。

 

 

 

 

 

 

眠い。

 

 

 

 

じゃなくて、寝てたんだよ、僕。

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?」

どうしてアスカは邪魔するのかなぁ…気持ちよく寝てたのに…

いいや、寝よ。

 

 

 

 

 

 

 

起きろってんのよバカっシンジっ!!!!

 

 

 

 

 

布団を剥がれた。寒い。

 

 

 

 

 

目の前にアスカの顔が見える。

でも目が点になっているような…何見てるの?

 

 

 

そのアスカの視線を追う。

 

 

…………視線の先には僕の体。中央。

 

 

 

 

あ、テント。

 

 

 

 

 

えっちばかヘンタイッ信じらんない!!!!

 

 

ぱぁんっ

 

 

ひどいよ、アスカ…

 

 

 

 

 

或る日或る時突然に(其の参)
Written by PatientNo.324

 

 

 

 

 

 

「どんな夢見てたのよ、全く…」
アスカは怒り冷めやらない感じ。

「しかたないじゃないか…生理現象なんだし…」
あれは、体の起動のサインって言うか…端末を起動させたときのビープ音みたいなものなんだから…

 

「それに布団めくったのアスカだろっ!」
眠りを妨げられて、挙句ビンタは酷いと思う。

「ここをどこだと思ってるの、加持さんちでしょ!なのにあんたったらマグロよろしく寝ちゃって、しかも涎垂れて!」

あ、そう言えば、そうだった。

 

「加持さんは?」
「まだ帰ってきてないわ」
「そっか…」

パスポートの偽造とチケットの手配。簡単じゃないんだろうな。簡単に引き受けてくれたけど…

「何か作ってよ、おなかすいた」
アスカは僕の腕(ッて言うか、服の袖)をつかんでせがむ。

なんか子供みたいだな。

「今何時?」
「もう夜よ。今は六時半」

 

朝なんか凄い綺麗な女の人みたいだったのに。

女の子って、変わるんだな…

 

 

「ちょっと、聞いてるの!」
「あ、ゴメン」

もそもそと布団から這い出すと、流しに行って顔を洗おうと思って蛇口をひねる。

 

あ、水が赤い。 錆びてる…

 

暫く水を出しっぱなしにして、冷蔵庫を開けてみると…

 

 

加持さん、生活してるのかな…

この有様を見て、初めてミサトさんの家に行った時の事を思い出した。

あの時冷蔵庫の中にはキムコとビールとおつまみしか入ってなかった。

加持さんのうちにはそれにプラスして、ハムと卵がある。賞味期限は…ギリギリだけど。

流しの下の扉を開くと、醤油と油。あとは米びつ代わりらしいタッパーがひとつ。

 

「これじゃ…なぁ…アスカ、チャーハンで良い?」
それ以外の物を作れと言われたら泣きたくなる。『外に出るな』って言われたから買い物にも行けないし。

「あー何でもいいわよ、急いでねー」
あ、アスカ、僕が寝てた布団に包まって自分が寝てる。

ちょっとムカついた。

 

タッパーからお米を二合計る。ちゃんと軽量カップはある…これもお米を買ってきたときについてきたものだろうけど。

ボールにお米を入れて、やっと透明になった水で研ぐ。

研ぎ汁が或る程度透き通るようになったから、これを炊飯ジャーに…

 

 

「ないじゃないか、炊飯ジャー…加持さん、生活してんのかな?」
ないものは仕方がないので、お米を鍋にいれて、お米と同じ量の水を入れて、コンロに火を点ける。

最初は強火。

 

 

「シンジ! お鍋が吹いてる!火止めなさい!」

あ、アスカびっくりしてる。 アスカの見た通り、鍋の中は沸騰して、煮汁のような、白い泡が吹き出している。

「鍋でご飯をたくときは火を止めちゃいけないんだよ」
「あ、そうなの?」

 

つーか、布団に転がって何してんだよ、アスカ…

 

 

お願いだから視線を僕から外してよ…

 

 

 

 

 

 

火を止めて、お米を蒸らす。その間にハムを小さく切って、卵を溶く。たまたまだろうな、まだ卵が新鮮なのは。

 

でも不思議だな、これだけ台所は汚いのに包丁の切れ味は抜群。ミサトさんちで使ってる包丁よりも切れるかもしれない。ピカピカだし…何に使ってるんだ?

