――暗闇に並ぶモノリス。
彼らもまたこの戦闘を「観覧」していた。
『忌むべき存在のエヴァ、またも我らの妨げとなるか…やはり、毒は同じ毒を以て征すべきだな。』
闇に並ぶモノリス 01 が宣言する。
上空に巨大な輸送機が重なり合うように変体を組んで飛行している。
固定されている物は白い爬虫類を模したような顔を持っている。
「あれが…エヴァシリーズね……」
アスカは空を睨みつける。
アスカは再び電源ソケットを装着させる。コードを狙う砲撃はもうない。
初号機も弐号機の傍へと戻ってきている。
――上空で旋回していたエヴァシリーズは初号機、弐号機を取り囲むように次々と着陸する。
「………アスカ、いくよ…」
「OK…………drei・twei・ein・Gehen!」
アスカはエヴァシリーズに飛び掛りその頭を潰す。そのまま体を担ぎ上げ、他の機体へと投げつける。 吹き出した血に塗れる弐号機。
「erste!」
シンジも真後ろに居た量産機の腕を掴んで投げ飛ばして地面に叩きつけ、頭を踏み潰す。
「2つ目!」
「「ぅああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
弐号機は1機を湖に押し付けその水中でプログナイフを頭に突き刺すが、突き刺さったままヘし折れる。へし折れた刃が弐号機のアンビリカルケーブルを切り落とす。
量産機は手を上にあげ、2,3度痙攣した後に動かなくなる。
「drittes!」
グレートソードに似たソードを振りかぶってきた量産機をかわしてもう一歩踏み込んだ初号機はプログナイフで一体の右腕を切り落とす。
きりもみして落下して地面に突き刺さるソード。そのソードを引き抜くシンジ。
「3つ目!」
「ちぃっ!!!」
留めをさしていた弐号機の頭を別の1機に鷲づかみにされる…が、初号機がその鷲掴みにした腕を切り落とし、返す刃で首を撥ねる。
「4つ目!」
上空からグレートソードを構えて初号機に特攻をかける一体。シンジは後ろの機体を転がしてかわし、ソードを地面に突き立てて止まる。
そのまま地面に降りた機体はアスカに首をつかまれ、へし折られた。
「funftens!」
アスカもグレートソードを奪い取り、地面に擦り付けるようにして振り上げ、手近にいた機体の脚を切り落とし、更に立ち上がった初号機が胴体を斬る。上半身が転がり落ち、下半身は血を噴出しながら倒れる。
「6つ目!」
腹の部分を掴んで持ち上げると肩からニードルガンを量産機の頭部に打ち込む。そして初号機に向けて投げつけると初号機はそれを2枚に『下ろした』。
「7つ目!」
首を握り潰した一機を残った一機目掛けて投げつける。ぶつかり、重なる2機。
「これでラストォォォ!!!」
初号機の腕が手前の1機のコアを貫き、更に後ろの一機のコアを掴み、掴む。皹の入ったコアから血が噴出す。
「アァァァァァァァァァァァァッ!」
更に力を込めるシンジ。
何かに気が付いたようにふと横をシンジが向く。
何処からとも無く飛んでくるグレートソード。
だが、ソードは捩れてゆき、さらに先端が2つに割れる。
「ロンギヌスの槍?!」
シンジの顔が驚愕に揺れる。
だが、シンジがATフィールドを展開するよりも早く―――アスカが槍とシンジの間に割り込む。
「アスカ!?」
どうして、アスカがそこにいるの?