 

 

「へーこんなのでもお米って炊けるんだー」

アスカが鍋のふたを取って、ご飯を見ている。もうちょっと早くふたを開けてたら…怒ったかな、僕。

「そうだよ。おこげが出来るのは仕方ないけど、これはこれで美味しいと思うよ」

「おこげって?」

不思議そうな顔するアスカ。炊飯ジャーじゃおこげは出来ないからな。僕はきべらを使って鍋の中のご飯を混ぜる。と、底の方のご飯が上の方に来る。

「あホント、焦げてる。これはこれで悪くないわね」

つまみ食いなんてお行儀悪いよ…言わないけど(だって蹴られるから)。でもアスカの『悪くない=良い』だから、良かった。

鍋をコンロから降ろし(加持さんちのコンロは一口コンロ)、フライパンをのせて、加熱する。

いい感じに温まってきたら油を引いて、ハムを入れて火を通す。んで、お鍋のご飯を炒める。

 

「アンタ、主夫似合うわよねぇ…」

そりゃほとんど毎日やってたらイヤでもうまくなるよ。全然手伝ってくれないんだから、アスカ…

 

 

すごく複雑な気分。

 

 

僕の横でご飯を炒めているのを見てるアスカ。ご飯がもう一粒一粒バラけてきてる。溶き卵をここで流し込む。卵がご飯に絡んでいく。

胡椒を振って、それから、塩を振って…お醤油を最後に。

焦げていく醤油から香ばしい匂いがする。

 

 

 

カチャっ

「お、いい匂いだな」
「あ、おかえりなさい、加持さん」
「加持さんも食べます?」
「そうだな、俺も何も食べてないからな。それにしてもいい匂いだな」

加持さんにそう言われると何かくすぐったい感じがする。

ちゃぶ台にお皿を3つ並べる。お皿の絵柄も大きさもバラバラ。それに、だいたい量が同じくらいになるように、チャーハンを取り分ける。

食器はというと・・・大きいスプーンは1つ。あとは小さいスプーンがひとつに、お箸。必然的に、アスカ=大きいスプーン・加持さん=お箸・僕=小さいスプーンなんだろうな。

 

なんとなく悲しい。

 

 

ってあれ?

アスカがお茶を入れてる!

 

湯飲みも3つ。

畜生、やっぱり僕の前では気を抜いてるんだ。

 

 

 

 

「いっただっきまーっす!」
「いただきます…」
「んじゃ」

んじゃ、ってなんだろう…でも加持さんが『いただきます』っていうのも合わないかも知れない。

 

「美味いよ、シンジ君」
加持さんは本当に美味しそうに食べてくれる。

「あ、ありがとう御座います」
もしかして、頬が赤くなってるかもしれない。

「むぅ〜っ!」

あ、アスカが不機嫌になった。僕が嬉しいとアスカは不機嫌になるの?

 

「しかし、シンジ君…作り慣れてるな…いつも家事を?」
「ええ、まぁ…」

 

ああ、アスカの機嫌が悪くなる…

 

「そうか…葛城、家事は全滅だからな…」
「ええ…」

 

ああ…助けてください、加持さん…アスカが、アスカの機嫌がぁぁぁぁぁ

 

ちょっとパニックになりそうな僕。涙がでそう。

味がわかんなくなるかも。

 

 

 

 

「アスカ、もういっぱいお茶を貰えるか?」
「あ、はいっ!」

 

あ、機嫌が戻った。嬉々とした感じでポットにお湯を入れてる。

 

アスカがポットに目を向けた隙に僕に目配せをする加持さん。

 

 

慣れてるのかな。さすがって言うか、手慣れているって言うか…

 

 

 

 

 

 

「「「ごちそう様(ぁ〜)」」」

 

 

食器を流しに持って行って洗い始める。アスカは歯磨きをするとかでまた洗面所の方に。

 

 

 

「シンジ君」
「なんです?」

気づくと加持さんが何時の間にか僕の背後にいる。声も小さく、そして何か強張ってる。

「アスカの事、頼んだぞ」
「え?」

「そろそろ、ヤバいんでな、俺も」
「ヤバいって、加持さん…」

 

加持さんが裏でなにかしてたのは、どこかで聴いたような気がする。 スイカ畑で聞いた『アルバイト』のことかもしれない。

「使徒の事は心配しなくていいから、アスカと一緒に行ってこい」

心配しなくていい?

 

「え…どういう「サードインパクトはな、まだ起きない。今はこれだけしか言えないが」

 

そう言って加持さんは僕からスッと離れてちゃぶ台に戻り、新聞を開いた。

 

直後に洗面所の扉が開き、アスカが出てくる。
「どうしたのよ、シンジ、ぼけっとしちゃって?」

「あ、うん」

僕は皿洗いに戻る。

 

僕って嘘がヘタだな…

 

 

「アスカ」
加持さんがアスカを呼ぶ。

「なんです?」
アスカもちゃぶ台の所に座る。加持さんは新聞をたたむと、ジャケットから封筒を取り出す。

「これが、ミュンヘン行きのチケット二枚、それからこっちがパスポートだ。名前と写真は同じ名前になっているが、その他は出鱈目だからな」
「ありがとうございます!」

もう、手に入れてきたんだ。やっぱり凄いな、加持さんって。

 

「ほらシンジ、これがシンジのパスポートよっ!」

振り返るとアスカがパスポートを投げ渡す。

 

洗い物してて手が濡れてるんだけどな、僕…

 

ブチブチ言いながら、パスポートを手に取る。

アスカが加持さんに預けたが返って来たのかな、って最初は思ったけど、でもページを開けて、んで身分証明のとこ見て驚いた。

本当に全然違う住所になってる。

これ、偽造してきたパスポートなんだな。

 

名前は「伊刈シンジ」だけど、住所は山梨県になってる。よく、僕が前に住んでいた所なんて知ってたなぁ…加持さん。

 

 

僕が持ってた本物そっくりだ。どこが偽物なのか全くわかんない。

 

本物はテーブルに置かれているものだろうな。見比べても全然分からない。

 

洗い物が終わったので僕もちゃぶ台のところに行って、『古い』パスポートと見比べてみるけど、どこが偽物なのか分からない。うーん…

「飛行機は明日の…朝ぁ?」

チケットを見せてもらう。

あ、ホントだ、朝イチ。ついでに空港は第二東京。ここから第二って…結構あるような気がする…

 

「空港までは俺が送ってやるから安心してくれ」
「本当ですか? ありがとう御座います!」

アスカの嬉しそうな顔。

 

本当に加持さんが好きなんだな…

 

 

 

あ、なんとなく悲しいかもしれない。

 

 

 

この感情は無視しよう。

 


「ここから第二まではどうやって行くんですか?」
「近くにクルマをおいてあるからな、それを使ってな。4時間ってところか」

と言うことは、明日も早起きか…

「もう少ししたら出るぞ、アスカもシンジ君も着替えてくれ」
「でもまだ夜の8時ですよ?」

アスカの質問はわかる。今から出たらつくのは真夜中、空港で一夜を過ごすの?

 

「そうじゃない、諜報部に気づかれないようなルートを通る必要があるからな。それに食事を取らなくちゃいけないことになるだろうからな、時間を大目に取るのさ」

 

 

空港までの道のり=12時間…疲れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行方不明とは、どう言うことだね?」
冬月副司令の声が部屋に響く。

ミサトは司令室にシンジとアスカが家出した事、そしてその行方をロストしたことを報告に来た。

目の前で思案してるような格好でいるゲンドウの視線が痛い。
前々から痛いと思っていたが、今日は一段と痛いかもしれない。

「今朝方、二人で家を出て、その後郊外無人駅にてロスト、以後は不明のままです…」

胃に穴が開きそうっ
キリキリと痛む感覚がミサトの緊張を加速させる。

「葛城参佐。」
「はいっ!」

ようやくゲンドウが口を開く。開いた口はその格好で見えないが。

「減俸30%6ヶ月。」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

「聞こえなかったのか?」
ゲンドウの声に剣呑さが混じる。
「はいっ!」
慌ててミサトは返事を返すが――ゲンドウの視線がミサトに突き刺さったまま変わらない。
「下がれ」
「はっ! 申し訳ありませんでした!」

何とか敬礼して、退室する。

ドアを出るとすぐに大きな溜息をつく。

 

 

「30%? そんなにカットされたら…」
ビールは呑めない。いや、この程度で済ませてくれたのが幸福だとは思うけど…

「とりあえず、医務室に行こうっと」

きっと胃に穴が開いただろうから。

 

 

 

 

「あら、ミサト。碇司令何て?」
医務室に向かう途中で、リツコに出会うミサト。

「うん、減俸六ヶ月…」
ビールと半年間別れなくてはならないショックは隠し切れないミサト。恐らく無理だが…無理してでも呑むだろう。
リツコはきっとミサトが自分に借金しにくるか、もしくは日向マコトにたかるだろう、といった予測を立てている。

 