「キャァァァァァァッ!!!」
槍は、弐号機の頭部に突き刺さり、後ろに倒れこむ。
「アァァァー―ッ!!!アァァァー―ッ!!アァァァァァー―ッ!!!!!」
激痛に錯乱したアスカが無我夢中で絶叫しながらレバーをガチャガチャと動かす。
「アスカ、アスカアスカァァァァっ!!!」
シンジは急いで弐号機の傍に走ろうとしたその時――倒した筈のエヴァシリーズが低い唸り声を上げて立ち上がっていく。
ゴキゴキと奇妙な音が…骨を接いでいるかのような音を。 頭部から脳漿と撒き散らしながら。
この光景は発令所でもモニターされていた。
「内蔵電源、終了。活動限界です。エヴァ弐号機、沈黙…」
弐号機の内部電源―活動限界までの時間を示すウィンドウは「0:00:00」を示している。
低い唸り声は、弐号機―この中で唯一S2機関を搭載していない機体…そして操縦者への嘲りにも聞こえる。
「エヴァシリーズ、活動を、再開…」
マヤの声は震えている。
「何だよ、何だよこれぇ!!」
アスカがやられたショックから立ち直る間も与えられなかったシンジの神経は焼き切れる。
そして、シンジが叫んだ刹那。
うめきごえをあげて
つばさをひろげたりょうさんきが
まうえにとびあがって
でもすぐにきゅうこうかして |
弐号機が倒れていた場所はまるでバドミントンの羽根のようにみえる。
めのまえで
あすかが
こわれていく。 |
シンジの瞳孔が異常な収縮をする。
顎ががくがくと、小刻みに震えている。
装甲を引き剥がし、
腹を食い破って、
腸を撒き散らして、
肝を啜る。
肋骨に喰らいつき、
肺を突き破る。 |
初号機に飛び散った血と、肉と体液が降りかかり、紫暗の身体を朱に染める。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
異常シンクロを起こしているためアスカにも弐号機の痛覚が「そのまま」伝えられる。
アスカはお腹を抱えて丸く、縮こまっている…
その腹部は、プラグスーツの下の腹がボコボコと、異常なふくらみを作っている。
「留めを刺すつもりか…」
他人事のように呟く青葉。現実感が何故か沸かないのだろう。
「逃げて、ねぇ逃げてよ、アスカ、アスカ逃げてよ…」
マヤが必死に呼びかけているが…とうに通信機能など破壊されている。
なんで…? どうして…?
なんで、アスカが…壊されなくちゃいけないの… |
「アスカ、アスカアァァァァ!!!」
シンジはその群れに突っ込んでいく。
だが、シンジが突っ込んでいって掴んだのは、弐号機の腸。
「う、うぅぅ」
マヤが床に汚物をこぼす。
「どうした!」
いきなりのことに日向が驚く。
「もう見れません!はぁぁ!見たくありません!」
そう言ってマヤはうつぶせになって泣き出した。
「こ、これが、弐号機?」
代わりに日向が覗き込んだマヤのモニターには、破壊されていく弐号機のシルエットが写っている―ぐちゃぐちゃに引きちぎられ、原型がなくなっていく弐号機…
ガードを引きちぎられ素体が剥き出しにされている。
その鼻はもげ、口を食われ、歯茎が剥き出しになっているが、歯は折られている。
日向もモニターから顔を逸らした。
エヴァシリーズは大きく翼をはためくと、弐号機の腸を銜えて空に舞い上がった。
「アァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
初号機に肉片が落ちてくる。
「殺してやる…」
剥き出しになった弐号機の顔。その眼に光がともり、口を開け…再起動する。
『殺してやる…殺してやる…殺してやる……』
初号機のスピーカーに流れるのは2号機の中の、アスカの声。
「アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカァァァァ!!」
アスカは左眼を抑え、右手をエヴァシリーズに向けて伸ばす…掴み取ろうとするように…
さく。
コミカルとも呼べる音がしてアスカの右手が真っ二つにされる。弐号機の右手にロンギヌスの槍が突き刺さった所為で。
更に、また何処からとも無くロンギヌスの槍が、弐号機に突き刺さる。
手を伸ばしていた初号機に、大量の肉と血がべちゃっと落ちる。
腸の合間から見えた空には、弐号機の眼球――左眼が揺れている。
「うわぁぁぁぁぁぁ―――――!