「で、シンジ君たちは?」
「ううん、何も…捜索を続ければそれでいいのかなって思ったけど…」
「そう…」

チルドレンが同時に2人もロスト。自発的とは言え、完全にロストしているのだ。拉致されたらどうするのだ。

それに使徒の事もある。レイだけに対処させるのは酷だ。事実、レイは単独で使徒を倒した事はない。サハクイエルの時にしてもシンジが受け止め、アスカがフィールドの中和をしたからこそレイは止めをさすことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初号機パイロットに、それから弐号機パイロットの同時ロスト。どうするんだ?」
冬月も、ゲンドウが何を考えているのか分からない。

ミサトに減俸を言い渡したのはただ単に話を終わらせるためとしか思えない。そんな簡単に済ませて良い事態であるのは自明であると言うのに…

 

ネルフはその開設から現在に至るまで謎が多い。また、国内法が及ばない超国家組織でもある。日本政府にとっては頭の痛い存在でもあり、またそれ以外にも敵対する組織は多い。表向きは別として。

 

「二人の行くところなら想像はつく。それに拉致された報告はない。心配はいらん」
腕を組んだポーズを崩さないゲンドウ。

「しかし、諜報部は完全に見失っているのだぞ? これから何が起きるのか分からん。万が一にでも敵対組織の手に落ちたら事だぞ?」
「問題ない。あの二人は何も知らんのだからな」

そういう問題でもないだろうに。それに何処に行くのか解ってるのならどうしてそこに保安部員を派遣するよう指示を出さない?

冬月の抱く疑問符の数は増えていく。

「使徒はどうする? レイだけでは対処できんぞ?」
この辺りもリツコの危惧するところと変わらない。

「問題ない、ロンギヌスの槍がある」
厭らしい笑みを腕元で浮かべるゲンドウ。隠れて見えないはずだが、付き合いの長さからゲンドウが嘲笑を浮かべている事が冬月には想像がつく。

「あれを使うのか?! 委員会が黙ってはいないぞ!」
「構わん、あんなものがあるから委員会も気楽でいられるのだ。いっそ我々の手の届かない所に送ってしまうべきだよ」
「なっ!」

何故、ゲンドウがここまで落ち着いていられるのか、冬月には理解する事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」
「起きたのか、アスカ。まだ大分かかるから寝ててもいいぞ」

 

 

加持さんの車に乗ってからどれくらい経ったのかな? よく分からないけど。

シンジの洗い物が終ってすぐに加持さんとアタシ達は家を出た。クルマはすぐ近くの駐車場にあった、なんだか凄く古そうなクルマ。ミサトのクルマとそんなに変わらないんじゃないかな?

でも乗ってみたら…うん、ビックリした。
五月蝿いんじゃなくて、振動が。ガタガタって言葉がぴったり来る感じ。フォルクスワーゲンのビートルってクルマって言うらしいけど…『何時の車ですか?』って聞いたら、碇司令とかよりも年上らしい。

なんか、加持さんとミサトの共通する部分を見せられた感じがした。

アタシとシンジは後部座席。助手席に乗りたかったけど、『バレちゃ不味いだろ?』って言葉に従うことにして、アタシとシンジは後部座席で背を低くしていた。

身を低くして、でも楽な格好をしなきゃいけなかったから(12時間もあるから)、シンジに寄りかかる感じになっちゃった。

『加持さんの前なのにぃ〜っ』てちょっとブってみたけど、加持さんは苦笑してくれただけだった。

 

シンジは、寝てる。疲れてんのかな。

 

 

 

「今どの辺りです?」
「ちょうど中間って所だ。あと六時間ってところだな」
窓を全開にして加持さんは煙草を燻らせている。凄く大人の人の匂いがする。

「ドイツのどのあたりに行くんだ?」
あ、やっぱり聞かれた。

「ガルミッシュに…ママの所に…」
「そうか…」

今のママとパパがいるのはミュンヘン。でもパパとママの所には行かないつもり。行きたくない、あそこには。

 

 

加持さん、何か考えてる…

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスカ、俺はアスカの父親にはなれないぞ」

 

 

 

胸が、押し潰されそう。

 

 

 

 

 

でもアタシ、堪えてまっすぐ前を向く。加持さんから顏を逸らしちゃいけない。

 

 

 



凄く辛そう、加持さん。

 

 

 

 

「うん、きっとそうだって分かってた。アタシじゃダメだよね…」

 

アタシは、子供だから、やっぱり。

 

 

 

 

 

 

 

 