うわぁぁぁぁ――!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
十字の光が天を貫く。
エヴァシリーズは更に上空へと、弐号機も上空へと運ばれ、円を描くように周回している。
十字の光は左右へと分かれ、4枚の羽根へと変化する……
「まさに、悪魔、か…」
光の十字架の爆風によって外部にあった全ての『物』はなぎ倒された。
背中の装甲が弾け飛び、いきなり出現した光の十字架に磔になる。
そのまま初号機も空中へと吊るされていく。
そして、ジオフロントに向かって飛来した、一筋の光――オリジナルのロンギヌスの槍。
それは初号機の喉元寸前で停止する。
シンジは、完全に放心し、下を向いたままピクリとも動かない……
ただ…
口元だけが僅かに動きつづける。
アスカ、と。
アタシがかえるばしょ。[2]
Writen by Patient No.324
―――ターミナルドグマ、磔にされていたリリスの前…
「お待ちしてしておりました」
今までに見せたことも無い柔和な表情と、そして右手に握られ、水平に上げられた銃口。
ゲンドウとレイがここにきたとき、リツコがLCLの前で座っていた。
「ごめんなさい、あなたに代わり、先ほど”プログラム”を変えさせてもらいました」
表情は柔らかく――微笑むリツコ。
何の表情も浮かべないゲンドウ。
「娘からの最後の頼み。母さん一緒に死んで頂戴」
リツコは白衣のポケットに入れていたリモコンのスイッチを押す。
低い、音と振動。
「ゴメンなさい、娘は母を超えることは出来なかったけど、殺すことは出来たの…」
リツコが破壊したのは、MAGIに搭載されている人工頭脳へと必要な栄養を送るための伝達機構。常時新鮮な栄養と酸素を必要とする脳は、これを失う事で壊死する。
「何故だ?」
「何故?」
リツコの表情が変わる。
「君には失望したよ…」
「失望ですって? 最初から私には何も期待していなかった癖に!」
リツコが銃をゲンドウに向けなおす。
ゲンドウも懐から銃を抜き、引き金に指を掛ける。
――闇の中、12枚のモノリスが円卓を描く。
その声に併せ…
エヴァシリーズの一機が貪っていた弐号機の身体を投げ捨てる。
そして、ロンギヌスの槍が初号機の手のひらを貫く。
そして、更に十字架は上昇していく。
「ゼーレめ、初号機を依り代にするつもりか?」
冬月だけがこの後の展開を知っていた。
『EVA初号機に聖痕が刻まれた。』
『今こそ衷心の木の復活を。』
『我等が下僕、エヴァシリーズは、皆このときのために…』
モノリスの声が奏でるのは歓喜。
エヴァシリースが虹色の円へと姿を変える。
「エヴァシリーズ、S2機関を解放」
「次元測定値が反転。マイナスを示しています。観測不能!数値化できません」
まだ正気を保っている青葉と日向が報告する。
「アンチATフィールドか!」
全てを知っている冬月だけがその謎の答を知ってた。
ジオフロント上空で初号機を中心にセフィロトの樹が描かれる。
「全ての現象が15年前と酷似してる。じゃあ、これって、やっぱり・・サードインパクトの前兆なの?」
マヤ、彼女はそう言ったことまで立ち入っていた。
「S2機関限界」
「これ以上はもう通常の引力では救出なりません」
「作戦は、失敗だったな…」
戦自の、今回の作戦の司令官、と思しき人物が独りごちる。
周囲は次第に赤い光に包まれ、ジオフロントは巨大な火柱に包まれる。
冬月達がいる第2発令所もこの影響を受けずに入られなかった。激震に襲われ、モニターにはEMERGENCYと表示される。
「直撃です。地上堆積層融解!」
「第2波が本部周辺を掘削中!外郭部が露呈していきます!」
外部モニターでは、あらゆる物が吹き飛ばされていっている。
「まだ物理的な衝撃波だ!アブソーバーを最大にすれば耐えられる!!」
冬月、既に彼一人だけが冷静を保っていた。
爆風が波紋のように広がり日本全土を覆っていく。
『悠久の時を示す赤き土の禊をもって…まずはジオフロントを』
『真の姿に…』
爆風によって露呈した地表からのぞく、黒い球体の一部。
「人類の生命の源たるリリスの卵、黒き月…今さらその殻の中へと還ることは望まぬ。…だが、それも…リリス次第か」
「碇君?」
引き金に掛けていたゲンドウの指を止めたのは、綾波レイの一言だった。
「レイ?」
ゲンドウの表情に驚愕が浮かぶ。
「碇君が呼んでる……」
「レイっ!」
ふらふらと歩みだしたレイを止めようと、ゲンドウが腕を伸ばす。
バシッ!
「私はあなたの人形じゃない…」
ゲンドウの腕はレイが展開したATフィールドによって切り落とされた。だが切断面から血は流れない。
「何故だ?」
転倒し、切れた腕を抑えながらもゲンドウはたずねる。
「私は、あなたじゃないもの」
レイは振り返り、宙に浮き上昇していく。
「レイ! 頼む、待ってくれレイ!!!」
「ダメ、碇君が呼んでる」
最早レイはゲンドウを振り返らなかった。
リリスに向かい合ったまま浮遊している。
「レイ!」
「ただいま」
『おかえりなさい』
誰かの声。
リリスの胸にレイが取り込まれてゆき、と融合する。
今までは柔突起のようだった下半身は完全なる足へと変化し、磔られていた十字架から手を引き抜く。
前かがみに倒れこみ、その仮面がLCLへと落下する。
失った右腕を押さえたまま見つめているゲンドウと、結局その傍に駆け寄っているリツコ。
リリスの体はしなやかな曲線を描いていく。
「ターミナルドグマより、正体不明の高エネルギー体が急速接近中」
青葉のコンソールに新しい情報が入ってくる。
「ATフィールドを確認。分析パターン青!」
それを受けて日向が分する。
「まさか…使徒?」
震えていたマヤの顔色は土気色に変わる。
「いや、違う!ヒト、人間です!!」
青葉が叫んだ時、リリスが、もたげていた身体をゆっくりと起こしていく。 本部の中で、その巨体を。
その手が、マヤの体をすり抜けていく。
「ふあぁ……イヤァァァ―――!イヤぁ―――――ッ!!」
マヤは頭を抱えこむ。これは現実じゃない、と。これは夢だと信じたいから。
放心していた シンジの前に出現したのは巨大な少女――
「あやなみ?…レイ…」
リリスと顔を合わせるシンジ。その瞬間リリスが眼を見開き、その孔に過ぎなかった場所に赤い目が生え、初号機を、シンジを見つめる。
絶叫が、響く。
『エヴァンゲリオン初号機パイロットの荒れた自我をもって人々の補完を。』
『三度の報いの時を…今』
リリスを取り囲むように空中に停滞するエヴァシリーズ。
そしてそのATフィールドが波紋のような図形を描き、光を放つ。
「エヴァシリーズのATフィールドが共鳴!」
「さらに増幅しています!」
「レイと同化をはじめたか」
エヴァシリーズで、かつて口だった部分、からレイの顔が生えていき、その全てがシンジに微笑みかける。
それを見て恐怖に顔を引きつらせるシンジ。
初号機が悲鳴を上げ、その胸板にあった裂け目からコアが露出していく。まるで女性器の陰核が露出するように。
シンジも悲鳴を上げ何度もトリガーを引くが、初号機は一向に動く気配を見せない。
その挙動は先ほどのアスカと、滑稽なほどに類似していた。
「心理グラフ、シグナルダウン!」
「デストルドーが形而下されていきます」
「これ以上はパイロットの自我がもたんか…」
その冬月の呟きは、事実を突いていた。
コクピットでシンジはただ、
「もうイヤだ」と呟きつづけている。
今のシンジにとって、心の支えとなっていたのはアスカであり、全てになっていた。
独りの女性が彼の全て――良否に関係なく、全てだった。
それが無くなった時、
どうでもよくなった。
もうイヤになった。
アスカの居ない世界で生きているのも、居ない世界で生きている人々も…
「もう、イヤだよ…」
みんな、しんでしまえ
「もう、イヤだよ…」
何度、呟いたのだろう…
「もう、いいのかい?」
突然のカヲル声に顔を上げるシンジ。
「ここにいたの?…カヲルくん」
涙を浮かべながらも微笑むシンジ。
双頭の蛇のようにリリスの上半身からレイと枝分かれして生えているカヲルが、初号機に手を伸ばす。 気持ちよさそうに、シンジは眼を閉じていく―初号機にロンキヌスの槍が近づき、シンジの心も平穏へと近づく。
「使徒の持つ生命の実とヒトのもつ知恵の実。その両方を手に入れたEVA初号機は神に等しき存在となった。そして今や、命の大河たる生命の樹へと還元していく。この先にサードインパクトの無からヒトを救う方舟となるか、人を滅ぼす悪魔となるのか?…未来は碇の息子にゆだねられたな…」
初号機のコアにロンギヌスの槍が完全に取り込まれ、初号機は樹に包まれ――生命の樹へと還元を果たした。
滴る音。
雫が泉に落ちていく。
ロンギヌスの槍が初号機に取り込まれると、初号機が樹に包まれていく。 ――生命の樹。
「ねぇ、私達、正しいわよね? 間違ってないよね?」
がくがくと青葉の袖を揺さぶり、泣きながらマヤが問う。
だが、青葉は、
「分かるもんか。」
と突き放した。