薄々、思ってた。ミサトみたくラベンダーの香水はまだ似合わない。大人の女性の下着をつけたって大人にはなれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アタシが加持さんを好きなのは、きっと温かかったから。それに、アタシを壊さないから。

でもそれはアタシに触れてくれない、って意味。

 

 

 

 

 

 

 

 

加持さんはいつかアタシの前からは消えていく。だから、アタシは必死だったんだ。

触れて欲しい、かまって欲しいって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも加持さんにとってアタシは子供以上の存在にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣きそう。泣いちゃいたい。そしたら…

 

 

ううん…

 

 

 

 

「ダメとか、そう言った事じゃないんだよ…アスカ。」
「じゃあどうして…」

 

 

 

「俺の手はもう赤く染まってるんだよ、アスカ…」

「そんなの関係「あるさ。俺の本当の仕事はスパイ、人を裏切ることなんだからな…」

そんな…

 

 

 

どうして今そんなこと言うの?

 

 

 

 

「俺は明るい世界で生きていく人間じゃないんだ、アスカ…」

 

 

 

 

 

 

あ、だめ、アタシの涙腺、緩んじゃダメ。

今泣いちゃダメだってばぁぁぁ…

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンな、アスカ…」

 

 

あ、もう駄目…

 

 

 

アタシ、口元を抑える。

 

 

シンジを起こしちゃいけない。

泣き顔を見せちゃいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメだってばアタシ…

 

 

 

 

 

 

 

胸が割れる。内側から張り裂けてく。

 

 

 

痛くて、押し潰されてく。

 

 

 

 

 

 

体がおかしくなってしまいそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメ…

 

 

 

 

 

 

 

涙腺が言うこときいてくれない…

 

 

畜生、言うことを聞けアタシの体ぁ…

 

 

 

泣いちゃいけないのよ、アタシは…

 

 

 

 

アタシはぁぁぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジ…

 

 

 

 

 

 

起きてる?

 

アタシの頭を抱え込むように。

 

 

 

アタシの頭はシンジの胸の上に…

 

 

 

 

 

胸、温かい…

 

 

 

心臓の音が、聞こえる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温かい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメダッテバ、アタシ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堪えなきゃダメなのよ、だから、止まってよ、涙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、シンジの胸は温かい…

温かかいのよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

だめ、もう止まらない。

 

シンジにしがみ付く。

 

 

涙腺、壊れた。

 

 

 

止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

泣きながら、シンジの胸をアタシは殴り続ける。

 

 

 

 

シンジは黙って、アタシの頭をなで続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其の参 おしまい。
其の四へ続く。


PostScript=あとがき

 はじめましての方、はじめまして、Patient No.324こと患者参弐四号でし。またお読みいただけた方、見捨てなくてどうも有難う御座いますm(__)m。

 さて…フラれましたね、アスカ(爆)<のっけからソレかよ(-_-
 シンちゃん、少し成長しました。リングマスターUで熟練度が3くらいあがった感じでしょうか?(誰が知ってる、こんな古のゲーム)

 途中で人称が変わっているので読み難いかとも思われましたが、展開上致し方ない部分ですのでどうぞご了承くださいませm(__)m

 この部分で書く事というのは少ないのですが…加持さんは、大変ですね。
 つか、EVA本編において、”大人”と呼べたのはこの人だけかな、と思ってますアタシ。ゲンドウは所詮ユイを求めたアダルトチャイルド、ミサトも然り、リツコは、『大人の女性』ですが…あの性格は一種確信犯の知能犯であります(アタシみてぇだな-_-;)。 マヤなんて完全にガキだし、冬月は、犯罪の片棒をしょっている時点で論外でしょう。男性職員二名は情報が少なすぎてなんとも言えませんが…日向はミサトのどこに惚れてたのかはちょっと疑問かも(笑)。人間的には魅力がありますが、上司としては…アタシはあんな破天荒な上司の下には居たいと思えない(苦笑)。

 ああ、全然関係ない話が…とにかく加持さん大活躍の話でした、2〜3話は。やっぱ格好良いよねー、出来るんだけど、それを鼻に掛けない、わざと3枚目を演じてる男性って。まったく性格に問題ない訳ではないですが…いい男だと思います、ええ。抱かれたくはなりませんけど(-_-;

 うーん結局全然関係ないぞ?(汗) 一通り最終話まで上げて浮かれてる場合なのか? 推敲が終ってないぞ? 本当に週一にして大丈夫なのか? バイク磨いてる場合じゃないのかアタシ? つーわけで、また(^o^)丿
 

Patient No.324 mail
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